Yahoo!ニュース

日本代表快挙の裏側で、ABEMAが成し遂げたW杯中継民主化の破壊力

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
日本代表とABEMAの快挙が続いています。(写真:ロイター/アフロ)

ドイツとスペインというW杯の優勝候補を立て続けに撃破した日本代表の快挙の余韻がまだ続いている中ですが、ABEMAがW杯中継においても様々な快挙を達成し続けているのをご存じでしょうか。

ドイツ戦の放送日だった11月23日の1日の視聴者数が1000万人を突破して開局以来の史上最高を記録したと発表したのもつかの間、11月27日のコスタリカ戦では1日の視聴者数が1400万人を突破と発表。

さらにスペイン戦も午前4時という深夜の放送にもかかわらず、藤田社長が過去最高視聴を更新しましたとツイートして話題になりました。

参考:日本の歴史的勝利がABEMA史上最高視聴数を更新 早朝の快挙に藤田晋氏「言葉もない」

当然、日本代表戦はABEMAだけでなく地上波のテレビ局でも放送されていますが、ABEMAの本田圭佑さんの解説がツイッターを中心に話題になるなど、大きな注目をあびており、ABEMAがスマホやパソコンで視聴できることも認知が拡がるなど、ネットテレビであるABEMAが今回のW杯で大きく存在感を増したのは間違いないと言えるでしょう。

ただ、実は、今回ABEMAが引き起こしているW杯中継における最大の変化は、もう一つ別の点になることが明らかになってきました。

それが「W杯中継の民主化」です。

ABEMAならW杯の動画つきでツイート可能

ABEMAには、もともと番組にコメント欄がついており、番組を見ながら多くの視聴者がたくさんのコメントを投稿していることでも有名なのですが、実はこのコメント欄はツイッターアカウントと連携してコメントをツイッターに投稿することができます。

もともとは、ABEMAに投稿したコメントをツイッターにも同時に投稿することで、視聴者のツイッターのフォロワーにABEMAに興味をもってもらうため実装された機能のようですが、現在はこの機能を使うとABEMAの番組を12秒ほどの動画として切り出してツイッターに投稿することができるようになっています。

つまり、今回のW杯でABEMAのツイッター連携機能を使うと、誰でもW杯の試合の一部動画を、ツイッターに自在に投稿することができるようになっているのです。

これは、明らかに日本のW杯中継において、非常に大きな革命が起きたといえます。

ネットではスポーツ中継が見られない時代からの進化

従来、W杯やオリンピックなどのスポーツ中継の放映権は、テレビ局がテレビCMなどの収益のために購入することが多い関係もあり、ネットでは映像が見られないというのが普通でした。

そうした流れが日本でも変わりはじめたのは2018年の平昌五輪でのNHKのネット同時配信の試験提供からでしょう。

その同じ年の6月に開催されたロシアW杯では、NHKが地上波で生中継する32試合をスマホでライブ試聴できるアプリをリリース。

参考:NHKのW杯アプリが切り拓くテレビ局とスポーツ中継の新常識

同大会では、長友選手や本田選手が積極的にツイッターを活用し、オフィシャル写真をツイートしたことでも注目されました。

この頃から、ツイッター上でオフィシャルなスポーツの動画や写真をみるのは珍しくなくなってきたと言えるでしょう。

参考:サッカー日本代表のツイッター事情がブラジル大会から4年で激変していた

その後、2019年に開催されたラグビーW杯では、ラグビーW杯の公式アカウントが、テレビ中継の最中に数分遅れでハイライト動画をツイートするという画期的なツイッター活用を披露し、ラグビーW杯の盛り上げを加速することになります。

参考:ラグビー日本代表のツイッター活用に学ぶ、テレビとSNS連携の理想型

こうしたメディアによる公式映像のネット配信や、チーム公式による迅速なSNS投稿は、東京オリンピックにおいて、普通の行為になるのは皆さんもご存じの通りです。

参考:東京五輪は「スマホ」とテレビが本格的に融合するオリンピックとなるか

この4年ほどで、スポーツ中継におけるネットやSNS活用は、日本でも劇的に進化したと言えるでしょう。

誰でもW杯中継が可能に

ただ、ここまでの変化は、あくまでメディアやチームサイドの公式アカウントがネットやSNSを迅速に活用するようになったという変化であり、視聴者やファンはあくまでその投稿を見る側というのが現状でした。

それが、今回のABEMAのツイッター動画投稿の仕組みは、メディアや専門家だけでなく、1視聴者を一気にW杯中継の主役にしてしまう、文字通りの「W杯中継の民主化」を成し遂げてしまったのです。

もちろん、これまでも、サッカーW杯やオリンピックのようなスポーツ中継で、視聴者が自分でテレビの映像をスマホで撮影したり、パソコンで動画キャプチャした動画をツイッターに投稿しているものを見ることはありましたが、本来それは著作権者が著作権違反と考えれば訴訟対象になる可能性が強い行為でした。

ただ今回はABEMAがネットにおけるW杯の配信権を持っている関係で、ABEMA経由で12秒程度の動画であれば、ユーザーに動画を共有する機能を開放しても問題ないという英断をくだしたようです。

それにより、ABEMAのツイッター連携機能を使えば、メディアや解説者はもちろん、一般の視聴者も、自分が印象にのこったシーンをツイッターに胸を張ってシェアすることができるようになったのです。

1試合ごとにツイッター連携機能の認知がアップ

実際に関連のハッシュタグを追ってみると、特にネットメディア系のサッカー媒体が、こぞってこの動画機能を使っているのが非常に印象的です。

実は、ABEMAの中継は、地上波に比べると30秒程度のタイムラグがどうしても発生します。

ただ逆にそれを逆手にとると、地上波とABEMAで同時に試合を観戦し、地上波でゴールシーンなどの大事なシーンを先に確認し、そのシーンがABEMAに流れるタイミングでツイートをする、という形で重要なシーンの動画を自らのツイッターアカウントに全て投稿することができてしまうわけです。

これまでオフィシャル素材の公開を待つしかなかったネットメディアからすれば、このABEMAの動画ツイート機能は、絶対に使うべき機能になっていると言えるでしょう。

また、さらに興味深いのが、このツイッター連携機能の認知が、日を追うごとに拡がっている傾向にある点です。

実際に、この機能を使った動画ツイートと思われる投稿の数の推移を見ると下記の通り。

(出典:Yahoo!リアルタイム検索 ABEMAの動画ツイート数推移)
(出典:Yahoo!リアルタイム検索 ABEMAの動画ツイート数推移)

ドイツ戦が開催された11月23日は9099件で、コスタリカ戦の11月27日には11,331件のツイートがされており、それ以外の日も海外の試合を元にツイートがされているのが分かります。

そして圧巻なのがスペイン戦が行われた12月2日のツイート数。

(出典:Yahoo!リアルタイム検索 ABEMAの動画ツイート数推移)
(出典:Yahoo!リアルタイム検索 ABEMAの動画ツイート数推移)

ハッシュタグがこの試合だけ特殊なハッシュタグに設定されたため、上記のグラフと連続性はないのですが、午前4時のキックオフだったにもかかわらず、前の2試合を上回る13,939件のツイートが生み出されているのです。

これは、これだけのツイッターユーザーがミニW杯中継局として、ツイッター上に動画でW杯の様子を紹介していたことを示していますし、ABEMAの連携機能の認知が拡がれば拡がるほど、そのW杯中継局が増えていく可能性を示しているわけです。

ABEMAにしかできない本当のテレビとネットの融合

実際にツイートを見てみると、主立ったサッカーメディアやサッカー解説者の方はもちろん、フォロワーがそれほど多くない一般の方のツイートでも、数万や数十万再生の動画が多数存在しており、確実にツイッター上でW杯の試合の認知を拡げていたことが想像できます。

中には上記のGOAL Japanの長友選手のインタビュー動画のように、260万再生を超える動画も生まれているのです。

従来のテレビでも、ある程度SNSへの写真投稿を許容したケースはありますが、W杯中継の動画自体をアプリの機能でオフィシャルに切り出すことができるというのは、ネットテレビであるABEMAにしかできない真のテレビとネットの融合の機能と言えます。

このツイッター連携機能によって、様々な動画がツイッター上に生み出されることで、従来ではありえないほどの様々なシーンがツイッター上で注目され、話題になる結果につながっています。

日本は世界でも有数のテレビを見ながらツイートする視聴者が多い国だと言われてきましたが、ツイートだけを見てもどのチャンネルか分からなかったり、スマホから番組をそのまま見られないのが課題だと言われてきました。

それがABEMAの連携ツイートでは、リンクをクリックするだけですぐに番組を見ることができるため、視聴者のツイートから確実に番組に誘導できるわけです。

当然、今後大手テレビ局も、今回のABEMAの成功を見て真剣にネット連携を考えることになるでしょう。

今回のカタールW杯では、サッカー日本代表の活躍は間違いなく、日本サッカー界の歴史に大きな変化を引き起こしたと記憶されると思います。

おそらくは、ABEMAによるW杯全試合中継の実現や、ツイッター連携によるW杯中継の民主化も、日本のテレビとネットの歴史に大きな変化を引き起こしたと記憶されることになりそうです。

noteプロデューサー/ブロガー

新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログを書きはじめたおかげで人生が救われる。現在は書籍「普通の人のためのSNSの教科書」を出版するなど、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についてのサポートを行っている。

徳力基彦の最近の記事