Yahoo!ニュース

「令和4年4月19日最高裁判決」から4カ月 ~相続税をとられすぎないようにするためには

冨田建不動産鑑定士・公認会計士・税理士
相続税申告書のイメージ(氏名・財産額等は架空/筆者が申告ソフトで作成・撮影)

4月19日、衝撃の相続税最高裁判決から4カ月が経過しました。

要するに「相続税申告上は、本当の時価より割安な相続税路線価等の価格を悪用して、税逃れの意図で亡くなる直前に無理やりたくさんの不動産をこさえた場合は本当の時価(鑑定評価額)で相続税を課すよ」という判決です。

ただ、判旨があいまいだったこともあり、あちこちで相続税の心配をされる方から不安の声が。

今日は、そのあたりをまとめた内容をお話しできればとおもいます。

■一般の方から頂いた質問

Q1 自分の親は20年以上も前に取得したマンションを持っているが、マンションは全部、時価評価になるのか?

A  違うと考えられます

先の判決では、相続が発生しそうなご高齢の老人が無理やり借金をして沢山の賃貸マンションをこさえてから旅立たれ、相続税の申告となりました。

あの判決は、「本来であれば賃貸マンション等を購入する必要がないのに無理やり購入し、意図的に相続税路線価等の評価額を低くして節税を試みた」ことが税務署の怒りに触れたのだと思われます。

ご質問のケースの場合、20年以上も前の取得であり、当時はまだ相続発生は遠い先だったと考えられます。余程のことがない限りは、そこに税逃れ(専門的には租税回避行為と言います)の意図がないと言えるので「不動産鑑定士の鑑定評価額に基づく時価での課税」で「相続税が増える」ことはないと思われます。

Q2 高齢の親が借入して不動産を購入しようと思っています。相続税上はどうなると考えられますか?

A  相続税路線価による評価額の否認の危険が高いので、税理士と慎重に相談の上で判断すべき。

判例を見るに、借入をしてまで不動産を購入した点も指摘されています。

この点を勘案するに、高齢の親が借入をして取得した不動産を相続税路線価等で申告することは否認の危険が高いと考えられますので、そのような意図での不動産取得は税理士と相談の上で慎重に考えるべきでしょう。

Q3 ほかに自分たちが同じ轍を踏まないために注意すべき点は?

A  例えば、以下の①~③を注意すべきでしょう。

① その不動産を購入することに、税逃れの要素がないかを注意する

合理的に「税逃れではない」ことを説明できないときは危ないでしょう。

② 銀行にそそのかされないように

銀行にとっては「借入をしてでも不動産を買ってくれた方が、自分たちの商売に有利」ですから、銀行は税務的なリスクを無視してでも薦めるでしょう。

個人的には、銀行や、銀行が紹介する士業の意見は、こと相続対策の場においては要注意と思っています。この点については、いずれ別の機会を設けて説明したいと思います。

③ 実態を意識する

この判決の例ではどうだったのかは存じ上げませんが、個人的には「賃貸マンションの経営実態がどうであるか」もポイントと思います。

つまり、購入者が「自分で経営している」のであれば名実ともに賃貸マンションの所有者と言えますが、実際の賃貸管理がその子供たちであった場合、税逃れの意図は比較的否定しにくいかと思われます。ですので、実際に誰が賃貸経営をしているかも意識すべきでしょう。

Q4 万が一、税務署に疑われそうな不動産売買があったときは、どうすべき?

A  変に税理士に隠したりせず、全てを税理士に話しましょう。その上で、その税理士に判断を委ねることが適切と考えられます。

税理士の側も不利な要素を申告前に把握できれば、それなりの理論武装ができる場合があります。また、例えばいったんは不利な申告をしておいて更正の請求(取られすぎた税金を返すことを税務署に求めること)をするなど、他の手立ても考えられます。

一番まずいのは、一般の方が素人の判断で味方である筈の税理士にまで隠匿することです。そうならないためにも全てを税理士に開示することを推奨します。

Q5 遺産争いの際に「相続した不動産」の鑑定評価書を取得しました。鑑定評価額が判明しているので、相続税申告も鑑定評価額に依拠しないとダメですか?

A  税逃れの要素がない限りは気にしないでよいでしょう。

遺産争い用など、別の目的のための鑑定評価書があって、「相続した不動産」の鑑定評価額が判明していたとしても、相続税申告用の鑑定評価書ではありませんし、そのような義務はありません。

そもそも、鑑定評価書には「鑑定評価の目的」が書いてあり、目的外利用をした場合、下手をすればその不動産鑑定士から訴えられます(実際に訴えたという話は聞いたことはないですが)。

ですので、税逃れの要素がない限りは気にしないでよいでしょう。

※参考~ 税理士向け注意事項

https://career.jusnet.co.jp/tax/tax_04_03.php?fbclid=IwAR1vcmTl9JhScanZs6Re3Thd5aUeOtaRFtr24Z5P_Jav61yhVusAzk40VVA

■最後に

今回の裁判の鍵は、「税逃れ」は課税するよとした点です。

「税逃れ」として判決それ自体のロジックの問題点は前回の記事に書いた通りですが、少なくとも幅広い「親御さんの相続問題を抱えている方」には、「税逃れであるか否か」というキーワードをご記憶いただければと思います。

不動産鑑定士・公認会計士・税理士

慶應義塾中等部・高校・大学卒業。大学在学中に当時の不動産鑑定士2次試験合格、卒業後に当時の公認会計士2次試験合格。大手監査法人・ 不動産鑑定業者を経て、独立。全国43都道府県で不動産鑑定業務を経験する傍ら、相続税関連や固定資産税還付請求等の不動産関連の税務業務、ネット記事等の寄稿や講演等を行う。特技は12 年学んだエレクトーンで、平成29年の公認会計士東京会音楽祭では優勝を収めた。 令和3年8月には自身二冊目の著書「不動産評価のしくみがわかる本」(同文舘出版)を上梓。 令和5年春、不動産の売却や相続等の税金について解説した「図解でわかる 土地・建物の税金と評価」(日本実業出版社)を上梓。

冨田建の最近の記事