“サテライト・ポップス”系・wacciの「東京」は珠玉の〈文芸ポップス〉である!

東京出身アーティストと地方出身アーティスト?

アーティストは大きく2つのタイプに分類される。東京出身アーティストと地方出身アーティストである。東京出身アーティストに共通する傾向としては“洗練されたサウンド”

というものがある。洗練されたサウンドとは文明の象徴であり、都会らしさを示している。

一方、地方出身アーティストは、あえて差別化を強調するために“対・東京”を念頭においている。つまり、東京出身アーティストにはない“特産物的価値”を付加しているのだ。すなわち、東京出身アーティストが“土地柄”や“その地方の特徴”を意識することがないのに対して、地方出身アーティストは、東京を意識するあまり、逆に“土地柄”や“地方の特徴”を打ち出すことにこだわりを持つのである。

サテライト出身アーティストとは?

サテライト出身アーティストは、東京出身アーティスト、地方出身アーティストの中間に位置している。これは両方の良さをあわせ持っているというメリットがある。特に音楽性においては、時代の先端を行く洗練された音楽性、スタイルと、地方的アイデンティティーの両方を兼ね備えている、ということだ。

サテライト系アーティストには、どこか田舎臭さや人情を残しつつも都会的な音楽に対抗できる個性がある。それは彼らが育った環境にあるのではないだろうか? 東京都下や千葉、埼玉、神奈川などは都会であって、まだ田舎臭さの残る街。ちょっと足をのばせば移り変わりの早い都会の殺伐とした刺激のある空気に触れることができるし、地元にいれば人間的な生活もできる。

都会にいると情報があふれていてまわりが見えなくなってしまう。しかし、サテライトな人たちは都会で刺激されたことをいったん家に持ち帰り、自分なりに昇華する時間を持つことができる。しかも、それを何度も繰り返すことができる。そうすることで都会で受けた刺激の数々が別の形で形成され、洗練されつつもどこか田舎臭い人間味あふれる独特の音楽へと昇華されるのだ。

サテライト系アーティストの代表格は、いきものがかり! そしてポープはwacci!

都会の音楽はファッションと強くつながっているが、サテライト・ポップスは心とつながっている。だからこそ、心と心をつなぐ“絆”が必要とされる今の時代にこそ必要とされているのではないだろうか? その証拠に〈サテライト・ポップス〉系アーティストが現在注目されている。その代表格は、いきものがかりだ。吉岡聖恵は神奈川県厚木市出身、水野良樹、山下穂尊は同県海老名市出身でまさに条件を満たしている。他にも埼玉県桶川市出身のゴーイング・アンダー・グラウンド、埼玉県草加市出身のハックルベリー・フィン、神奈川県相模原市出身のキンモクセイ(活動休止中)などがいる。いずれのバンドもオリジナリティーにあふれていて独自の世界を確立している。だからこそ、そんな〈サテライト・ポップス〉系アーティストの“ホープ”はいないものかと探していた私のアンテナがキャッチしたのがwacciの「東京」(TBS系月曜ミステリーシアター『隠蔽捜査』主題歌)である。この歌を聴いたとき、これぞ私が求めていた〈サテライト・ポップス〉だと思った。ここに描かれている東京は地方出身者が憧れる花の都・大東京でもなければ、最先端のファンキー・シティでもない。その中で暮らす男と女の生活の街としての東京が描かれている。東京の喧騒を聞きながら「君の目に映る東京」、つまり、2人で作り出す理想の生活の場所としての東京を表現している。私たちはこの曲を聴きながら、自分の頭の中のスクリーンに自分なりの理想的な東京をイメージしているのだ。おそらくそれは、まさに東京・青梅市というサテライト出身の橋口洋平がイメージしている理想の東京像ではないだろうか。

「東京」の魅力はリスナーの頭の中のスクリーンに映像を浮かばせる不思議な力を持っていることだ。それは橋口の文学的センスによるところだが、と同時に、自分が頭の中で描いている空想の理想郷にたくさんの人たちを引きずり込んでしまう説得力もあるようだ。「君の目に映る東京」とは私たちが望んでいる東京でもある。そんなことをふと考えさせられるwacciの「東京」は珠玉の〈文芸ポップス〉と言っていい。