2017年に考えるべき「広いメディア」と「深いメディア」という二つの選択

「広いメディア」と「深いメディア」はどちらが強いのでしょうか?(写真:アフロ)

2017年も、はやくも20日が過ぎ去ろうとしています。

2016年はDeNAのWELQ騒動を起点として、ネットメディアの倫理や信頼性に大きな問題提起がされた年となりました。

DeNAは騒動の結果、運営するキュレーションプラットフォームの全サイトを非公開化し謝罪会見を実施、1ヶ月以上経った今でも非公開化の状態が続いています。

さらには、ライターのヨッピーさんがサイバーエージェントグループのSpotlightへの糾弾をされていたり、NAVERまとめの削除対応を物議をよんだり、リクルートグループの運営メディアやKDDIグループの運営メディアが記事を削除する展開にもなり、多くの上場企業が運営するネットメディアにも様々な問題があったことが可視化されてしまいました。

現実的には、いまだに水面下で様々な問題がくすぶっている状態とも言えるでしょう。

こうした状況から、この年末年始は、さまざまなイベントでネットメディアに関わっている方々とお会いする度に今回の騒動が話題になる状況が続いていますが。

個人的に最も印象に残ったのが、インフォバーンの小林さんがおっしゃっていた「そもそもメディアなんてたいして儲からないのに、儲けようとする人がメディアをやるからああなるんだ」という趣旨の発言でした。

実際、ベンチャーメディア界隈の方にお話をお聞きすると、ここ数年DeNAやKDDIがベンチャーが立ち上げたメディアを高額で買収した流れが生まれたため、若手のベンチャー起業家に投資家側が、ネットメディアを光速で立ち上げて大企業に売る、というサイクルを推奨する傾向も一部にあったそうです。

現実的には、Google Adsenseとかアドネットワークの広告収入だけでは、ページビュー単価0.2円とかで大した収入にならないわけで、その収入だけでは個人が一人で運営するならまだしも、会社として複数の社員を雇用していくのは難しいわけですが。

とにかくネットメディアの立ち上げを必死に頑張って大企業の目にとまれば、数億円や数十億円で買収されるのが夢ではない、というプチジャパニーズドリームが出現したわけで、この数年多くの大企業が儲からないと嘆いていたはずのネットメディア事業に雨後のタケノコのようにベンチャーによる新規参入が相次いでいたのも、今考えるとなるほどそういう錬金術だったんだ、というのが正直な印象です。

で、そのバブルは今回のDeNA騒動で間違いなく泡と消えてしまったわけですが。

個人的に気になっているのが、今後のネットメディアはどういうところが生き残っていくのか、という疑問です。

丁度、来週開催されるYahooと日経新聞が共催している「Media×Tech2017」というイベントで「Yahoo!ニュースVS日経電子版:デジタル時代の勝者は」というパネルディスカッションのモデレーターをさせて頂く関係で、両社をサンプルに自分の考えをまとめたものを一旦公開してみたいと思います。

「広いメディア」か「深いメディア」のどちらかにならないと生き残れない

個人的に結論として感じているのが、タイトルに書いた今後のネットメディアは「広いメディア」か「深いメディア」のどちらかにならないと生き残れないのではないか、という仮説です。

まず「広いメディア」は、とにかく大勢の人たちに見られることを目指すメディアを意味します。

いわゆる「マス」を対象にしているメディアで、比較的ニュースのカテゴリーは多岐にわたり、基本的には無料で記事を公開することでできる限り大勢の読者を集めているのが特徴。

日本で言うと間違いなくこの「広いメディア」の代表は地上派のテレビ局でしょうし、ネットメディアで言えばYahoo!ニュースが代表格。

最近だとスマートニュースとかグノシーのようなスマホニュースアプリもこちらの「広いメディア」を目指しているメディアでしょう。

一方で「深いメディア」は、何か特定のカテゴリーにおいて深い情報や知見が得られるメディア。

象徴的なのは雑誌で、日経ビジネスや東洋経済はビジネスマンにとっての「深いメディア」だと思いますし、Numberはスポーツ好きのための「深いメディア」で、ベストカーは自動車好きのための「深いメディア」 

こちらは「マス」ではなくある特定の「ターゲット」が明確なメディアで、ニュースのカテゴリーが偏っているメディアです。こちらは無料で公開されているものもありますが、「深い」がゆえに読者が有料でもお金を払ってくれるのが特徴というイメージです。

従来のマスメディアは必ずしも「広いメディア」ではない

メディア関係社の方からすれば、何を今更当たり前のことを、という話だと思うんですが、この分類で注意して頂きたいのはいわゆる従来の「マスメディア」=「広いメディア」で、「ネットメディア」=「狭いメディア」ではない点です。

従来のマスメディアとはテレビ、新聞、ラジオ、雑誌を4つのマスメディアを「4マス」と表現することが多くありました。

ただ、例えば雑誌は「マス」が対象のメディアではなく、読者のターゲットが明確な「深いメディア」だと思いますし、実は日経新聞も上記の定義で言えば「マス」メディアではなく、ビジネスマンターゲットの「深いメディア」の方に分類されるのではないか、というのが個人的な印象です。

こういうと日経新聞の方からすると、自分達は300万部の購読数がある「広いメディア」でありマスメディアだとおっしゃるかもしれないんですが、実はそれでも900万部近い販売部数を誇る読売新聞に比べると3分の1。朝日新聞と比べても半分以下です。

実は誰でも対象になる一般紙に比べると、当然ながら経済新聞は市場が狭いわけです。

ただ、ここで言う「狭い」ことは、メディアのビジネス上はネガティブな意味にはなりません。

日経新聞は経済誌という「狭い」カテゴリーに特化することで「深いメディア」であることが維持できています。だからこそ開始当初は誰もネット配信の新聞に月額4000円の契約なんてしないと批判された日経電子版で有料会員50万人という実績を達成することができているわけです。

「広いメディア」と「深いメディア」は重要なことが全く違う

「広いメディア」において重要なのは大勢の読者を集められていること。

大勢の読者を集めることができていれば、それにより広告収入を確保することができます。

テレビは全体的に視聴率が低下傾向にあるという議論もありますが、それでも視聴率10%とか20%は、1000万人単位の視聴者がテレビを見ていることを示しますし。

ヤフーは月間150億ページビューと驚異的なアクセス数を誇ります。

昔、ある広告主の方が「ヤフーに広告を出しておけばネットユーザーの90%以上に届くからネットは細かいところに広告出さなくても、ヤフーに広告出しておけば良いんですよ」と話されていたのを良く覚えています。

今はライバルも増えてそこまで圧倒的ではないかもしれませんが、それにしても他を寄せ付けないポジションにあるのは間違いありません。

米国のインターネットで日本のYahoo!と同様のポジションを取っているのはFacebookでしょう。

大統領選挙の結果にFacebookのアルゴリズムが悪影響を与えたことが議論されていますが、逆に言えばそれだけ大勢の米国民がFacebookを使っているということの裏返しであると言えます。

こうした「広いメディア」においては、一つ一つの記事の質よりもプラットフォームとしての場の力を保てているかどうかが重要と言えます。

一方で「深いメディア」において重要なのは、ターゲットである読者にとってのコンテンツの質です。

「広いメディア」においては、読者は「マス」なのでどちらかというとヤフーやFacebookのように他社からの記事提供を受ける形で自分達は読者への配信に特化して、自らは記事を作る必要はありません。もちろんテレビ局のように自らコンテンツを作るケースもありますが、広いことが重要なのでコンテンツは借り物でもよいわけです。

ただ、「深いメディア」においては、その記事やコンテンツがそのメディアでしか見られないことが重要になります。

他で同じ記事が読めるなら、そのメディアに来る理由がなくなってしまうからです。

そうなると、当然ながら自分達の社内に専門の記者を配し、自分達ならではの記事を作ることが中心になります。仮に外部に記事執筆の依頼をするにしても、自分達の読者のための専門的な記事の執筆を依頼するはずです。

逆に言うと深いメディアの弱点は、コンテンツにコストがかかってしまう点にあります。そうすると通常のアドネットワークの収入だけではペイすることができず、通常は課金等の複数のビジネスモデルとの組み合わせが必須になってくるわけです。

NewsPicksがサービス開始当初は、記事にコメントするためのプラットフォームが中心の運営を行っていたのが、その後、有料会員でなければ読めない記事を軸にした有料メディアモデルにシフトしたのが象徴的と言えます。

経済メディアという分野で「広いメディア」としてのアプローチは明らかに読者数の観点から一般人全員を対象にできるプラットフォームに比べて分が悪くなります。でも、自らの経済メディアとしての独自記事を増やすことで明確に「深いメディア」としての特徴を強化する方がビジネス上は筋が良いわけです。

参考:バカと暇人のものではないネット空間を作ることはできるのか

WELQの作り方は「狭くて浅い」のではないか

こうしてみると、今回の騒動の起点になったDeNAの医療メディアであるWELQは、実は悪手の選択をしていたのではないかということが見えてきます。

つまり、WELQのコピペによる生地の大量生産の作り方は明らかに「狭くて浅い」メディアの作り方です。

参考:DeNAの「WELQ」はどうやって問題記事を大量生産したか

医療メディアという分野はたいして「広いメディア」ではありませんし、ネット上の他のメディアからコピペ引用で記事を大量生成するという手法は明らかに記事の質が低くなり「深いメディア」にもなりえません。

DeNAキュレーションプラットフォームの手法は、ある意味Googleという「広いメディア」の検索を自分達の流入ルートとしてハッキングすることで、擬似的に自分達を「広いメディア」として機能させ、大量生産の浅い記事でもメディアとしてスケールさせることに成功した手法といえるかもしれません。

そういう意味では、Googleの敗北であるという指摘は納得感があります。

参考:DeNA他キュレーションメディアが起こした“事件”は、検索エンジンが資本主義に負けたということ。

とはいえ、イタチごっこですから、どこかでGoogleがWELQ対策の手法を発見したら終了だったわけです。

一方で、MERYとiemo以外はたいして儲かっていなかったという話も漏れ伝わってきますので、今は投資フェーズと言うことで大量記事作りに注力していたのかもしれませんが、遅かれ早かれこうした「狭くて浅い」メディアの作り方は破綻していた可能性が高い気もしてきます。

そもそも昔から日本においてはカテゴリーを絞ったネットメディアは収益をあげるのが難しいというのが定説でした。

象徴的なのはB2Bのメディアでしょう。

B2Cメディアに比べて、B2Bメディアは読者数が圧倒的に少なくなってしまうので、ページビューを元にしたアドネットワークの収入ではとても生きていけないわけです。そういう意味で、儲かるB2Bメディアを作るのは非常に大変だと良く言われます。

そういう視点で考えると、10のカテゴリーのメディアを一つ一つ浅いメディアとして運営していたDeNAキュレーションプラットフォームは、構造的に無理を抱えていたように思えてきます。

MERYは「深いメディア」として成功しつつあった

ただ、逆に言うと、ここで興味深いのはMERYの成功です。

DeNA騒動でMERYが閉鎖した後、MERYロスという言葉に代表されるようなMERY読者の嘆きが話題になりましたが、実はMERYはビジネスが軌道に乗る過程で女性誌の編集者を多数採用していたそうで、「狭くて浅い」メディアから「深いメディア」への転換に成功しつつあったようです。

参考:MERYは何が“特別”だったの?愛読者に聞く

特に広告主にとって大きかったのはMERYが他のネットメディアでなかなかリーチすることができていなかった20代女性へのリーチ手段を提供していた点だそうです。

つまりMERYは20代女性にとっての「深いメディア」になりつつあったということでしょう。

実はDeNAキュレーションプラットフォームでは、コピペ手法に頼らなくても、既にそうした手法から卒業するための出口をMERYで見つけていたはずなんです。

最近では、ネイティブアドの普及がバナー広告が収益源として厳しい「深いメディア」にとって、課金と並ぶ新しい収益源になることが明確になっています。

MERYが再開することができれば、きっとネイティブアドを軸に質を重視したメディア運営に明確に舵を切ることができるはずですし。

DeNAキュレーションプラットフォームが今後再起することができるのであれば、是非最初から編集部の人材に投資をして、質の高い「深いメディア」を複数立ち上げ、MERYで学んだ成功の方程式をコピペを使わないやり方で再現することに挑戦してほしいと感じているのは私だけではないのではないかなと思います。

「広いメディア」と「深いメディア」は最終的に衝突するのか

ちなみに、そんな中、個人的に興味深いのが、なんだかんだ「広いメディア」と「深いメディア」はそれぞれ最近は衝突する方向に向かって動きつつあるように思える点。

ネットメディアにおける「広いメディア」の代表であるYahoo!ニュースは、この記事を書いているYahoo!ニュース個人のような取り組みで、自分達にしかない記事の生成に挑戦していますし、最近はYahoo!ニュース編集部による特集記事も目に見えて増えています。

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参考:特集 - Yahoo!ニュース

「広いメディア」として成功すれば、深い記事を作ることにも挑戦することができるわけです。

一方で「深いメディア」の代表として電子版での課金に成功しつつある日経新聞も、ウェブ版や様々なカテゴリーごとのウェブメディアを立ち上げることに挑戦しています。

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参考:NIKKEI STYLE|ライフスタイルに知的な刺激を

「深いメディア」として成功すれば、対象となるカテゴリーを拡げていくことにも挑戦することができるわけです。

はたして「広いメディア」と「深いメディア」どちらのメディアの作り方がこれからのネットでは強いのか。

Media×Tech2017 来週のヤフーさんと日経さんとの議論では、そのあたりを深掘りしたいと思っていますが、異様に記事が長くなってしまったので、今日のところはこの辺で。

(イベントに参加される方で、両社に質問がある方は、是非こちらにコメントでお寄せ下さい。

いずれにしても2017年は2016年の反省を活かし、コピペではない様々な新しい「深いメディア」がコピペメディアを淘汰していく流れになることを期待したいと思います。