〈歌の力〉を見せつけた〈NHKのど自慢〉は恐るべし!

〈歌の力〉とはこういうことなのだ、ということを再確認する出来事があった。

3月20日(月)の夜、たまたまテレビをつけると〈NHKのど自慢チャンピオン大会2017〉をやっていた。何気なく見ているうちに思わず引き込まれてしまっていた。

なぜか?それは14組の出場者の歌が思ったより良かったからだ。はっきり言って〈NHKのど自慢〉はたまには見るが、素人さんがカラオケ大会に出ているなというくらいの認識しかなかった。しかし、毎週決まるチャンピオンの中から選りすぐられた14組ともなると、なかなかレベルが高いのだ。

NHK〈のど自慢〉とテレビ東京〈THEカラオケ☆バトル〉の違いは何か?

最近、〈のど自慢〉というと、テレビ東京系の〈THEカラオケ☆バトル〉が注目されている。こちらはプロ、アマ問わず、歌自慢の人たちが出場して、カラオケ採点器が採点をしているので、ガチンコ勝負と受けとめられているようだ。確かに、誰が勝つかわからないというところが受けているようである。しかし、この番組を見ていて私が常々感じていたことは、これは〈歌の力〉ではなく〈歌い力〉を競っているのではないか、ということだ。

採点器で高得点を取るということは、確かに歌が上手いということ。これは確かなことだが、歌が上手いからといって、人を感動させられる歌とはかぎらない。採点は低くとも、聴き手のハートを鷲づかみにしてしまう歌もある。だから、歌が上手いからと言って、たくさんの人たちを感動できるとはかぎらないのだ。

いい曲、イコール、いい歌ではない。いい曲はそれにふさわしい歌い手に歌われてこそ初めていい歌となり、たくさんの人々の心をつかむのだ。これは私の持論だが、だからこそ、上手い歌い手と味のある歌い手は違うのだ。上手い歌い手は圧倒的な歌唱力で聴き手を驚かすことはあるが心をつかむことはできない。一方、味のある歌い手はハデさはないが聴き手のハートを一瞬に奪ってしまう説得力がある。

〈THEカラオケ☆バトル〉には歌の上手い少年少女たちがたくさん出ている。が、しかし、である。確かに歌は上手いのだが、胸にぐっとくるものが足りない。フィギュア・スケートのジュニア選手権を見ているのと同じ感覚だ。確かにジャンプの回転の技はすごいが、シニアのような華麗さなど表現力がない。これこそがテクニックではなく“芸術点”なのだ。同じように、カラオケ採点器は、“歌の芸術点”をはかることはできない。歌の芸術点、換言すれば、〈歌の味〉で、これこそが歌にとって命綱なのだ。

歌を上手く歌う人をセレクトする〈THEカラオケ☆バトル〉は〈歌い力〉を競う〈のど自慢大会〉である。一方〈NHKのど自慢〉は、審査員が選んでいるわけだから、必然的に〈歌の味〉を評価することになる。どちらがいい、悪いは別にして、〈THEカラオケ☆バトル〉は〈スポーツ〉的、〈NHKのど自慢〉は〈芸術的〉ということだろう。

〈歌い力〉よりも〈歌の力〉の方が強い!

〈NHKのど自慢2017〉のグランド・チャンピオンに選ばれたのは、北海道幕別町出身の19歳の大場悠平君だった。歌った曲は中島みゆき作詞作曲の「化粧」(清水翔太バージョン)。とにかく、歌に味があった。思わずぐっとくる説得力は抜群である。彼はこの歌を、共に夢に向かって頑張っていた親友のために心をこめて歌った。その親友は志半ばにして不慮の死をとげてしまった。その親友のぶんも自分は生きなければならないと大場君は心に決め、親友のために歌う、という“熱い想い”が曲に命を吹き込んだからこそ、「化粧」は大場悠平君の歌になったのである。いい曲が、それにふさわしい大場君という素晴らしい歌い手にめぐり逢えて〈いい歌〉になった瞬間だ。これぞ〈歌の力〉ではないだろうか?〈NHKのど自慢〉、恐るべし!である。