ディズニーMCUと鬼滅の刃の選択から学ぶ、映画とテレビの境界線が消える日

映画「ブラック・ウィドウ」は7月に公開が延期(出典:Marvelウェブサイト)

2019年に公開されて歴代映画の興行収入1位をぬりかえた映画「アベンジャーズ/エンドゲーム」から2年。

Disney+で、「アベンジャーズ/エンドゲーム」のその後を描いたマーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)作品が立て続けに公開され、注目を集めています。

一つ目は、1月に公開されたワンダとヴィジョンのその後を描く「ワンダヴィジョン」。

そして二つ目は、3月に公開された「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」です。

特に「アベンジャーズ」の中核キャラクターであったキャプテン・アメリカの流れを汲む「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」の注目度は高く、早速Disney+の初日3日間での再生回数で新記録を打ち立てたようです。

参考:マーベルドラマ「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」がDisney+の新記録を樹立

両作品の特徴は、位置づけとしては従来のMCU作品の中核であった「映画」ではなく「ドラマシリーズ」である一方で、そのクオリティや登場人物の顔ぶれが「映画」と遜色ないものになっている点。

そして、特にファンから注目されているのが、この二つの「ドラマシリーズ」自体が今後の「映画」とクロスオーバーする形で本編の世界感を紡ぐシリーズとなっている点です。

映画とドラマシリーズのハイブリッド化

「アイアンマン」からはじまり、「アベンジャーズ/エンドゲーム」で一段落を迎えたMCUは、フェーズ1〜フェーズ3。

今回Disney+で公開された二つのドラマシリーズから、MCUは新しいフェーズ4が開始した位置づけになります。

従来のフェーズ3までのMCUは、本編は全て映画館で公開される「映画」を軸にストーリーが紡がれるのが、基本的なマーベル作品の方針でした。

その結果、フェーズ3までの「アベンジャーズ」シリーズは、なんと23作もの「映画」を通じて、壮大なストーリーが展開されていったわけです。

もちろん、フェーズ3までも、「エージェント・オブ・シールド」や「エージェント・カーター」などの「ドラマシリーズ」は存在したのですが、基本的には外伝扱いで本編のストーリーには影響がないものでした。

しかし、マーベルを保有するディズニーグループが、独自の動画配信サービスであるDisney+を開始したこともあり、このMCUの基本構造はフェーズ4から大きく変化。

これからは、MCUのストーリーがDisney+で配信される「ドラマシリーズ」と「映画」をハイブリッドに組み合わせた形で展開されることになります。

例えば「ワンダヴィジョン」は、ワンダとヴィジョンの「アベンジャーズ/エンドゲーム」後を描いた「ドラマシリーズ」ですが、このドラマは、2022年に公開予定の「ドクター・ストレンジ」の続編「映画」に続くストーリーであることが予告されています。

そして「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」は、映画「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」などの「映画」の続編としての「ドラマシリーズ」という位置づけになるわけです。

これまで、アベンジャーズを中心としたマーベルのファンは、基本的に「映画」を軸に作品に触れてきましたが、今後は「映画」だけでなくDisney+で展開される「ドラマシリーズ」を通じてもマーベルの世界感を楽しめることになります。

「映画」と「ドラマシリーズ」をハイブリッドに組み合わせたアプローチと言えるでしょう。

テレビアニメ本編の続編を映画にした「鬼滅の刃」

振り返ってみると、実は日本で大ヒットした「鬼滅の刃」も、「テレビアニメシリーズ」としてのテレビ放映と動画配信サービスの組み合わせでファンを増やし、「映画」においても大成功をなしとげました。

もちろん、これまでも「ドラえもん」や「ポケモン」をはじめ、「ワンピース」や「エヴァンゲリオン」など、テレビアニメがヒットした結果、映画化もされるようになったコンテンツはたくさんあります。

ただ、これまでのアニメの映画化は、「ドラえもん」や「ポケモン」のように映画専用の単独のストーリーで展開されるか、「エヴァンゲリオン」のように映画のみで独自のシリーズ化されるかというのが基本的なパターンでした。

「鬼滅の刃」のように、テレビアニメシリーズで放映した本編そのもののストーリーを、そのまま映画化するのは珍しいパターンと言えるでしょう。

今回の劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編の大ヒットを受けて、「鬼滅の刃」の続編を全て映画でシリーズ化するという選択肢もあったとは思いますが、遊郭編は再びテレビアニメとして放映されることが発表されています。

「鬼滅の刃」も、マーベル同様に、映画とテレビアニメシリーズをハイブリッドに組み合わせた形で展開していく選択をしたわけです。

溶け始める「映画」と「テレビ」の境界線

従来、映画のヒット作は映画館向けの「映画」として、テレビドラマやテレビアニメはテレビ放送向けの「番組」として、それぞれコンテンツの境界線が明確に分かれているのが普通でした。

ただ、NetflixやDisney+のような動画配信サービスの普及が、こうした映画館向けとテレビ放送向けのコンテンツの境界線を一気に溶かし始めているわけです。

従来であれば、「スター・ウォーズ」や「アベンジャーズ」のような長編ものは、「映画」を連続してシリーズ化することでストーリーを紡ぎ、「映画」から新しいファンを獲得して次の「映画」につなげていくのが普通でした。

日本では、「海猿」のように、テレビドラマと映画のストーリーをつなげた形でシリーズが紡がれるドラマは珍しくありませんが、アメリカでは有名なものでは「X-ファイル ザ・ムービー」や「セックス・アンド・ザ・シティ」ぐらいだと思われます。

テレビドラマやテレビアニメは、基本的には放映タイミングで視聴しないと、過去の番組は視聴できないため、「映画」を楽しむために過去のテレビドラマを視聴しているのが必須、というアプローチはあまり好まれなかったのです。

しかし、現在は動画配信サービスでいつでも過去作品を見ることが可能になっているため、このハードルが大きく下がりました。

映画関係者の方が、指摘されていてなるほどと思いましたが、劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編では、登場人物の名前や過去のストーリーについてほぼ言及がないままにいきなりストーリーがはじまります。

無限列車編までのアニメを見ているのが前提でストーリーがはじまるわけで、これは、動画配信サービスが普及している今だからこそのアプローチと言えるようです。

米国ではじまる新作映画ネット同時配信の流れ

こうして、映画とドラマやテレビアニメの境界線が溶け始めた結果、象徴的な現象としてはじまっているのが、映画館での新作映画公開と同時に動画配信サービスでの配信を実施する流れです。

先週には、MCUのフェーズ4作品の1作目となる映画「ブラック・ウィドウ」の公開が7月に延期され、そのタイミングでDisney+でも同時配信されることが発表されました。

参考:マーベル映画「ブラック・ウィドウ」全米公開延期。Disney+同時配信

ディズニー映画のDisney+配信というと、昨年映画「ムーラン」がコロナ禍で映画館での公開を取りやめてDisney+での独占配信を行い、映画館関係者の反発を招いた出来事が記憶に新しい人も少なくないでしょう。

ただ、すでにディズニーのライバルであるワーナー・ブラザーズは2021年のアメリカにおける劇場公開の映画は全て自社の動画配信サービスであるHBO Maxで同時配信すると発表しています。

参考:ワーナー・ブラザーズ、2021年のアメリカ劇場公開作品はすべてHBOマックスで同時配信

この発表を受けるように、3月にはディズニーも映画「ラーヤと龍の王国」をDisney+で同時配信を実施済み。

参考:ディズニー『ラーヤと龍の王国』、全米劇場公開と同時に「Disney+」で配信へ

ワーナー・ブラザーズの同時配信が追加料金不要という過激なアプローチなのに対して、ディズニーのDisney+での同時配信は、映画館にも配慮して30ドル程度の追加料金が必要という形を取ってはいます。

ただ、おそらくはこの「ラーヤと龍の王国」での実績を踏まえて、今回の「ブラック・ウィドウ」も延期とともに同時配信に踏み切ったと考えられます。

コロナ禍で映画館が正常に営業できていない海外の現状も大きいと思いますが、このトレンド自体は止まらない可能性が高そうです。

「ブラック・ウィドウ」の成否に注目

実はすでに両者の最大のライバルであるNetflixも、自社の動画配信サービスの中でしか見ることができない「映画」を多数制作していますし、そもそもビデオレンタルや動画配信サービスを活用すれば、過去の映画はいつでも見ることができます。

映画館でしか見られない「映画」と自宅のテレビで見られる「映画」の境界線は、すでに溶け始めていたのも事実。

「映画」と「ドラマシリーズ」両方のプレイヤーが融合をはじめている現在において、映画とテレビの業界の境界線もどんどん曖昧になっていますし、視聴者からすると2時間の「映画」と1時間の「ドラマシリーズ」2本を見ることに、ほとんど違いがなくなってきているのが現実でしょう。

業界のトッププレイヤーである、ディズニーとマーベルが、映画とドラマシリーズのハイブリッド企画にシフトし、新作映画の動画配信サービスでの同時配信に挑戦しはじめている以上、映画とテレビの境界線が明確に消えるのも、時間の問題と言えるかもしれません。

まずは、7月の「ブラック・ウィドウ」公開における反響が、そのスピード感を決めることになりそうです。