くら寿司動画炎上で考える、バイトテロが繰り返されてしまう理由

鮮度や衛生面が重要な寿司チェーンにおいて、不衛生な行為は致命的です(写真:アフロ)

 ここ最近、また飲食店におけるアルバイトの炎上騒動が連鎖してしまっています。

 特に最も大きな話題になっているのが、くら寿司がアルバイトに対して法的措置をとると宣言したニュースでしょう。

参考:くら寿司、不適切動画の従業員2人に刑事、民事での法的措置へ

 

 いきなりの訴訟というのは日本では珍しいと思われる方も多いかとは思いますが、くら寿司側は「全国で共に働く約3万3000人の従業員の信用回復」と「多発する飲食店での不適切行動とその様子を撮影したSNS投稿に対し、一石を投じるため」としています。

 このニュースに対しては、当然の処分という声もある一方で、くら寿司側の教育責任を問う声や、アルバイトの応募が減るのではという声もあり、様々な議論をよんでいるようです。

■アルバイトの炎上騒動はなぜ繰り返されるのか

 少しネットの騒動に詳しい人であれば、いわゆる「バイトテロ」や「バカッター」と呼ばれるこうした飲食店のアルバイトによる不衛生な行為のSNS投稿の騒動が、2013年頃に大きく注目されたことを記憶されている方も多いでしょう。

 

 そういう方からすると、当然今回の騒動を見て「なんでまた同じようなバカをするんだ」とか「バカな行為をするやつは結局減らないんだな」と思った方も少なくないのではないかと思います。

 今回のくら寿司のアルバイトへの訴訟も、同様の思いから「一石を投じるため」という表現がされているように感じます。

 実際にどれぐらいの規模の訴訟になるのかは分かりませんし、訴訟の結果がどうなるのかも今の段階では全く見えませんが、一部ではアルバイトの1度の悪ふざけで、一生返せないような賠償金を家族が抱えることになるのはどうなんだ、という声もあるようです。

参考:くら寿司のアルバイト従業員の不適切な動画が炎上 身元が特定され従業員は憔悴とも

 

 上記の報道によると、問題のアルバイトは、投稿後の反響に驚いてたったの3時間で動画を削除しているようです、明らかにこれは富士樹海騒動の時の確信犯ユーチューバー的な動画ではなく、友達との軽い悪ふざけが行き過ぎてしまった、ぐらいの気持ちなのでしょう。

 ここで気になるのが、なぜこうした騒動は繰り返されてしまうのか?という点だと思います。

■バイトテロが話題になる6つの背景

 2013年のバイトテロ騒動の時もそうでしたが、この手の炎上騒動は複雑な要素が組み合わさって大きな話題となっているのがポイントです。

 具体的に、問題の構造を分割してみましょう。

■1.元々、「バカな行為」は目に見えないレベルであった

 これは多くの有識者が指摘していることですが、残念ながら飲食店の裏側で、アルバイトが暇な時間に不適切な行為をしていたり、不衛生な行為をしている人は、ネット時代以前から存在していたはずです。

 私自身も20年以上前にファミレスや居酒屋チェーンでバイトしていたことがありますが、学生アルバイトが中心ですから、ごみ箱に入れて戻すほどの不衛生な行為は論外としても、似たような種類の悪ふざけを目撃したことはあります。

 飲食店以外の、友達の家での飲み会や、大学の部活の打ち上げなどでは、もっとひどいふざけた行為は良くあるはず。

 ただ、当時はそうしたバカな行為は、あくまでアルバイトの中だけの秘密であり、店長や先輩店員、親に見つかって怒られる、のがせいぜいだったわけです。

■2.ネット投稿により「バカな行為」が可視化された

 それが、ソーシャルメディアの普及により、バカな行為は可視化されるようになりました。

 特に大きいのは、写真や動画による可視化の効果です。

 従来であれば、「友達のアルバイトがアイスの冷蔵庫に入ってた」とか「友達のアルバイトがごみ箱に切り身を投げ入れてた」と文字で言われても、そもそも真偽のほどが分かりませんし、今回ほど炎上することはなかったでしょう。

 それが写真、そして動画になると話は全く変わります。

 問題のくら寿司の動画を見て「正直、くら寿司行きたくないよねぇ」と話している人がいましたが、ある意味動画には現行犯で犯罪行為を目撃するのと同じインパクトを動画閲覧者全員に与えてしまうわけで、その可視化効果は絶大なわけです。

 実は類似の不適切動画投稿による騒動は、今にはじまった話ではなく2007年にもありました。

参考:吉野家、「テラ豚丼」動画騒動で謝罪

 

■3.一部の人は「バカな行為」投稿を友達しか見ないと思い込んでいる

 炎上した動画を投稿した理由は、ケースによって様々に異なると思いますが、バイトテロ騒動における大抵の言い訳は「こんなことになると思っていなかった」です。

 ある意味テンプレの言い訳ではありますが、実際に今回の一連の騒動の動画の多くが、インスタグラムのストーリーズという24時間で消えるのが前提の機能を使って投稿されています。

 匿名だし、消えるし、友達しか見ないだろうし、というのが、この手の炎上で良くある思い込みのパターンです。

 インスタグラムのストーリーズの炎上では、先日ドルチェ&ガッバーナのデザイナーが過激発言で中国市場を失ってしまった事例がありますが、プライベートな場所だから大丈夫という思い込みが発生しやすい構造にあるとも言えます。

参考:一晩で中国市場を全て失ってしまったドルガバ炎上事件の衝撃

 

■4.一方で「バカな行為」は瞬時に拡散するようになった

 特にツイッターのユーザー増加と仕様変更によって、最近では明らかに面白写真や面白動画が、一瞬で大勢の人に拡散するようになっています。

 特に影響していると思われるのが、ツイッターのタイムラインが単純な時系列ではなく、「重要な新着ツイート」として、反応が大きい投稿が優先して表示されるようになっていることでしょう。

 これにより、ツイッターは他のSNSと比べても明らかに話題の拡散スピードが圧倒的に速くなっています。

 実際に、2013年のバイトテロ騒動の起点となったローソンの冷蔵庫写真も、もともとはFacebookに投稿したものがツイッター上で話題になって広がった、という面があるようですし、今回の一連の動画もインスタグラムにあげられていた動画が、ツイッターに投稿されたことで大きく拡散したようです。

参考:「コンビニのアイスケースに入ってみた」写真炎上でローソンが謝罪 

 上述のドルガバ炎上の際もインスタのメッセージのやり取りがキャプチャしてさらされましたが、メールやLINEのメッセージがさらされて炎上するケースも増えています。もはや友達限定でアップしたとかそういう背景は関係なく、不適切な行為、おバカな行為は、コピペされて簡単に拡散する時代になってしまっているのです。

 

■5.「バカな行為」を大きく取り上げるメディアも増えた

 さらに影響が大きいのが、こうしたバカな行為をメディアが取り上げるタイミングが、数年前に比べると圧倒的に早くなっているという点です。

 火事の野次馬と同様に、通常のストレートニュースに比べると、炎上の話題というのは比較的ページビューが稼ぎやすい話題であるといわれています。

 そのため、最近はネットメディアがツイッターで話題になっている投稿を元にすぐに記事化するというサイクルが早くなっています。

 特におバカ行為を投稿する若者にとって深刻なのが、マスメディアで大きく取り上げられることが多くなった点です。

 ツイッター炎上の黎明期の事例と言われる、ウェスティンホテルやアディダスの従業員の不適切投稿の炎上事件の頃は、それほどマスメディアでは大きく取り上げられていなかったと記憶しています。

参考:Twitterに有名人の来店情報を店員が投稿 ウェスティンホテルが謝罪

 当時は、ああいった騒動は文字が中心であり裏もとりにくい「ネットの話題」であったことが大きいでしょう。

 ただ、最近はテレビの情報番組の担当の方々はネットを起点に情報収集することが増えています。

 さらに騒動の起点が写真や動画だと、それ自身が証拠でもあり、テレビ番組映えもするため、大きく繰り返し報道されることが増えてしまいました。

 実際今回のくら寿司の動画も、アルバイトは3時間で削除したにもかかわらず、アーカイブした動画が発掘されテレビ局で繰り返し流されてしまっています。

 インターネット以前であれば、一つの飲食店でアルバイトによる不衛生な行為が目撃されたところで、多数の食中毒の被害者でも出ない限り、それがテレビのワイドショーで繰り返し報道されることなどありえませんでした。

 今回の騒動により、くら寿司は市場価値が20億円以上も下がったという報道もありましたが、一つのバイトのバカな行為が、証拠映像として大きく報道されることで、文字通り業績に悪影響を与える時代に入ってしまったわけです。

 「バイトテロ」と表現されているように、ある意味、一人の悪ふざけが企業の業績に大きな被害をもたらす時代に入ってしまったとも言えます。

■6.「バカな行為」が話題になると過去のものも遡られるようになった

 また、派生した影響として大きいのが、こうして騒動がテレビで話題になると、類似の行為の話題性が増すという点です。

 今回のくら寿司の騒動の前には、すき家のバイトの動画が問題になっていたので、くら寿司の動画は二つ目ということで注目を浴びやすい構造になっていた面はあると思います。

 さらにその後、今度はビッグエコーの動画が問題になりましたが、実はこの動画は昨年12月にアップされたモノというのがポイントです。

 一つの騒動が話題になると、それに関連した話題に注目が集まるため、過去にあげられた動画が発掘されて注目されてしまいやすいわけです。

参考:ビッグエコー店員らしき人物の不適切動画が炎上 2カ月前に対応していた

 実際に2013年の炎上騒動の際にも、ローソンの冷蔵庫写真の後にメディアに取り上げられた多くのバイトテロ騒動が、実は過去の写真が掘り出されて炎上したモノでした。

(出典:筆者作成)
(出典:筆者作成)

参考:「なぜステマがネットで騒動になるのか」の講演資料を公開しました。

 今回も、複数の企業の動画が話題になっていますが、ビッグエコーのように過去の動画が掘り起こされてしまうわけです。

 こうやって、問題の構造を分析すると、いわゆる一連のバイトテロ騒動は、1にあるもともと存在していた「バカな行為」が、4~6という簡単に炎上しやすい構造になった時代になっているにもかかわらず、それを知らずに昔と変わらないバカな行為を、平気で自分で動画という証拠の形で録画してしまう人達によって引き起こされていることが良く分かると思います。

■この問題を、バカなアルバイトの問題と切り捨てて良いのか

 実は、私自身は今回とほぼ同じような記事を2013年に書いています。

参考:コンビニや飲食店の冷蔵庫バカ写真炎上騒動が連鎖し続ける背景にある8つの要因 

 当時に比べると、この5年ほどで、明らかに炎上の話題度の振り幅やメディアの取り上げ方は大きくなり、バイトテロの企業にとってのリスクは大きくなりました。

 そういう意味で、個人的に最も問題だと感じているのは、若者を中心にそうしたおバカ行為のリスクについての教育が浸透していない点です。

 例えば今回のくら寿司のケースでいうと、該当のアルバイトは下記の5つのリスクの全てを理解していない、もしくは軽く見積もっていました。

■ゴミ箱に入れた食材をまな板に戻すような行為は言語道断であること

■ふざけてやった行為でも人に迷惑をかける行為には罰があること

■ネット上の投稿は友人以外に拡散する可能性があること

■ネットに匿名で投稿しても本人が特定される可能性があること

■不適切な行為がネットで拡散したら、通常よりも大きな訴訟のリスクがあること

 実はこういった話は、アルバイトを採用した企業だけでなく、そもそも家庭や学校で教育しておくべき社会常識やネットリテラシーの基礎知識と言えます。

 もちろん、それを踏まえてでも犯罪行為や不適切な行為をする人はいるでしょうし、そういう人には厳しい罰則が必要な面は間違いなくあります。

 ただ、残念ながら現在の企業や学校、家庭では、今回のようなニュースが出てくれば出てくるほど、単純に学校でのスマホの利用を禁止し、SNSの利用を禁止する、という対応が中心になっている印象です。

 実はスマホやSNSを単純に禁止、とうたったところで、完全に個人の利用を禁止するのは無理。

 結局、なぜ禁止なのかという背景をちゃんと説明し、間違った使い方をしないように教育してあげないと、こっそり隠れて間違った使い方を覚えてしまうように思います。

 バイトテロと呼ばれるような問題を起こすアルバイトの多くが若い学生です。

 実は、そうした学生が上記の5つの項目の一つでも認識していれば、今回のような大きな騒動にならない程度の問題で済んだかもしれないわけです。

 

 自分が若い学生だった頃にしでかしてしまったことを振り返ってみて。

 もし自分が今の時代に学生だったら、何かの拍子に今回の騒動を起こしたアルバイトと同じようなリスクをかかえていたかもしれない、と思う私のような人は、きっと少なくないはず。

 今後同様の騒動を起こして、人生を踏み外してしまう若者が増えないように。

 学校や、家庭、企業、そしてその話題を繰り返し取り上げるメディアや、その場を提供しているソーシャルメディアのプラットフォーム企業も含めて、様々な対策を考えなければいけない段階に入っていると感じます。