マンガのクラファン日本記録更新から考える、日本のマンガができること

左ききのエレン 主人公のエレンと朝倉公一(出典:かっぴー氏)

1月から実施されていたマンガ「左ききのエレン」のクラウドファンディングが、昨晩なんと5,300万円超えという驚きの支援総額で終了しました。

参考:原作版『左ききのエレン』初の紙版単行本&「0巻」制作プロジェクト!

これまでの国内のマンガカテゴリのクラウドファンディングにおいては、昨年8月に実施された「進撃の巨人」の連載10周年記念の2,968万円が、日本最高記録だったようですので、今回のクラウドファンディングはその1.7倍を上回る金額を達成したことになります。

なにしろ、クラウドファンディングで資金を集めて大ヒットし、話題になった映画「この世界の片隅に」が集めた資金が約3,900万円で、当時の国内の映画クラウドファンディングの史上最高額。

参考:「この世界の片隅に」大ヒットでも……クラウドファンディングによる映画制作が「とてつもなく難しい」理由

昨年、日本アカデミーで話題賞を獲得した映画「カメラを止めるな!」のクラウドファンディングは156万円だったといえば、今回の「左ききのエレン」の5,300万超えの凄さが少しは伝わるでしょうか。

参考:カメラを止めるな!は、どのように日本アカデミー賞に辿り着いたのか

もちろん、今回の「左ききのエレン」は、昨年マンガが原作のテレビドラマが放送されたばかりというタイミングですし。

さらには今回は、舞台化を記念したリターンや、法人向けのオリジナルスピンオフマンガ制作権など、「左ききのエレン」ならではの多様なリターンがちりばめられているのが、記録更新に大きく貢献していると考えられます。

そういう意味では、他のマンガがクラウドファンディングをやっても簡単に真似ができる金額でないのは間違いありません。

ただ、マンガを軸にしたクラウドファンディングで、この規模の金額が動く時代になったというのは、注目すべきポイントと言えるでしょう。

■従来の常識や関係者の目標を大幅に上回る結果に

「左ききのエレン」が広告業界を舞台にしたマンガということもあり、筆者も数年前から「左ききのエレン」は愛読していましたし、筆者が昨年から勤務するピースオブケイクが「左ききのエレン」が連載されているサイトcakesを運営している関係もあり、今回のクラウドファンディングは開始前から注目していましたし、当然初期の段階で支援に応募したのですが。

特に興味深かったのは、このクラウドファンディングが、関係者の想像もはるかに上回る形で推移した点です。

クラウドファンディング自体の初期目標は300万。

これは当然達成する前提の必達目標だったと思われますが、「左ききのエレン」作者であるかっぴーさんが書いた記事を読むと、実はこのクラウドファンディングの当初のストレッチ目標は「紙の書籍化系」の日本最高額の1700万円だったそうです。

参考:クラウドファンディングで目標にしてた事|かっぴー(漫画家)

それが開始初日でアッサリと1,000万円を突破。

ほどなくして、3,000万を突破し、マンガカテゴリにおけるクラウドファンディングの日本記録を更新し。

最終的に、すべての人の想像の、その先を超える5,300万円超えを達成したわけです。

■マンガというコンテンツが持つ力

そういう意味で改めて今回のプロジェクトを振り返って感じるのは、マンガというコンテンツのパワーの強さです。

マンガのクラウドファンディングと言えば、今年もう一つ大きな注目を集めているのがマンガ「ちはやふる」の作者 末次由紀さんが発起人となって設立された「ちはやふる基金」でしょう。

参考:ちはやふる基金 | かるたを愛するみんなのために

この基金にかける末次さんの思いは、是非こちらのエッセイマンガを読んで頂ければと思いますが。

競技かるたのマンガを書き続けてきた末次さんが、かるたを日本一強くても続けるのが難しいという競技かるたの現実を目の当たりにし、自らが基金を発起人として立ち上げることで、かるた大会の賞金を拠出する挑戦をすることにされた、というのが非常に印象的なプロジェクトです。

ちはやふる基金は、通常のクラウドファンディングのプラットフォームを利用するのではなく、文字通り基金として運営されていますので、実際に現時点でどれぐらい寄付が集まっているのかは外部からは分かりません。

ただ、早速2月23日には、末次さんが基金の発起人として大会賞金や運営支援金の原資を負担する形で「第1回ちはやふる小倉山杯」が開催。

白熱した試合を繰り広げていたようです。

 

 

 

■全員がうれしいお金の使い方

こうした寄付やクラウドファンディングは、もちろんマンガ家しかできないことではありません。

ビルゲイツ財団のように大きく成功したお金持ちが、持っているお金を寄付に回すということはよくあります。

ただ、「左ききのエレン」のクラウドファンディングや、ちはやふる基金で興味深いのは、マンガのファンという共通の文脈を持った人たちのエネルギーが、マンガを軸として、マンガの作者や出版社以外の経済も動かす方向に流れていく可能性が見えてくる点です。

そう考えると、クラウドファンディングの成功者として有名なキングコングの西野さんも、マンガではないものの、絵本というコンテンツを軸に、兵庫県川西に美術館を作ったり、満願寺というにあるお寺で個展を開催したり、と地域の経済に明らかに影響を与えているのが印象的でした。

参考:キンコン西野、クラウドファンディングの合計調達額が2億円を突破「皆さんと一緒に」

 

昔、マンガ情報サイトを運営する、起業家のけんすうさんと対談をさせて頂いたときに、キングコングの西野さんが美術館建設のために行ったクラウドファンディングのリターンのひとつとして30万円で1000人の子どもを美術館に無料招待できる権利を設定した例を上げ「子どもたちにも貢献できて、西野さんにも喜んでもらえて、自分も含めて全員がうれしいお金の払い方なのでしょう。」と話されていたのを良く覚えています。

参考:けんすうが語る「広告論」 企業は、宗教のコミュニティづくりから学ぶべき

実は、マンガというコンテンツは、こうした「全員がうれしいお金の払い方」を導く呼び水になりやすいコンテンツなのかもしれないと感じるのは、私だけでしょうか?

世界に、日本以上にマンガを愛している国はないとよく言われます。

実際に私もマンガを毎週のように読みながら育ちましたし、今でも出版不況と言われる中で、マンガだけは電子版へのシフトに成功し、紙の売上を電子版が上回り、世界でも最大の市場なんだそうです。

だからこそ、漫画村騒動であれだけ国が大騒ぎしたということもできるでしょう。

ここ1ヶ月は、新型コロナウイルスの話題一色で、日本経済の停滞も真剣に心配されています。

そうした現状の中、直近では週刊少年ジャンプやコロコロコミックのネットで無料公開が話題になっており、もちろん、それはそれで素晴らしいことです。

でも、実は日本のマンガができることは、無料公開だけじゃなくて、もっといろいろあるんじゃないかなと。

「左ききのエレン」の日本記録大幅更新に、そんな勝手なことを考えてしまう今日この頃です。