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先生が働きやすい都道府県ランキング:「一位 山口県」の意味

寺沢拓敬言語社会学者

今週、以下のようなランキングが『教育新聞』より発表された。

先生が働きやすい都道府県ランキング2017 本紙が独自評価 | 教育新聞 電子版

概要を引用する。

先生が最も働きやすい都道府県はどこ?――本紙は、文科省の統計資料などをもとに、「先生が働きやすい都道府県ランキング2017」を作成した。ランキングは、公立学校教員の就業環境に関連する「給与・財政」「職場環境」「児童・生徒環境」「家庭・地域環境」の4分野、合計26項目で評価した(各項目の数値を4段階に分けて点数化し、総合点数で評価)。

総合点で見るとトップ5は以下のとおりとのこと。

  • 第1位 山口県 135点
  • 第2位 福井県 124点
  • 第3位 秋田県 120点
  • 第4位 新潟県 116点
  • 第5位 山梨県 115点

点数の算出方法はよくわからない。26項目を4段階に分けて点数化(1点~4点?)しているとのことなので、最高点は 4 × 26 = 104点のような気がするが・・・。まあ、いずれにせよ、山口県がぶっちぎりで1位だということはわかる。

指標の中身

これは巷の色んな「指標」と同様に、あくまで教育新聞社による独自の指標である。つまり、同社が「教員の働きやすさ」を構成すると考えた26項目から合成されたスコアである。

「働きやすさ」と聞くと、真っ先に給与とか残業時間などが思い浮かぶが、これら26項目にはそれ以外のものも多い。中身を詳しく見ると、背後の思想になかなか味わい深いものを感じる。

たとえば、以下のような項目が入っているのを知り、ちょっと微妙な気持ちになった。

  • 児童生徒の学力に関する指標(できない子が少ないほうが働きやすい?)
  • 就学援助を受けている子どもの規模に関する指標(貧困な家庭の出身者が少ないほうが働きやすい?)
  • 日本語指導が必要な子どもの規模に関する指標(多文化多言語化していない地域の方が働きやすい?)

一方で、教育現場のブラック化という文脈で頻繁に話題に上がる部活動関連の指標は入っていない。また、教員のソーシャルキャピタルを強化すると思われる組合活動関連も入っていない(念のため言っておくと、教員組合には、日教組のような左派系のものだけでなく、保守系のものもある。保守系教組のほうが多数派である都道府県もある)。

何を反映したランキングなのか

このランキングが、巷の怪しげなランキングと一線を画すのは、きちんと元になるデータを公開していることだ。冒頭に掲げた記事の最後のほうにリンクがある(PDF)。これは純粋に素晴らしいことだと思う。

ただ、PDFの一覧表でスマホなどでは見づらいし、膨大なデータが並んでいて一読するだけではまったくわからない。

本記事では、データマイニング・データ視覚化の方法を使って、少しだけわかりやすく提示してみたい。

指標構成要素の26項目を主成分分析という分析にかけて、結果を図示してみる。

主成分分析の結果
主成分分析の結果

主成分分析の図は、(厳密に言えばちょっと違うのだが)次のように解釈すればよい。

  1. 近くにある項目は似たような項目同士
  2. ある項目の近くにある都道府県は、その項目が高い傾向

右向き矢印がたくさんあり、その先にナンバーワンの山口県がある。

ここでなかなかおもしろいのが、矢印の項目の中身である。そのほとんどが「主観的な回答」をベースであるにしたものである。たとえば「あなたの学校は学級の課題を共有してますか」とか「アクティブラーニングっぽいことやってますか」に対してYESと答えた学校の割合である。つまり、回答者(校長?主任?)の主観に委ねられた項目群である。

右中央拡大
右中央拡大

一方で、給与額とか「○○な教員 or 生徒の比率」とか財政力指数とか学級規模といった客観的項目については、ほとんど反映されていない。山口県をランキング1位におしあげたのは、主観的なポジティブ回答によるものだったことがわかる。ちなみに、2位から5位までの県もみな右向き矢印の方角に位置している。

左下拡大
左下拡大

もちろん、この場合の主観が客観をどの程度反映しているのかはわからない。主観的回答もきちんと実態をとらえたものだったのかもしれないし、あるいは、特定の都道府県には楽観的or悲観的に答える傾向があったからかもしれない。もちろん、主観的にしか測定できない条件に山口県の強みがあるのかもしれない。念のため。

言語社会学者

関西学院大学社会学部准教授。博士(学術)。言語(とくに英語)に関する人々の行動・態度や教育制度について、統計や史料を駆使して研究している。著書に、『小学校英語のジレンマ』(岩波新書、2020年)、『「日本人」と英語の社会学』(研究社、2015年)、『「なんで英語やるの?」の戦後史』(研究社、2014年)などがある。

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