村上選手の3億円の家~どんな税金がかかる?
今、日本の野球界でホームラン記録の話題を独占する東京ヤクルトスワローズの村上選手。
去年もホームラン王を獲得されてチーム6年ぶりのリーグ優勝と20年ぶりの日本一に大きく貢献し、リーグMVPも獲得されました。
そして、今年は更にそれに輪をかけるような大活躍で、リーグ連覇に貢献しての三冠王〔ホームラン王・打点王・首位打者〕を達成され、そしてなんといっても2年連続の「チームの日本一」への貢献も期待されるところです。
さて、そんな村上選手に、球団のトップスポンサーのオープンハウス社さんが、「神宮球場で56号以降を、一部の例外的なスペース以外に打ち込んだら税込1億円の家をプレゼント」というとても夢のある企画をされました。
そして、見事に10月3日のペナントレース最終戦に56号を放たれたので、1億円の家の獲得が決まりました。
それどころか、三冠王達成を記念して1億円→3億円に賞品がグレードアップとのことです。
と、なると、不動産鑑定士でもある税理士として、気になるのは税金面。
村上選手に限らず、「3億円の家を球団・リーグ以外から貰う」に際して税務上注意すべき点を、読者の皆様が一般の家を購入される時にも応用できるように注意しながら考察してみたいと思います。
■3億円の家を貰う。しかし、所得税等がかかる
基本的に、個人が法人から財産を貰う場合は、例外的な場合を除き、所得税・住民税・復興特別所得税(以下、所得税等とする)がかかると考えてよいでしょう。
個人→個人の場合は贈与税ですが、法人→個人の場合は所得税等の課税対象です。
高年棒の選手であれば、当然、所得税の税率は最高レベルの45%と思われますので、更に住民税等の負担も加えた55%強の税率を課税所得に乗じた税金が増えると考えて差し支えないでしょう。
ただし、何をもって3億円とするかという問題はあります。
即ち、時価が3億円であったとしても、家の内容いかんでそもそも「税務上でも3億円と評価するのか」という微妙な問題点がある他、課税計算上では様々な調整や判断が課されるため、3億円の家をプレゼントと言っても、3億円がまるまる課税所得の増加とは限らないのです。
このあたりは、かなり専門的な判断が必要なため、できれば球団提携顧問税理士を入れて適切なスキームを構築された方がよいと思われます。
ただ、3億円の何割かは税金で持っていかれることは間違いないでしょう。しかも、年俸を考えるに問題はないとは思われますが、税金は金銭で持っていかれるので、一応は資金繰りも注意すべきでしょう。
■税込とあるが、通常は建物には消費税が課される。しかし、この場合は…
土地は非課税です。しかし、建物は課税されます。
で、あれば、例えば3億円で「対価を払って分譲業者から家を購入」したとしても「契約書の中では土地3億円・建物0円」として消費税を回避すればよいではないかとも思えますが、それは許されません。
なぜなら、戸建分譲業者が分譲する際などは、平たく言うと「最低でも、建物を造るのにかかった原価等に基づく合理的な按分額は建物の価格として計上しなさい」と国税庁が規定しているからです。
最低限、建物については消費税を課税しますよ…というものですので、一般の方が住宅を購入される際は、この点は留意すべきと思われます。
もっとも、村上選手の場合は、オープンハウス社さんより「無償で得る」形となり、オープンハウス社さんへは対価を払いません。
消費税が課される場合は、「国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡等および外国貨物の引取り(輸入取引)」です。
よって、限られた情報から判断する限りでは、消費税は考えなくともよいものと推察されます。
もっとも、報道によると、1億円が賞品であった頃にわざわざ「税込1億円」と銘打っていたことから、実際にはなんらかの取り決めに基づく負担が課されるのかもしれません。ただ、その点は当事者でないため筆者もうかがい知れない旨も申し添えます。
■登録免許税と不動産取得税も忘れずに
3億円の家を取得したということは、登記もすることとなります。そうしないと、その家が「その人のものである」との主張ができませんから。
つまり、登記をするということは、登録免許税を払うこととなります。
ただし、新築戸建住宅の建物の登記については、新築の住宅用家屋の所有権の保存登記に該当しますので、課税標準額に対して0.15%と格安の税率(ちなみに、通常の売買であれば税率は1.5%)ですので、それほどの負担はないと思われます。もっとも、土地についてはがっつり課税されますが。
なお、課税標準額は、市場価格とは別の目線で評価するため土地や新築建物の場合は市場での価格よりはある程度は安いはずです。
また、不動産を取得した人には、各自治体(東京23区の場合は都税事務所)より不動産取得税も課されますから、この場合も課されることも考えられると思われます。
■取得後の税金もある
不動産を所有する人には毎年、固定資産税や都市計画税(23区の住宅地の場合は都市計画税もある)が課されますので、その負担も忘れてはならないでしょう。
■総括
以上、村上選手に限らず、「プロスポーツの選手が不動産を球団・リーグ以外から貰う」に際して税務上注意すべき点をまとめてみました。
3億円の家を貰っても、意外と税負担が大きいので、「純粋な実入り」はかなり削られるのです。
立地や建物の内容は村上選手とオープンハウス社さんとの間の協議で決まるとのことですが、一人のファンとしては変なところで税金の問題を起こして快挙に水を差されても…と思います。
ですので、願わくば球団提携顧問税理士なども交えて、所得税等の判断に迷いがちな部分の税務上の危険を回避しつつ、より専門的な見地からの判断をしていただきたいと思います。