Yahoo!ニュース

世界中で注目される「スパイファミリー」に学ぶ、日本のアニメの世界への拡げ方

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:スパイファミリー公式ツイッターアカウント)

日本のアニメ「スパイファミリー(SPY×FAMILY)」が世界中で話題になっているのをご存じでしょうか?

「スパイファミリー」は、集英社「少年ジャンプ+」にて連載中の漫画を原作とした作品。

漫画自体も、元々さまざまなマンガの賞で1位を獲得するなど人気が高く、テレビアニメ放送開始時点でコミックス累計発行部数は1250万部を超えていましたが、アニメ放送でその人気がさらに加速。

アニメ放送開始後約2ヶ月で累計2100万部を突破したそうです。

参考:漫画『SPY×FAMILY』累計2100万部突破 アニメ放送約2ヶ月で850万部増

テレビアニメの視聴率が伸び悩んだ関係で、一部ではその人気を疑問視する報道もあったようですが、実はNetflixのランキングでは安定してトップ5入りを継続中。

しかも注目されるのは、日本だけでなくシンガポール、インドネシア、ベトナムなどアジアの国々を中心に、10ヶ国以上のトップ10に入っている点です。

海外でも急増している注目度

実際にGoogleトレンドで「SPY FAMILY」という単語での世界での検索数の傾向を見てみると、見事に放映開始後に跳ね上がっていることが分かります。

(出典:Googleトレンド 「Spy Family」の検索数推移)
(出典:Googleトレンド 「Spy Family」の検索数推移)

しかも、この検索数を世界でも人気のある日本のアニメ「鬼滅の刃(Demon Slayer)」と「進撃の巨人(Attack on Titan)」と比べるとご覧の通り。

(出典:Googleトレンド検索数推移 赤色「Demon Slayer」黄色「Attack on Titan」青色「Spy Family」)
(出典:Googleトレンド検索数推移 赤色「Demon Slayer」黄色「Attack on Titan」青色「Spy Family」)

公開から2ヶ月しかたっていないアニメとは思えないほど善戦しているのです。

Googleトレンドでは国毎の検索傾向を色分けで見ることもできるのですがその世界地図を見ると、日本だけではなく世界中で検索されていることが良く分かると思います。

(出典:Googleトレンド 「Spy Family」検索傾向 国別)
(出典:Googleトレンド 「Spy Family」検索傾向 国別)

日本でのテレビアニメ公開のタイミングから、海外の動画配信サービスなどにも積極的にアニメを展開するのは、「鬼滅の刃」のヒットごろから増えてきた印象ですが、こうした取り組みが着実に海外に日本のアニメファンを増やしているということが言えるでしょう。

参考:映画「鬼滅の刃」の海外での大ヒットで考える、日本アニメの新しいヒットの方程式

積極的なファンアート推進

海外で「スパイファミリー」の人気が拡がっている背景には、作品の面白さはもちろん鬼滅の刃のような過激な表現や、海外では許容されない性的な表現が少ない点も大きいようです。

ただ、それに加えて、日本でのアニメ放映開始と同時に海外でのスタートダッシュ成功に貢献したのは、ファンアートへの積極的な姿勢も大きいように感じます。

ファンアートとは既存の作品を元に描かれた二次創作物のことをいいますが、基本的に日本では著作権を侵害する行為でグレーゾーンと認識されており、多くの場合は「黙認」されているケースが多いのが現状です。

それに対して、「スパイファミリー」はすでにアニメ化前から公式のファンアートコンテストを開催するなど、非商用でのファンアートを積極的に推進する取り組みを行っているのです。

例えば2020年に開催された第2回ジャンプ世界イラストコンテスト第2回のテーマは「スパイファミリー」でした。

参考:第2回ジャンプ世界イラストコンテスト テーマ:SPY×FAMILY

また、今年の4月にはアニメ放送にあわせてPixivで「スパイファミリー」のファンアート特集が企画されています。

参考:SPY×FAMILYのファンアート特集

さらに2021年2月には「アーニャおともだちプロジェクト」と名付けて、ファンアートを募集し、公式とファンアートを組み合わせたLINEスタンプを販売して、その売上をあしなが育英会に寄付する企画まで実施されているのです。

参考:SPY×FAMILYチャリティ企画「SPY×FAMILY アーニャおともだちプロジェクト」

現在も「スパイファミリー」のファンアートで検索すると、日々たくさんのファンアートが描かれているのを見ることができます。

公式SNSからアイコン用画像も配布

また、日本でも「スパイファミリー」の公式ツイッターアカウントが、ファン向けにキャラクターのアイコン用画像を配ったり、GIF動画による大喜利企画を行ったりと、かたくなにアニメ画像の著作権保護に走るのではなく、柔軟にファンに画像を使ってもらおうと取り組んでいるのが印象的です。

こうした「スパイファミリー」の著作権に対して比較的寛容なアプローチが、ファンアートやファンによるツイートを通じて、「スパイファミリー」のファンを世界に拡げる一助になっている可能性は高いように思います。

海外で拡がるミーム化

そうした取り組みの影響もあってか、現状海外では、「スパイファミリー」自体がいわゆるミーム化。

「スパイファミリー」の登場人物の一人であるアーニャのイラストがフィリピンの路上に描かれたところを撮影した写真が13万いいねを集めるほどバズったり。

参考:Anya's Face Drawn On The Road Of Philippines Goes Viral On Internet

別のマンガの一コマにアーニャを登場させるコラージュが流行ったりという現象が起きているようです。

参考:「SPY×FAMILY」のアーニャを別マンガのひとコマに登場させるコラージュがなぜか海外で大人気に

こうしたミーム化の勢いは、TikTokを見れば実に明白で、TikTokに「#spyxfamily」のハッシュタグで投稿された動画の累計視聴数は、すでに74億を超えているのです。

(出典:TikTok 「#spyxfamily」ハッシュタグ一覧)
(出典:TikTok 「#spyxfamily」ハッシュタグ一覧)

TikTok上でのミーム化の盛り上がりによって世界中に人気を拡げた番組というと「イカゲーム」旋風が記憶に新しいところですが、スパイファミリーはイカゲームのヒットに近いサイクルを辿ることができていると言えるかもしれません。

参考:衝撃の「イカゲーム」世界的大ヒットに学ぶ、日本ドラマ海外進出の正攻法

日本のアニメに国境を越える力があることは、既にたくさんの日本のアニメが世界中で愛されていることから、周知の事実でしょう。

そこに「スパイファミリー」のように、SNSを通じたファンの口コミの拡がりを意識した取り組みを組み込んでいくことで、日本のアニメの世界でのさらなる拡がりが期待できるように思います。

noteプロデューサー/ブロガー

新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログを書きはじめたおかげで人生が救われる。現在は書籍「普通の人のためのSNSの教科書」を出版するなど、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についてのサポートを行っている。

徳力基彦の最近の記事