有言実行の人 本田圭佑が、今度はブロックチェーンのイメージを変える
5月末にオーストラリアのメルボルン・ビクトリーを退団し、今後の去就が注目される本田圭佑選手。
この週末には、実質的な監督をつとめるカンボジア代表を指揮し、W杯1次予選でパキスタンを破り、幸先の良いスタートを切っていましたが、そのまた前の週の5月30日には、東京ミッドタウンで開催された「Advertising week asia 2019」に登壇。
ブロックチェーンファンドの設立を目指すことを発表しました。
参考:本田圭佑、ブロックチェーンファンド設立へ「誰もが夢を追い続けられる世界をつくる」
まだファンドの規模や具体的な内容が語られなかったため、それほど大きな話題にはなっていないようですが、当日、個人的にも会場で講演を聴いていて、大きな可能性を感じたのでご紹介しておきたいと思います。
ブロックチェーンとは仮想通貨のこと?
一般的に、「ブロックチェーン」という言葉を聞くと、ほとんどの人が想像するのは「ビットコイン」であり「仮想通貨」でしょう。
2009年に運用が開始されたビットコインは、2011年頃は1ビットコインの価値がたったの約0.3ドルだったそうですが、2013年には900ドル、そして2017年のピーク時には2万ドルに迫るところまで急騰。
「億り人」と呼ばれる多数の億万長者を生み出し、日本でもおおいに注目されました。
ただ、その後、コインチェックの不正流出事件なども重なり、仮想通貨バブルがはじける結果となり、価格が1年で8割下落。
最近でこそ価格を戻してきてまた注目されてきていますが、かなり「投機」の悪いイメージがついてしまった方は多いように思います。
実際にGoogleトレンドで検索数のグラフを見てみると、2017年末の仮想通貨ブームがいかに大きなピークだったかが良く分かります。
さらに、特に有名人とブロックチェーンというと、広告等としてGACKT氏を起用してガクトコインと呼ばれるようになったSPINDLEが大暴落するなど混乱を招いたこともあり、今回の本田選手のブロックチェーンファンド設立のニュースに対しても、ガクトコインの二の舞ではないかと心配する声も聞かれるようです。
ただ、今回の本田選手の講演を聴く限り、本田選手のブロックチェーンファンド設立の動機は、仮想通貨の投機的な面とはまったく違うと言えます。
本田選手が、いまや選手とカンボジア監督を両立していることは有名だと思いますが、本田選手はそれ以外にも、もう10年以上経営者としての実績も積み重ねている敏腕経営者でもあり、さらには大規模なファンドを運用する投資家でもあるという複数の顔があります。
サッカー以外でも多数の実績を積み上げる
本田選手が、サッカー選手としての絶頂期からこうした活動を始めるようになった背景には、オランダに移籍した2008年にある国に遠征に行ったときに目にした物乞いの子どもの光景が原体験にあるそうです。
それは1歳ぐらいの子をおんぶ紐で背負って物乞いをしている子どもの姿。
その姿を見て損得勘定なしで「何かしないとな」という経験をしたことが、その後の本田選手がサッカー選手としての頂点を追い求めつつ、平行して経営者をするといういわゆるスラッシュキャリアな人生の起点となっているそうです。
その歴史を書き出してみると、こんな感じ。
■2008年 物乞いの子どもに衝撃を受けて「何かしないとな」と考える。
■2010年 南アフリカW杯に出場。日本代表がベスト16進出する原動力に。
■2012年 子ども達に夢を与える活動をしたいとサッカースクールをはじめる。
(すでに全国で70校以上を展開。)
■2014年 ブラジルW杯に出場。グループリーグ敗退の戦犯として大バッシングを受ける。
■2016年 本当に救うべき子ども達はスクールに通う余裕すらないので、投資を通じて社会課題を解決したいとエンジェル投資を開始。
(すでに50社以上に投資を実施。)
■2018年 ロシアW杯に出場。史上6人目となる3大会連続で得点とアシストを記録した選手に。
■2018年 自分のお金では限界があるので、俳優のウィルスミスと共同でベンチャーキャピタルを立上げ。
(すでに30社程度に投資を実施。)
参考:Dreamers
あえて、W杯出場履歴も並べて書いてみましたけど、凄いですよね。
サッカー選手としても結果も出しつつ、並の経営者や投資家よりも早いスピードで事業を広げているわけです。
挑戦したい人たちをサポートするために
本田選手の言葉を借りると、全ては「挑戦したい人たちをサポートする」ための活動です。
当日のセッションでは、本田選手が一緒にブロックチェーンに取り組む、クリプトエイジファウンダーの大日方氏も登壇。
本田選手自ら「ブロックチェーンは投機的なイメージがある」とか「詐欺まがいみたいな」という発言を投げかけるなど、ブロックチェーンバブルに対しての問題提起もしつつ、いわゆる投機的なものとは明確に一線を引いていました。
ある意味、本田選手が本気で「ブロックチェーン」というキーワードのリブートに取り組むという宣言でしょう。
実際、ブロックチェーンというのはあくまで技術の名称であり、仮想通貨もブロックチェーン技術を使った一つのサービス例にしかすぎません。
ブロックチェーンの本質的な可能性は「分散型」という点です。
本田選手は、例えば仮想通貨においても、日本においては円が普通に機能しているのでその重要性が分からないかもしれないが、政治が不安定な国では、自国の通貨や土地がどうなるか分からないので、国に依存しない、誰の手によっても支配されていない通過という意味で仮想通貨の可能性を強調していました。
現在、我々が使っているウェブサービスのほとんどは、分散型の対極にある「中央集権型」です。
GAFAという呼ばれ方もありますが、GoogleやAmazon、FacebookにAppleなど、巨大な営利企業が提供しているウェブサービスを我々は利用しており、その情報は我々のものではなく、そうしたウェブサービスを提供する巨大企業のもの。
ネット上の権力は限られたプレイヤーに集中しはじめていると言われています。
しかし、ブロックチェーン技術を活用すると、そうした大手企業や政府に依存しない新しい分散型のサービスの可能性が見えてきます。
そして、そうした分散型のサービスこそ、本田選手が成し遂げたい「挑戦したい人たちをサポートする」ことと相性が良いというのが本田選手がブロックチェーンという技術とキーワードに感じている可能性なのでしょう。
そんな本田選手の姿勢は、このイベントの前日に大きく話題になった「僕が10000円払うので、僕にサッカーを教わりたい人っていますか?」というツイートにも表れていると思います。
参考:本田圭佑「1万円払ってサッカー教えます」のツイート波紋と背景とは?
普通であれば、教わる人が教える人にお金を払うのが常識ですが。
あえて教える人が教わる人にお金を払ってでも、本気で挑戦したい人を探すという社会実験なのでしょう。
サッカーよりも事業の方が有言実行しやすいかも
本田選手と言えば、小学生の卒業文集に書いた夢を見事に実現していることで、有言実行の人と呼ばれることもある選手です。
参考:伊紙、本田圭佑の小学校卒業文集を紹介「10番で活躍します」
一方で、ずっと順風満帆だったわけではなく、たくさんの挫折も経験されている選手でもあります。
ミランで3年半もの間、栄光の10番をつけてプレーをしましたが、最後の1年は出場機会の減少に直面することになりました。
ブラジルW杯では、目標は優勝と公言し続け、結果的に予選敗退したことで、戦犯として猛烈なバッシングを受けました。
メルボルン・ビクトリーにおいても、最終戦で敗北したため「タイトルを獲る」という公約は達成できませんでした。
そういう意味では、本田選手も常に予言者のように「有言実行」を成し遂げ続けて来れているわけではありません。
特にサッカー選手という職業は、年齢やチームの状況、運など、個人ではどうしようもない壁があります。
そのため、残念ながら、本田選手が公言していた目標であるW杯優勝が、本人によって達成されることはありませんでした。
ただ、ビジネスの世界では、年齢や経験はシンプルに武器に変わります。
すでに本田選手がサッカースクールをはじめとしたいくつもの事業を成功させているのと同様に、本田選手がブロックチェーンのイメージを変え、ブロックチェーン技術によって「挑戦したい人たちをサポートする」ことに力を注ぐ、と決めたのであれば。
本田選手が諦めない限り、確実にその未来は実現されるのではないかな、と感じるのは、私だけではないはずです。
イベントの最後には、本田選手が会場からの質問に答え、日本人が失敗に寛容でなさすぎる、と問題提起する場面がありました。
本田選手の言葉を借りると、「失敗は学び。今の日本を作ってくれた先祖は、リスクを恐れずに挑戦していたはず。」
そう考えると、ブロックチェーンにしても、炎上にしても、1度失敗した技術や人間に対して、今の日本が寛容でなさすぎるのは間違いない気はします。
「投資家」本田圭佑氏によるブロックチェーンファンドの今後に注目したいと思います。