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テレ東「お詫び広告」に学ぶ、広告が炎上しやすい時代の「広告」の価値

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:テレビ東京公式ツイッター)

テレビ東京が展開した「お詫び広告」が、ツイッターを中心に大きな話題となったのをご存じでしょうか。

参考:テレ東が全面広告で謝罪!?ユーモアあふれる“お詫び”が話題「全国放送しているかのように…」

「お詫び広告」というと、てっきりテレビ東京が何か不適切なことを実施したのかと誤解するかもしれませんが、実は「TVer(ティーバー)」で番組の全国リアルタイム配信がスタートすることを告知するためのキャンペーンの一環となる新聞広告でした。

さまざまなネットの取り組みや、面白いテレビ番組も作っているテレビ東京ならではの広告で真似するのは難しいと言い切ってしまうこともできるのですが、最近増えている広告やキャンペーンを起点とした炎上を起こさないためのヒントが満載の取り組みでもありますので、詳細を是非ご紹介したいと思います。

■立体的に展開された「お詫び」キャンペーン。 

実際にテレビ東京が実施した「お詫び」キャンペーンは下記のような順番で展開されました。

4月10日 日経新聞1面を使った「お詫び広告」を掲載 

「全国放送っぽくふるまっていた件に関してのお詫び」というタイトルで「わたしたちテレビ東京は、一部の地域には放送されていないにもかかわらずあたかも全国放送しているかのようにふるまっていました」とお詫びするユニークな内容

(出典:テレビ東京公式ツイッター)
(出典:テレビ東京公式ツイッター)

4月11日午前 TVer経由でのテレビ東京番組の全国配信が開始

並行して、「#テレ東見れない」の引用RTキャンペーンを開始

4月11日午後 「#テレ東見れない」がツイッターのトレンド入り

関連記事がYahoo!ニュースのトピックスにも掲載

参考:テレ東TVerで全国配信 SNS歓喜

4月12日 全国の地方新聞にも「お詫び広告」が掲載

こうしてみると、単純にお詫びの新聞広告を掲載しただけでなく、ツイッターやネットメディアでの露出も計算された、立体的なキャンペーンだったことが良く分かると思います。

「お詫び」というと、どちらかというと炎上してからお詫びをするというサイクルが多い昨今ですが、テレビ東京の今回のキャンペーンは、真顔で宣伝したくなるタイミングで、あえてお詫びという真反対の行動を選択することで、世の中の大きな注目を集めたわけで、非常にユニークなアプローチだったと言えるでしょう。

ファンの声に真摯に耳を傾けている

特に、テレビ東京の新聞広告を見て非常に印象的なのは、お詫びというスタイル自体もそうですが、テレビ東京のお詫びのメッセージの周辺に、これまでツイッター上に投稿されていたとみられる視聴者のテレビ東京に対するネガティブなコメントが並んでいる点です。

(出典:テレビ東京公式ツイッター)
(出典:テレビ東京公式ツイッター)

今回は、あくまでTVer経由で全国でテレビ東京が見られるようになるという、テレビ東京にとってはポジティブな出来事のタイミングです。

当然、通常であれば「本日からテレビ東京がTVerでも全国で見られるようになりました」と企業目線で、ポジティブなことばかりアピールしたくなるのが普通でしょう。

ただ、テレビ東京は、あえてこれまで「テレ東映らない」と他の人のテレ東に関する話題のツイートを見ながら愚痴っていたり、嘆いている人たちのネガティブな声を広告に掲載し、「一部の地域には放送されていないにもかかわらずあたかも全国放送しているかのようにふるまっていました」とお詫びすることからはじめたわけです。

これは従来からツイッターも含めて、多くのファンの声に耳を傾けていたからこそできる姿勢だと思います。

ファンを裏切る行為が炎上する時代

最近炎上した事例を反面教師としてあげるとすると、劇場版「名探偵コナン ハロウィンの花嫁」を盛り上げるために実施されたものの、炎上して運営側が謝罪に追い込まれた「理想の花嫁」企画があげられます。

参考:劇場版「名探偵コナン」、“理想の花嫁”投票企画めぐり謝罪 ネットで批判の声

この炎上は一見すると、最近増えているジェンダー文脈での炎上のように見えますが、劇中で花嫁になるキャラが決まっているのに、なぜわざわざ「理想の花嫁」を別で選ぶのかなど、コナンファンからの批判が多かったことが企画が中止し謝罪することになった背景にあるようです。

広告やキャンペーンを実施する際には、当然既存ファン以外の新しい顧客がターゲットになりますが、その広告やキャンペーンが既存ファンの心証を害したり、ファンがガッカリするようなことをやってしまっては本末転倒といえるわけです。

そういう意味で、テレビ東京がネガティブな視聴者の声をあえて広告に掲載してきたのは、テレビ東京の企業姿勢をファンや視聴者に伝える上で非常に重要なポイントだったと言えるでしょう。

ファンが盛り上がる広告の強さ

今回の企画を実施するに当たっては、テレビ東京の中でも、当然様々な議論があったようです。

ポジティブなニュースにもかかわらず「お詫び広告」を実施するということ自体への違和感を感じる方もいれば、ふざけているという批判を受けて炎上するリスクもないとは言い切れません。

ただ、それでも今回のお詫び広告は、テレビ東京ファンをはじめとした多くの方が参加するキャンペーンとなり、大きな話題になりましたから、そのリスクをとった甲斐は十分あった企画と言えるでしょう。

昨今、広告を起点とする様々な炎上騒動が注目されていますが、こうした炎上騒動が増えている背景にあるのは、ツイッターなどのSNSの普及によってユーザー側にメディアパワーがシフトしている点にあります。

ファンやユーザーが「怒り」を感じれば「炎上」となり。

ファンやユーザーが「喜び」を感じれば、今回のような「バズる」キャンペーンになるわけです。

そして、その「炎上」や「バズる」きっかけに、広告やキャンペーンがなることが多いというのは、それだけ広告やキャンペーンには話題の中心になる力があるという事の裏返しでもあります。

今後、テレビ東京の「お詫び広告」を参考に、クスッと笑ってしまう面白い企画が更に増えることを期待したいと思います。

noteプロデューサー/ブロガー

新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログを書きはじめたおかげで人生が救われる。現在は書籍「普通の人のためのSNSの教科書」を出版するなど、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についてのサポートを行っている。

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