アベンジャーズとアイアンマンの裏話から考える依存症と炎上との戦い方

ロバート・ダウニー・ジュニアには依存症で苦しんだ過去があるそうです。(写真:REX/アフロ)

10連休が終わって初めての平日となった本日ですが、10連休直前に公開になった映画「アベンジャーズ エンドゲーム」が、なんと公開2週で全世界の興行収入21億9300万ドルを突破。ながらく世界興行収入の歴代2位に君臨していた「タイタニック」をあっさりと上回ったというニュースが飛び込んできました。

参考:【全米映画ランキング】「アベンジャーズ エンドゲーム」V2 「タイタニック」抜き世界興収歴代2位に

日本では、名探偵コナンの壁に阻まれて今週末の興行収入は2位に甘んじたようですが、それでも国内の興行収入は40億を突破。

過去のマーベル作品の国内記録を塗り替える好スタートを切りました。

今後、世界興行収入で歴代1位のアバター超えが達成されるのかも気になるところですが、先日、エンドゲーム公開に先駆けて、アメコミライターとして有名な杉山すぴ豊さんの講演を聴いて、びっくりした話があるので、こちらでもご紹介したいと思います。

それは、一連のマーベルシネマティックユニバースと呼ばれる作品群の、第一作となる「アイアンマン」誕生の裏話です。

■ロバート・ダウニー・ジュニアとアイアンマンの共通点

11年前の2008年に公開された1作目の映画「アイアンマン」から、今回の「アベンジャーズ エンドゲーム」まで、マーベルは11年間で22作品にものぼる壮大な作品群を生み出すことになりましたが。

実は、最初の作品である「アイアンマン」が失敗したら、ここまでの壮大な構想にはならなかったかもしれないと言います。

その最初のスタートを飾る大事な作品で主役を務めることになったのが、ロバート・ダウニー・ジュニア。

アイアンマンを見たことが無い人でも、テレビドラマ『アリー my Love』でアリーの恋人役だったと言えば分かる人が多いかもしれません。

実はこのロバート・ダウニー・ジュニアには、こどもの頃からドラッグの問題を抱えており、『アリー my Love』のシーズン中にコカイン所持で逮捕され、番組を途中降板した過去があるのです。

そのため、アイアンマンのオーディションにおいても、当初制作スタジオ側は、「どんなことがあっても、彼を雇うことはない」と明言していたと言います。

しかし、彼はオーディションで他の役者達を圧倒する演技を披露し、主人公の役を手に入れたそうです。

ここで、興味深いのが、実はアイアンマンのトニー・スターク自身も、コミックにおいて実はアルコール中毒に悩む設定だったという点です。

参考:『アイアンマンを振り返る』その歴史と映画たち!

アメコミには、DCコミックとマーベルの二大パブリッシャーがいるのですが。

スーパーマンやバットマンなどが有名なDCコミックにおいて、スーパーヒーローが完全無欠な存在として描かれることが多いのに対して、ヒーローも我々と同じ人間らしい悩みを抱えているというのがマーベル作品の一つの特徴なんだとか。

だからこそ、マーベルのコアなファンは、アイアンマンのトニー・スターク役に、薬物依存の過去があるロバート・ダウニー・ジュニアが抜擢されたことを受け入れられた面があるんだそうです。

■ピエール瀧氏の話題は未だに炎上の火種に

一方で、日本では、ピエール瀧氏の違法薬物使用事件が、未だに様々な議論を巻き起こしているというニュースを見ると、個人的には複雑な思いがどうしてもこみ上げてきてしまいます。

直近では、保釈されたピエール瀧氏と、石野卓球氏がツイッターにツーショットの写真をアップ。

ファンからの多数の応援コメントがあった一方で、批判的なコメントも誘発する結果となり、一部のメディアでは批判的な報道があった模様。

参考:石野卓球との写真で見せたピエール瀧被告の笑顔 神妙な顔での謝罪は何だったのか

 

一連の投稿をツイッターの連投で分析した看護師の方のツイートまとめが、すでに20万以上のアクセスを集めるなど、引き続き注目されていることが見て取れます。

参考:ある看護師が考える「石野卓球がピエール瀧逮捕後にふざけたツイートを繰り返した理由」に「この考察は凄い」「依存症支援の理解になれば」と共感集まる

 

当然、麻薬の使用という行為は、直接他人を傷つけていないという面はあるかもしれませんが、犯罪組織に資金を提供してしまっている面もあり、許されるべきでない深刻な犯罪行為であることは間違いありません。

その行為に対してピエール瀧氏が、法的にも社会的にも罪の深さの分、罰せられることは、同様の行為に手を染めてしまう人を減らすためにも、必須と言えるでしょう。

ただ、一方で、薬物依存に陥った人の人生が、そこで終わるわけではありません。

犯罪に手を染めてしまったからこそ、薬物依存に陥ってしまったからこそ、そこから再起ができることを示すことで、一般の我々の声では救えない人が救われることもあるように思います。

■依存症経験者だからこそできることがあるはず

3月には、覚せい剤取締法違反の罪で有罪判決を受けた清原和博氏が、薬物依存の恐怖を啓発するイベントに登壇されていたそうですし。

参考:清原氏、3年ぶり公の場で語った薬物依存の恐怖 厚労省イベントにサプライズ登場

先月には、女性問題や薬物依存の問題で、もう二度と日の目を浴びることはないのではないかと一部で考えられていた、タイガーウッズが見事な復活を果たし、この10年間、ナイキがスポンサーとしてウッズを支えてきたことが話題になりました。

参考:ウッズ復活Vで報われたナイキ、「失われた10年」支える

 

このニュースによって、勇気をもらった人は少なくないはずです。

最近の日本においては、薬物依存や不倫騒動など、問題が明らかになった有名人の周辺から、一瞬のうちにスポンサーがいなくなるのは当然のこととして、放映予定の作品の放映中止や役者の撮り直し、さらには過去の作品の販売停止まで、自動的に実施されるようになってきている印象が強くあります。

企業からすれば、ピエール瀧氏のような薬物犯罪者の作品を販売し続けると、ネット上で炎上するだけでなく、クレームの電話やメールが殺到するリスクも高いでしょうから、保守的に判断するのは当然と言えるかもしれません。

ピエール瀧氏と石野卓球氏のテクノユニット「電気グルーヴ」の出荷停止、配信停止の撤回を求める署名活動では6万人を超える署名が集まったようですが、6月1日を目処に回答を求めているものの、まだどのような結果になるかは不透明のようです。

参考:電気グルーヴ出荷停止に反対署名6万人

撤回を求める人がいる一方で、出荷や配信を行った際にクレームをつけてくる人もいる可能性がありますから、企業側にとって難しい時代になっていることは間違いありません。

■支えとしての存在の大事さ

ただ、やはりピエール瀧氏における石野卓球氏や、タイガーウッズにおけるナイキのように、騒動の中で踏みとどまり、友として薬物依存からの復帰を支える存在は、それはそれで必須であり、その支えとしての行為まで批判するのは行き過ぎのように感じます。

企業側も、単純に過去作品の放映を中止したり、廃盤にしたりするのではなく、その収益を麻薬撲滅のための活動に寄付するなどの別の選択肢を検討するという手もあるはずです。

最近は、有名人だけでなく、個人が友達との悪ふざけで不適切動画をあげてしまい、職場をクビになるどころか、訴訟の対象になるケースも出てきています。

その時に、友人も含めて全員が自分に対して矛先を向けてくる世の中だったら、と思うとゾッとしてしまうのは私だけでしょうか?

参考:くら寿司動画炎上で考える、バイトテロが繰り返されてしまう理由

依存症で苦しいときこそ、炎上で叩かれて辛いときこそ、最も大事なのは家族や友人の支えだと思います。

ロバート・ダウニー・ジュニアが、スクリーンに復帰することができたのは、2003年に薬物依存症の役者が映画出演時に支払わなければいけない高額な保険代を、メル・ギブソンが自腹で支払ってくれて「The Singing Detective」という映画に出演することができたことがきっかけになっているそうです。

(出典:The Singing Detective IMDbウェブサイト)
(出典:The Singing Detective IMDbウェブサイト)

参考:The Singing Detective (2003) - IMDb

メル・ギブソンの友人としての支えがなければ、アイアンマンにロバート・ダウニー・ジュニアが出演することもなく、アイアンマンのヒットもそれほど大きくならなかったかもしれません。

ネタバレになるので詳細は書きませんが、アベンジャーズ エンドゲームをご覧になった方なら、ロバート・ダウニー・ジュニアの演技とその独特な存在感が、11年間で22作品という壮大なストーリーの締めくくりの中心的存在であることに同意頂けるはずです。

アベンジャーズの「アベンジ」とは悪に対する復讐や逆襲のこと。

一度敗北や挫折を味わったヒーロー達が団結して、巨大な悪と戦っている姿が見る人たちの心を打ち、感動を呼ぶわけです。

挫折を味わったロバート・ダウニー・ジュニアがその中心にいることには、見る人が見れば大きな意味があります。

大げさな言い方になりますが、彼が依存症から復帰できていなければ、もしかしたらマーベルシネマティックユニバースは今回ほどの大成功を収めるまでの展開を見せることはなかったかもしれないわけです。

(出典:著者撮影)
(出典:著者撮影)

当然、日本とアメリカでは薬物犯罪に対する身近さも、薬物犯罪者に対する社会の許容度も大きく異なりますから、単純比較することはできません。

田代まさし氏のように、何度も再犯を繰り返してしまっているケースもあり、芸能界が身内の罪に対して甘いという批判が強くなってしまった面もあるでしょう。

ただ、だからこそ、ピエール瀧氏や清原和博氏には、ロバート・ダウニー・ジュニアやアイアンマンのように、依存症から脱却して、依存症と正しく戦うシンボルになって欲しいと願う次第です。