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バイトの不適切動画炎上で考える、スマホ持込禁止が本質的な対策にならない理由

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
アルバイトのスマホ持込禁止を徹底するのは難しいようです(写真:アフロ)

残念ながら、また飲食店のアルバイトによる不適切動画の騒動が、繰り返されはじめているようです。

直近では、ドミノピザのアルバイトが、調理後のシェイクをへらでなめる動画をインスタグラムにアップして炎上。

参考:ドミノピザ、従業員による“不適切動画”を謝罪 調理後のシェイクをへらでなめる動画が炎上

実は4月にも焼肉店「韓国苑」のアルバイトが、ソフトクリームを機械から直接口へ流し込む動画をTikTokにアップして炎上していました。

参考:ソフトクリームを機械から直接口へ―― 焼肉店アルバイトが「不適切動画」投稿で炎上

こうしたアルバイトによる不適切な行為による炎上は、「バカッター」や「バイトテロ」と呼ばれ、もう10年以上前から様々な形で騒動になってきた話ではあります。

なぜ同じことが繰り返されるのか

そうした出来事が繰り返される度に、飲食店側はアルバイト採用の際に勤務中のSNS投稿を禁止する念書を書かせたり、勤務中にスマホの持込を禁止したりするなどの対策を強化していると聞いています。

ただ、前述の焼肉店にしても、動画が撮れる携帯を仕事中は原則使わせないといった防止策をとっていたそうですし、ドミノピザにおいても「すべての従業員に対し、勤務時間内のSNSへのプライベートな投稿を禁止する情報管理教育を年3回行っています」とのこと。

参考:厨房の店員がシェイクをペロペロ... 動画拡散でドミノ・ピザ謝罪「お客様に不快な思いをさせた」

そういう意味では、いくら教育しても、バカな行為を行う若者は存在するから、もうどうしようもない、と対策を諦めたくなる気持ちになる飲食店経営者の方も少なくないかもしれません。

ただ、今回のドミノピザの動画の拡散経緯を辿ると、こうした不適切動画の炎上への流れが、新しい局面に入っていることが見えてきます。

フォロワーの告発から炎上する結果に

関連記事から、今回の動画の投稿と拡散の経緯を時系列に並べると下記のようになります。

■6月4日(金) 21時頃 該当の動画が撮影される

■6月4日以降 動画がインスタグラムのストーリーに投稿される

■6月4日以降 投稿者のフォロワーがYouTuberに通報

■6月8日(火) YouTuberのライブ配信で動画が紹介されて拡散し炎上

■6月9日(水) J-CASTニュースが騒動について記事化。Yahooニュースにも掲載

■6月10日(木) フジテレビのイット!等で報道される

■6月11日(金) ドミノピザがツイッター等で謝罪投稿を実施

■6月11日(金) 複数のメディアが謝罪投稿を元に騒動を記事化

従来の炎上というのは、ツイッターなどのSNS上で該当の写真や動画が広く拡散し、それをネットメディアが報道する流れが多かった印象がありますが、今回は明確に投稿者のフォロワーが、YouTuberに通報したことが炎上の起点になっています。

じつは動画公開時には、この動画投稿者のインスタグラムのフォロワーは209人しかいませんでした。

そのインスタグラムのフォロワーが、140万人以上の購読者がいるコレコレチャンネルというYouTubeのライブ番組に通報したことで、多くの人に知られる結果となり、炎上状態になるわけです。

炎上にかかわらず不適切行為はテレビのネタに

実際に、この一週間のツイッターの「ドミノピザ」に関する言及数を見ると、実は6月8日夜のYouTubeライブの段階ではそれほど大きな炎上状態にはなっておらず、6月9日以降、メディアやテレビ報道等を通じて少しずつ注目度が高まっているのが分かります。

(出典:Yahoo! リアルタイム検索)
(出典:Yahoo! リアルタイム検索)

ちなみに、11日の夜22時に大きな山になっているのは、実は炎上ではなく、金曜ロードショーで放映されていた「グーニーズ」でドミノピザが登場した瞬間です。

騒動が露呈する前の6月7日にも、6月8日と同じぐらいの小さな山がありますが、これはドミノピザが実施しているキャンペーンでした。

月間の推移で見ると、さらに驚きのグラフに。

(出典:Yahoo! リアルタイム検索)
(出典:Yahoo! リアルタイム検索)

実は不適切動画が炎上した今週よりも、5月末のキャンペーンの方が盛り上がっているのです。

金曜ロードショーやキャンペーンの影響力が大きいと言うことはありますが、ある意味、今回のドミノピザの不適切動画は、ツイート数だけを見ると、ネットの炎上騒動としては、たいして大きな炎上にはなっていないとも言えてしまう状況なのです。

従来は、アルバイトによる不適切な行為の炎上は、不適切な行為を行った写真や動画が主にツイッターなどで大勢の人の間で話題となり、ネット上で「炎上」したことがニュースとなり、ネットメディアに取り上げられ、その後にテレビに取り上げられるという時系列になることが多かったように思います。

この場合は、ある程度SNSを定期的にパトロールすることで、不正行為をボヤの段階で早期発見して対策することが可能でした。

しかし、ドミノピザの動画は、「不適切な行為を実施」したこと自体が、即座にニュースとして同時視聴が10万人を超えるようなYouTubeのライブ配信に告発され、一気に炎上する形となりました。

さらに多くのネットメディアよりも先に、テレビ局のニュース番組が報道する結果となっています。

もはや、飲食店のアルバイトによる不適切な行為は、ネットで話題になっていようがなっていなかろうが、十分に告発すべきニュースとして扱われる時代になってしまったわけです。

アルバイトの悪ふざけが全国放送される時代

筆者は、2年前のくら寿司の不適切動画炎上の際にも、こうした騒動が繰り返されてしまう理由についての記事を書いたことがありますが、当時に比べてもさらに飲食店にとっては対応が難しい時代になったと言えます。

参考:くら寿司動画炎上で考える、バイトテロが繰り返されてしまう理由

上記の記事でも書きましたが、筆者自身も学生時代に飲食店でアルバイトをしていた経験があります。

裏側の学生アルバイトの悪ふざけは、当時から存在していましたが、当時の感覚からすると、この程度の学生アルバイトの悪ふざけが、繰り返しテレビで報道されるのには、少し恐怖に近い驚きを感じるのも正直なところです。

ただ、当然ながらそれがテレビのニュース番組で報道されることがなかったのは、それを証明する動画が持ち込まれることがなかったからです。

さらにジェンダー問題等と同じように、世の中の飲食店アルバイトの不適切行為に対する関心も大きく変わってしまっています。

もはや、今回のような視聴者の問題意識に訴えかけやすい不適切動画は、テレビ局にとっては自動車の事故動画と同じように報道すべき素材になってしまったと考えるべきでしょう。

スマホやSNS禁止が誤解を生むリスク

なお、ドミノピザの動画の投稿者は「アカウントを鍵付きにしていたため、フォロワーしか見ていないと思って投稿した」と話しているそうですが、実はこの「大勢に見られなければ良いだろう」と考えている思考回路自体が、問題の根深さをあらわしています。

前述の焼肉店の、動画が撮れる携帯を仕事中は原則使わせないといった防止策に対しても、ネット上で対策内容がズレていると指摘されていたようですが、当然ながら最も問題なのは動画を撮影したことではなく、飲食店の中で不衛生で不適切な行為を実施したことにあります。

参考:バイトテロによる不適切動画で炎上の焼肉屋、対策内容がズレすぎと更に炎上する事態に

一方で、今回のような不適切動画騒動を起点として、飲食店におけるアルバイトへの研修や、指導が、勤務中に撮影した動画のオープンなSNSへの投稿の禁止に重点を置いてしまうと、実はこうした対策は、今回のアルバイトのように「大勢に見られない場所ならこっそり撮っても良いだろう」という誤解を残すリスクがあることになるのです。

本来は、飲食店の中で不衛生で不適切な行為を実施することが最大の問題行為であり、飲食店側だけでなく、本人達に多額の賠償金の訴訟リスクをもたらすことを明確に伝える必要があります。

既に過去には、店側がアルバイトに1385万円の損害賠償を請求する裁判を起こし、約200万円で和解に至ったという事例もあるのです。

参考:「死ぬまで許して」の一方で6年間謝罪なしの学生も、店つぶした“バカッター”のその後

単純に職場へのスマホ持ち込み禁止を徹底しようとしても、現実的にはこっそり持ち込むのを防ぐのは難しいのが現実でしょう。

ただでも学生は、過激なインフルエンサーの投稿に影響されて、自分もそうした行為を真似しようと思ってしまいがち。

そうした学生に、会社の都合でスマホ持込禁止を押しつけてもかえって反発して、度胸試しをしがちです。

運転免許の安全講習同様に、そうした不適切行為をする本人自体に、一番リスクがあることを理解してもらうことが最も効果的なのです。

誰もが撮影を残し告発ができる時代

今や、大臣や政治家の不適切な発言の録音やLINEの履歴が、メディアに持ち込まれ、社会からの大きな批判を集める時代です。

デジタルの動画という証拠を残した場合、それをアップした場所がツイッターであろうが、インスタのストーリーズだろうが、LINEのクローズドなグループだろうが、実はその動画を見れるメンバーが、一人でもその行為を問題だと思って告発すれば、結果は同じことになります。

仮に店員がスマホを禁止されていても、不適切な行為をしているところをお客さんに撮影されたら、さらに悪い結果になるでしょう。

SNSにアップしたり、動画を残したりすること自体が問題なのではなく、不適切な行為をすること自体が簡単に可視化されてしまう時代になっているのです。

ただ、SNSやネットのそうした拡散の力は、権力の不正を暴いたり、コロナ禍で苦しい状況にある店舗を救ったりすることにも効果的であることも、また事実です。

例えば、アパレルブランドのビームスは、ショップのスタッフの多くがブログやSNSで積極的に情報発信を行っており、コロナ禍において脅威のEC化率43%を達成されています。

参考:ビームス、コロナ禍のEC化率は43% 「秘訣は人にあり」設楽社長

また最近、アメリカで黒人のジョージ・フロイドさんが白人警官に殺害される場面を携帯電話で撮影したダーネラ・フレイジャーさんがピュリツァー賞を受賞したことも、非常に象徴的な出来事と言えるでしょう。

この動画を撮影した当時彼女は17歳でしたが、ジョージ・フロイドさんが首を圧迫される場面を勇気を持って携帯電話で撮影し続け、この動画は世界に大きな影響を与えることになりました。

実は日本の学生の多くが、そうしたSNSやインターネットの基本的な可能性やリスクをきちんと学んでいないことが、こうした不適切動画の炎上が繰り返される1つの背景にあるようにも感じます。

今後、不適切動画の炎上騒動を減らすためには、学生アルバイトに単純にスマホ持ち込み禁止を伝えるだけではなく、SNSのメリットとデメリット、特に不正行為を可視化する影響力の大きさを学んでもらうことも必要な時代に突入しているように思います。

noteプロデューサー/ブロガー

新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログを書きはじめたおかげで人生が救われる。現在は書籍「普通の人のためのSNSの教科書」を出版するなど、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についてのサポートを行っている。

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