「電波少年W」は、テレビとネットの最後の壁を崩すことができるか

(出典:電波少年W公式ツイッター)

皆さんは、あの伝説的なバラエティ番組の「電波少年」が今年復活しているのをご存じでしょうか。

その正式名称は「電波少年W 〜あなたのテレビの記憶を集めた〜い!〜」。

「電波少年」というと、私の世代の方々は間違いなく1990年代の、いわゆる「電波少年」の名物企画だったアポなしロケやヒッチハイクを覚えていると思いますが、今回の「電波少年W」は従来放送されていた日本テレビ系列ではなく、WOWOWにて製作。

サブタイトルの「あなたのテレビの記憶を集めた〜い」の通り、過去に放送された地上波の番組の中から「テレビの記憶」を掘り起こしていく番組になっており、番組立ち上げ当初から従来のテレビ番組では難しかった様々な企画に挑戦されています。

■テレビ局横断での番組言及や関係者出演

例えばテレビに詳しい方であれば、まずビックリするのが豪華なゲスト陣。

「電波少年」シリーズでもお馴染みのTプロデューサーこと、土屋プロデューサーならではの人脈で、元猿岩石の森脇さんのような電波少年ならではのゲストはもちろん、爆笑問題の太田さんや、研ナオコさん、さらには萩本欽一さんなど、錚々たるレジェンドまで登場しています。

さらに業界の方ほど驚くのは、日本テレビの土屋さんが進行を担当しているにもかかわらず、フジテレビやテレビ東京など、いわゆる地上波におけるライバル局の番組の話題や関係者がどんどん出演している点でしょう。

参考:【第1回】テレビの帝王『オレたちひょうきん族』などの生みの親、三宅恵介氏が語る番組制作の裏側!

通常、地上波の番組においては、同時に視聴できるのは一局だけということもあり、他局の番組について言及しないのが常識となっています。

象徴的なのが、1997年の「電波少年」における松村邦洋さんの裏番組宣伝発言による「松村邦洋降板騒動」。

実際には、松村さんの電波少年降板は、番組改編だったことが後に土屋さんによって明らかにされていますが、他局の番組を放送中に宣伝するのが御法度というのが良く分かる逸話と言えます。

参考:松村邦洋は1997年大晦日にタイムマシンに乗った

それが、「電波少年W」においては、テレビ局の壁を越えて、横断的に「テレビの記憶」が語られています。

これは、在京民放キー局各社がWOWOWに横断的に出資しているため可能になっているということなんだそうです。

私自身、昨年土屋さんと登壇をご一緒させていただいたときに、この番組の構想を少しお聞きすることができたのですが、その際にこの仕組みを聞いてビックリしたのを良く覚えています。

しかも「電波少年W」のウェブサイトでは、「あの年の番組表を見てみよう!」という機能が公開。

テレビ局横断での過去の番組表を振り返ることも可能になっています。

日本テレビやWOWOW単体としての企画ではなく、サブタイトル通りテレビ局横断で「テレビの記憶」を集めようとしている本気度が伝わってくるサービスです。

■リアルタイムでの視聴者参加クイズ

さらに「電波少年W」では、番組中にリアルタイムに実施されるクイズに対して、視聴者が回答者として参加する挑戦がなされています。

地上波のクイズ番組でも、放送と同時に視聴者がデータ放送やスマホで並行してクイズに参加するのは珍しくなくなりましたが、「電波少年W」ではクイズに解答する主役が視聴者。

「CONNECTED FLIP」というアプリを活用して、視聴者のスマホ上での解答が番組の中に表示され、視聴者の中から優勝者が選ばれるという画期的なクイズに挑戦。

3月には、懐かしの「アメリカ横断ウルトラクイズ」のパロディ的な企画も実施されてました。

視聴者のスマホの画面となると、技術的なトラブルの不安はもちろん、何を書かれるか全く分からないというリスクを負うことになりますから、通常の地上波の番組ではなかなかハードルが高い企画です。

さらに、放送回によっては、クイズの優勝者がビデオで番組に登場し、出演者とコミュニケーションをできるという取り組みができる贅沢な作りになっています。

まだまだ通常の地上波では放送事故等のリスクを考えるとハードルが高い取り組みに、あえて挑戦されていると言えるでしょう。

■コミュニティから作る初めての番組

さらに土屋プロデューサーが最もこだわりをもっているのが「コミュニティで番組を作る」という点のようです。

「電波少年W」では、番組専用のクローズドの掲示板が設置され、様々な質問やお題がだされています。

従来の「電波少年」でも、テレゴングなどその時代に合わせた様々な技術を使って視聴者の声が取り入れられていましたが、基本的にはあくまでテレビ局側の製作者の発想で番組が作られていました。

それが、この「電波少年W」では、土屋さんは本気でコミュニティに軸足を置いた番組作りに挑戦している模様。

番組放送初回でもツイッターで次回番組ゲストに関するアンケートを取ってみたり、掲示板での投稿内容を番組中でも積極的に紹介したり、前述の過去の番組表の間違いをコミュニティのメンバーに指摘してもらったりと、コミュニティの声を番組に反映する本気度が随所に見られます。

参考:伝説のテレビ番組「電波少年」がWOWOWで“復活”。仕掛け人が語る放送局の未来

■「電波少年W」ですら壊せていないテレビとネット最後の壁

そういう意味では、この「電波少年W」を通じて、土屋さんやWOWOWの製作チームは、これまでの地上波テレビでは難しいと考えられていた様々な常識の壁を壊しまくっています。

各局横断でテレビ番組関係者に出演してもらうことでテレビ局同士の間の壁を壊し。

リアルタイムでの視聴者参加クイズで出演者と視聴者の壁も壊し。

コミュニティによる番組作りで番組製作者と視聴者の壁も壊してしまいました。

ただ、そんな中、土屋さんがおそらく、この番組を通じて壊そうと挑戦していて、まだ壊せていないのが「ネットで昔のテレビの番組を見ることができない」という壁です。

「電波少年W」では、WOWOWでの番組配信タイミングと同時に、なんとYouTubeライブでも同じ番組内容を同時配信するという挑戦をされています。

テレビとネットの同時配信自体は、すでにNHKをはじめとしてテレビ各局が取り組んでいますから、珍しい話ではありませんが、YouTubeライブをそのままアーカイブとして残している番組は非常に珍しいと言えるでしょう。

ただ、WOWOWの配信とYouTubeライブの明確な違いとなっているのが、YouTubeライブでは過去のテレビ番組が紹介される際に権利処理の関係で黒塗りされてしまっているという点です。

日本のテレビ番組の場合、権利処理の関係でこのようにテレビでの再配信に比べて、ネット上では昔のテレビの映像の配信が非常に難しいというのがまだまだ一般的。

Netflixや、TVerやテレビ局独自の動画配信サービスの普及もあり、映画やテレビドラマの過去作は、徐々にネット上でも見られるようにはなってきていますし、ある程度はテレビの過去番組をネットで見逃し配信されるようにはなっています。

ただ、昔のバラエティ番組など、膨大な量の番組が、まだまだほとんどネットで手軽に見ることができないのが今の日本の現状なのです。

土屋さんが、現在進行形で「電波少年W」で取り組もうとしているのは、このテレビの過去番組がネットで手軽に見られないという、テレビとネットの最後にして最大の壁。

「昔のテレビ番組をネット上で見られない」という壁を壊すことのようです。

コミュニティの力でオンライン上映会に挑戦

そのシンボル的な取り組みとして、現在「電波少年W」では、コミュニティで過去の「電波少年」におけるベストセレクションをメンバーの投票から選択。

そのベストセレクションをまとめた番組の「電波少年オンライン上映会」を実施するための資金をコミュニティで募集するという選択をされています。

1つの上映会の目標金額が約200万円と決して低いハードルではありませんが、こうしたバラエティ番組のアーカイブ視聴のニーズがあることをコミュニティとともに可視化できれば、電波少年だけではなく各局の様々なバラエティ番組をネット上で見られるようにできるという構想があるようです。

では「元気が出るテレビ」ならどうなのか?「ウリナリ」ならどうか?(中略)

もちろんその形が定型化されてくれば「めちゃイケ」や「ごっつ」「みなさん」「スマスマ」などフジテレビの名バラエティもその形で開催されるようになる!これがこのプロジェクトの大いなる野望です。

参考:ドラマとバラエティのアーカイブの違い

土屋さんからすると、1枚1500円のイベント視聴チケットが、文字通りオンライン上映会のチケットということの模様。

確かにこの仕組みで視聴者が集められれば、昔のテレビ番組をネットで見るための新しいビジネスモデルが見えてくる可能性がある気もします。

YouTube上でも求められるテレビ番組

日本のバラエティ番組のネット配信と言えば、昨年「志村けんのだいじょうぶだぁ」が、YouTube上に公開されて話題になったのが記憶に新しいところ。

これは、亡くなった志村けんさんの所属事務所であるイザワオフィスにより、医療従事者への寄付として実施された1年限定の企画だったため、残念ながら4月17日で公開は終了していますが、2900万回以上再生されるなど、過去番組のネット再生の可能性を可視化した企画になっていたと思います。

参考:フジ「志村けんのだいじょうぶだぁ」動画、YouTubeで2900万回再生

テレビ朝日のANNnewsCHや、フジテレビのFNNプライムオンラインなど、すでにニュース番組でもテレビ局のYouTubeチャンネル活用は活性化してきており、番組の宣伝を中心にテレビ局のYouTubeチャンネルの多様化も進んでいる模様。

参考:テレビ局がYouTubeに力を入れ始めた

最近では「有吉ぃぃeeeee!」など、日本のバラエティ番組のYouTube活用も活発化しており、バラエティ番組においても、テレビとネットの壁はだんだんと低くなってきている印象もあります。

日本でも様々なアニメやドラマの過去作品が動画配信サービスで視聴できるようになり、海外でも話題になっているケースがあるようですが、PPAPやゆりやんさんが、海外で人気を呼んだように、日本のバラエティ番組にも、ネット配信を通じて海外でブレイクするものがあるかもしれません。

参考:ゆりやん米国番組出演の大反響から考える、世界における日本の「お笑い」の可能性

「電波少年W」と土屋さんの挑戦が成功して、日本の過去のバラエティ番組が本当にネットで手軽に見られるようになれば、テレビとネットの最後の壁が壊れるだけでなく、日本のバラエティ番組の海外視聴者との距離感も大きく変わる可能性があるかもしれない。

そんな風に感じるのは私だけではないはずです。