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中国ゼロコロナ対策で見えたちょっと悲しい格差の実態

富坂聰拓殖大学海外事情研究所教授
(写真:ロイター/アフロ)

 中国で新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の拡大が再び深刻化している。感染対策を担当する当局の慌てぶりは武漢をロックダウンした当時にも匹敵するという。

「ここを一つの正念場と考えていることは間違いないでしょう。なかでもピリピリしているのが学校です。6月に大学受験を控えた高校では、親から『感染対策を責任をもって行う』という念書まで取ったほどですから」(北京の会社経営者)

 興味深い変化もある。外国メディアで多用されながら中国自身はこれまでほとんど使わなかった「ゼロコロナ」という表現が、政府の口から発せられるようになったことだ。

ただ中国が使っているのは「動的ゼロコロナ」という表現だ。わざわざ「動的」をつけている理由は、「感染者を全く出さないというわけではなく、感染者を発見したらすぐに封じ込め、大規模な感染再拡大のレッドラインを超えないようにする」という意味なんだとか。要するに、小火のうちに消火してしまえ、という方針なのだ。

 実際、感染者が発見されるやすぐに隔離し、一帯を閉鎖し大規模なPCR検査を行うという流れはずっと変っていない。スマートフォンのデータを活用して濃厚接触者をトレースすることも同じだ。

 移動記録から広く網をかけ、素早く濃厚接触者を割り出すやり方には定評がある。今年1月には、医者の処方箋を持たず風邪薬を買いに来た男性の自宅に、間もなく衛生当局の職員が表れ男性を驚かせたというというニュースが話題となった。

濃厚接触者追跡で明らかになった労働者の過酷

 また旧正月前後の中国では、徹底した感染宅によって思わぬ社会の歪があぶり出されるというニュースが全国の注目を集めた。舞台は首都・北京。一人の労働者が新型コロナに感染したことがきっかけだった。

 その男性(44歳)はいわゆる無症状感染者で職場の検査で陽性が明らかになった。そうなれば当然、彼がたどった足取りを細かく追うことになるのだが、そこで明らかになったのが男性の過酷な就労状況だ。その過密ぶりに衛生当局の職員たちは思わず深いため息を漏らしたという。

 北京の夕刊紙記者が語る。

「驚いたことにその男性は、過去18日間で28の日雇いの労働を行っていたのです。農村から出てきて、各所で短期の仕事をもとめて転々と移動を続けていたのです。仕事の中身もバラバラで、ホテルの従業員から劇場、別荘地、街の清掃、ショッピングセンター、郵便局と実に幅広かったといいます。また労働時間は概して長く、なかには深夜(午前5時)にまで仕事が及んだケースも確認されているのです」

 男性のニュースが流れるや、中国のSNSには憐れみと同情の声があふれかえった。

 普段は山東省で漁師をしている男性は、北京で行方が分からなくなった息子を探す目的もあり転々としたと説明されたが、一方で地方から働きに出てきた人々の事情は「概ねこんなところだ」という書き込みもSNSには多く見つかり、騒動によって労働者の過酷な実態が広まった。

 コロナがもたらした思わぬ副産物だ。

深圳では365日の有給休暇

 さて、このような労働者の厳しい状況の一方で、中国都市部からは相変わらず景気の良い話も聞こえてくる。

 同じ春節を迎えようとするころの中国で、人々の注目を集めたもう一つのニュースだ。

1月27日付『九派新聞』が報じた記事「特賞『365日有給休暇』を引き当てた男性社員 その確率は70分の1 社長は『数十万元分の現金と交換可能』と語る」によれば、深圳市にある某企業の忘年会で「一年分の有給休暇」という景品が出されたというのだ。

景品を引き当てた幸運な社員は男性で、会社ではセールスを担当し営業成績も悪くなかったという。

だがその男性社員は当初、本当にそんな有給がもらえるとは信じられず、後日わざわざ社長を訪れて確認したという。社長は有給を確約しながら、「この有給は数十万元の報酬とも交換できる」と話したという。

それにしても社長はなぜこんな大胆な景品を用意したのか。

記事によれば社長は、「コロナ禍でもみんなが頑張っていて、少しでも希望が持てるような景品を出したかった」と答えたという。

広東省での景気の良い話が話題を集める一方で、地方から都市に出てきた労働者たちの境遇は相変わらず惨めだ。

こんな構図が固定化されているのだとすれば、やはり「共同富裕」は必要なのだろう。

拓殖大学海外事情研究所教授

1964年愛知県生まれ。北京大学中文系中退後、『週刊ポスト』記者、『週刊文春』記者を経て独立。ジャーナリストとして紙誌への寄稿、著作を発表。2014年より拓殖大学教授。

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