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サザエさん炎上騒動で考える、テレビの話題に頼るネット報道の問題点

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
私たちに平穏が戻るのはいつになるのか(出典:フジテレビ公式ツイッター)

日曜日に放送されたサザエさんが炎上という話題が、複数のメディアで取り上げられていました。

個人的には、今回のケースを「炎上」と呼ぶのは少し大袈裟ではないかという印象です。

ただ、テレビにおけるタレント発言の炎上報道などを考える上で、非常に興味深い事例といえるので、ご紹介したいと思います。

 

 

まず、今回の騒動を時系列にまとめるとこのようになります。

■4月26日 18時半  サザエさんが放送される

■4月26日 18時半〜  番組の内容がGW中の伊豆旅行や動物園と、現実の旅行自粛と相反する内容だったことが、ツイッター上で話題に

■4月26日 19時前  「サザエさん」というキーワードが、ツイッターのトレンド入り

■4月26日 19時台  トレンド入りも影響し、佐藤二朗さんの家庭での会話など、様々な議論がツイッター上で盛り上がる

■4月26日 22時  デイリースポーツが「サザエさん」がまさかの”炎上”と記事化(現在はタイトルを修正)

■4月27日 午前  上記記事がYahoo等各種ポータルサイトに掲載され、話題に

■4月27〜28日  日刊スポーツやアサジョが、炎上前提で記事化

参考:佐藤二朗、一部“炎上”したサザエさんをフォロー

参考:ガリクソン、サザエさん“炎上”騒動の問題点を指摘

参考:在宅イライラのはけ口に?「サザエさん」のGW旅行計画がまさかの炎上!

この一連の報道の影響もあり、結果的に、ネット上でサザエさんが炎上したというタイトルだけで、深刻な炎上を想像する人や、こんなことで炎上することを嘆く人が多数生まれてしまっているようです。

デイリースポーツは既に記事を修正

冒頭に書いたように、今回のサザエさんの事例を炎上と呼ぶのは大袈裟というのが個人的な結論です。

実際、起点となったデイリースポーツも既に記事のタイトルを、当初の「サザエさんがまさかの”炎上」から「サザエさん 実社会がコロナ禍の中でGWのレジャーは不謹慎との声も」と修正しており、各種ポータルに配信されていた記事は削除されています

また、当日のツイートを分析した結果、明確に「不謹慎」と名言している人は11人しかいない、という記事が話題になるなど、デイリースポーツの記事への批判も少なくなかったようです。

参考:4月26日のサザエさんが不謹慎だと言った人は11人しかいなかった話

もちろん、長引く外出自粛の中で、GWの旅行を促しかねない番組を放送したことに、違和感を感じた人は少なくなかったのは事実だと思いますし、不謹慎というキーワード以外にも、サザエさんを見て嫌な気持ちになったという趣旨の発言をしている方は複数いたようです。

ただ、さすがに「炎上」というタイトルは書き過ぎだったと考えて、記事タイトルを修正、配信先からは削除した可能性が高いと考えられます。

しかし、残念ながらすでに炎上というタイトルの記事が出回ってしまった結果、デイリースポーツ以外のメディアは、「サザエさん炎上」を既成事実として、関連記事が量産してしまっているわけです。

グラフで見えてくる炎上の真の発火点

はたして、サザエさんは炎上と呼ぶ状態になったのかどうか、具体的にグラフで分析してみましょう。

Yahoo!リアルタイム検索というサービスを使うと、ツイート数の推移をグラフで見ることができます

(出典:Yahoo! リアルタイム検索)
(出典:Yahoo! リアルタイム検索)

30日間のグラフを見ると、サザエさんの先日の放送日に、ツイート数が大きなピークをつけていることは一目瞭然です。

ただ、一方で、毎週日曜日は「サザエさん」というキーワードを含んだ投稿が多くされていることも分かると思います。

しかも、実はこの最後のグラフのピークは、放送当日ではありません。

放送当日のツイート数は実はピークの半分強の1万件程度、普通の日曜日の投稿が7000件前後ですので、当日だけを見ると2倍も超えていません。

実は、この18000件を超える投稿数のピークは、番組放送翌日なのです。

その理由は、一週間のツイート数のグラフを見れば一目瞭然。

(出典:Yahoo! リアルタイム検索)
(出典:Yahoo! リアルタイム検索)

確かに放送当日のツイート数は、7000件と跳ね上がっているものの、そのピークはすぐに収まります。

これは実は通常のサザエさんの放送されている週末の投稿数とそれほど変わりません。

そして、実は炎上に関するツイートが増えるのは、翌日の10時以降。

つまりデイリースポーツの記事が、各種ポータルサイトに転載されたタイミングなのです。

そして、そこからの方が炎上に関する話題が余韻を作っていることが分かります。

実際に、26日のサザエさん放映中の発言を丁寧に眺めてみると、ネガティブな投稿をしている人が、通常の週よりも増えている印象があるのは事実です。

ただ、7000件の全体数からすると、その比率はそれほど高い印象はありません。

当日一番話題になったのは、おそらく批判ツイートではなく、佐藤二朗さんの擁護ツイートでしょう。

このグラフだけを見ると、実はサザエさんは番組放送がきっかけで炎上したのではなく、炎上を報道する記事によって炎上状態になった可能性が高いと考えられるわけです。

大勢が視聴するテレビ番組と批判の構造

しかも、実はサザエさんの放送日には、サザエさん症候群という言葉もあるように、毎週のように何かしらネガティブなツイートが混じっているのが普通です。

サザエさんのような視聴率が10%を超えるようなテレビ番組は、単純計算すると全国で少なくとも数百万人が視聴していることになります。

そのうちの0.1%の人がツイートするだけで、何千人もツイートすることになるわけです。

そのツイートする人の1割、視聴者のうちのたった0.01%の人が批判的な投稿をすれば、数百件の批判的な投稿がツイッター上に出現することになります。

日本のツイッターのトレンドに、毎日の様にテレビ番組関連のキーワードが表示されるのはこれが背景です。

簡単に言うと、賛否が分かれるようなテレビ番組であれば、今回程度の批判的な投稿がツイッター上に数十から数百件出てくるのは、ある意味普通の状況とも言えるわけです。

本来「炎上」という言葉で連想するのは、企業や個人がしでかした不祥事により、批判やクレームの電話が殺到して止まらなくなる火だるまのような状態をイメージされる方が多いはず。

今回のサザエさんの旅行への批判は、ウイルス感染により私たちが感じているストレスが、普段、私たちがテレビを見ながら独り言のように突っ込んでいる発言とともに、ツイッター上にも表出しているだけと考えると、これを「炎上」と呼ぶべきかどうかは議論が分かれるはずです。

メディアが既成事実化する炎上のネガティブサイクル

ここに、昨今のテレビ番組に関するネット上のメディアの炎上報道の問題点が見えます。

■1.賛否が分かれる内容がテレビで流れる

 ↓

■2.ツイッター上に批判的な投稿が、普段より多く投稿される

 ↓

■3.メディアが批判的な投稿だけを拾い出して「炎上」と報道する

 ↓

■4.その記事が、ポータルサイト等を通じて多数の人に読まれる

 ↓

■5.「炎上」に関する記事を読んだ人が、賛否を投稿

 ↓

■6.賛否の投稿が増えて「炎上」が既成事実化

 ↓

■7.他のメディアも、その既成事実を元にさらに記事化

 (→4に戻る)

こうして、たいして炎上していない出来事が、炎上事例として既成事実化され拡がっていってしまうということが、発生しやすくなっているのです。

最近、芸能人の過激な発言の炎上を取り上げるメディアが増えているのも、同様の構造と言えるでしょう。

今回も、ガリガリガリクソンさんのツイートをメディアが記事化していますが、このツイートは記事のタイトルにまで取り上げられた割に、この記事執筆時点で70程度しかリツイートされていません。

ツイッター上の話題のツイートが1万単位のリツイートが珍しくなくなっていることを考えると、このツイートは芸能人のツイートとは言え、それほど注目されていないツイートと言えます。

ひょっとすると、メディア側もリモート推奨で取材に行けなくなっているという現状もあり、ネット上のこうした小さな出来事を取り上げざるをえない状況になっているのかもしれません。

こうしたテレビを起点にした話題にメディアが頼らざるをえない状況が、それほど炎上していない話題を、大手のメディアが記事化し、それにより炎上が既成事実化するというテレビとネット報道のネガティブサイクルを加速しているように感じます。

炎上のネガティブサイクルを加速しないために

もちろん、私自身も、こうして炎上事例の解説記事を書いており、このサイクルの末端に関わってしまっているのは事実ですので、他人事のように書ける立場ではありません。

ただ、読者の方に是非知って頂きたいのは、特にネット上のメディアにおいては、記事の表示回数が広告収入に直結するビジネスモデルが確立されてしまった結果、個人が運営するネットメディアはもちろん、デイリースポーツや日刊スポーツのように歴史のあるメディアであっても、時にこうやって炎上を過剰に報道してしまうことがあるという点です。

参考:ネットが広告費でテレビを逆転しても、日本のメディアの未来を楽観視できない理由

炎上のネガティブサイクルを生み出しているのは、メディアかもしれませんが、そうした記事に釣られて炎上記事の拡散に私たちが協力してしまうと、私たちもネガティブサイクルを回すことに加担してしまっていることになります。

炎上がタイトルに入っている記事を見つけたら、是非その記事を拡散する前に、少し落ち着いて、本当に炎上が事実なのか、調べてみることをオススメします。

個人的には、ウイルス感染拡大により、人々の間に不安や他の人に対する不信や怒りが広まってしまっている今このタイミングで、こうしたささいな出来事を炎上と取り上げて火に油を注ぐ行為は、できるだけさけ、未来に向けて私たちが協力していくために役立つ記事を増やしていきたいと、自分にも改めて言い聞かせたいと思います。

来年のゴールデンウィークには、サザエさんのゴールデンウィーク旅行を全国の人が心から楽しく見ることができますように。

noteプロデューサー/ブロガー

新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログを書きはじめたおかげで人生が救われる。現在は書籍「普通の人のためのSNSの教科書」を出版するなど、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についてのサポートを行っている。

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