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愛する故人に思いをはせる。メキシコ「死者の日」はカラフルで少しせつない

寺田直子トラベルジャーナリスト 寺田直子
「死者の日」のために設けられたアルタール(祭壇)とオフレンダ(お供え)/筆者撮影

「死者の日」はラテンアメリカの国々で行われる宗教行事で、亡くなった人の魂が家族のもとに戻ってくる日とされ、どこか日本のお盆を思わせる。人々は墓地に繰り出し、花や故人の好きだった品で墓石を埋めつくすがとにかく華やかで明るい。映画『リメンバー・ミー』では主要テーマとして扱われ、最近は世界中から見学客が訪れるイベントとしても人気。なかでもカラフルな色彩にあふれるメキシコが有名だ。

昼間はさまざまなパレードが広場で行われる/筆者撮影
昼間はさまざまなパレードが広場で行われる/筆者撮影

「死者の日」は11月2日だが、その前後数日にわたりさまざまなイベントやパレードが各地で行われる。筆者は昨年、メキシコで最も盛大で見ごたえのあるといわれるオアハカで「死者の日」体験をしてきた。

ゲートウェイとなるメキシコシティからオアハカまでは国内線で1時間ほど。オアハカは旧市街が世界遺産に登録される歴史ある街で、周囲には多くの先住民族が今も暮らし「最もメキシコらしい都市」といわれるほど文化的要素が色濃く残されている。10月30日の夜に到着するとすでに市内は「死者の祭り」の装飾がいたるところに施され、路上にはこの時期だけのドクロのお菓子や飾りつけのオーナメント、キャンドルなどを売る露店が並び夜遅くまでにぎわっていた。10月31日は日中は盛大なパレードが中央広場で行われ、アルタールと呼ばれる祭壇が広場だけでなくホテルのロビー、レストラン内、個人宅などに飾られ目をひく。このアルタールには故人の写真のほか、オフレンダと呼ぶ故人の好物やお酒、お気に入りだった服やレコードなどの装飾が配され、亡き人への想いがあふれている。

墓地とは思えないド派手なXoxocotlanの入口。手前ではローカルTVが生中継を行っていた/筆者撮影
墓地とは思えないド派手なXoxocotlanの入口。手前ではローカルTVが生中継を行っていた/筆者撮影

夜になり、筆者たちはタクシーで墓地へと向かった。まずはXoxocotlanと呼ばれる墓地へ。通常、夜にタクシーで見知らぬ場所へ行くことは極力避けるが、「死者の日」の時期はタクシーもわかったもので問題なく墓地に到着。オアハカはメキシコシティに比べると治安もよくタクシー利用も毎回、適正価格かつ親切で不快な思いは一度もなかった。

マリーゴールド、キャンドル、ガイコツマークなど個性的な飾り付けが見どころ/筆者撮影
マリーゴールド、キャンドル、ガイコツマークなど個性的な飾り付けが見どころ/筆者撮影
故人が迷うことなく帰ってくるよう家族の手により念入りに飾られる墓石/筆者撮影
故人が迷うことなく帰ってくるよう家族の手により念入りに飾られる墓石/筆者撮影

墓地の中に入ると大勢の人たちが墓石のまわりを囲み、華やかに飾り付けを行っていた。目につくのはオレンジ色のマリーゴールドの花だ。映画『リメンバー・ミー』でも重要なファクターとなったマリーゴールドはこの時期、いたるところで咲き乱れている。それをひとつひとつつまんでは墓石に隙間なくぎっしりと敷き詰める人々。現世に戻ってくるための道しるべのような存在に思えてくる。

墓地のど真ん中で陽気に演奏。ラテンなメキシコらしい/筆者撮影
墓地のど真ん中で陽気に演奏。ラテンなメキシコらしい/筆者撮影
墓石を囲み静かに故人をしのんでいたファミリー。アイコンタクトで写真を撮らせてもらうようお願いするとほほ笑んでOKしてくれた/筆者撮影
墓石を囲み静かに故人をしのんでいたファミリー。アイコンタクトで写真を撮らせてもらうようお願いするとほほ笑んでOKしてくれた/筆者撮影

美しく飾られた墓石を囲み、陽気な音楽をラジオから流す家族もいれば赤ん坊にミルクを与えながら談笑する家族もいる。どこまでも明るく、カラリとした陽気な雰囲気に包まれてはいるがそれでもどこかせつない気持ちにさせられるのは、すでにいない親や大切な人たちの面影など自身の思い出を投影してしまうからだろう。小さな墓石をそれはみごとにマリーゴールドで飾っているひとりの老婦人がいた。「それは誰のお墓なんですか?」。筆者の横にいた人がたずねると、はにかむような小さな声で「ママ」とポツリ。どんなに歳を重ねても子供はいつまでも子供であり、親を偲ぶものなのだと思う一瞬だった。

墓地の周辺ではさまざまな装飾が施され記念撮影スポットになっていた/筆者撮影
墓地の周辺ではさまざまな装飾が施され記念撮影スポットになっていた/筆者撮影

オアハカ郊外にある墓地Panteon Barrio Xochimilcoも「死者の日」の人気スポット。前述のXoxocotlanもここも周辺にはフォトジェニックなガイコツのオブジェや楽団のライブ、パフォーマンスやタコス、チュロスなどの食べものの屋台がズラリと並び夜遅くまで墓地を訪れる人たちは後を絶たない。ほかにも「死者の日」イベントを行う墓地や村などはいくつもあり、ホテルなどで入手できるパンフレットを参考にスケジュールを立ててみた。

メキシコシティにあるフリーダ・カーロ美術館も彼女のためのアルタールとオフレンダが飾られていた/筆者撮影
メキシコシティにあるフリーダ・カーロ美術館も彼女のためのアルタールとオフレンダが飾られていた/筆者撮影
ガイコツアイテムはお土産に最適。小さな置物は200~300円ほど/筆者撮影
ガイコツアイテムはお土産に最適。小さな置物は200~300円ほど/筆者撮影

「死者の日」を見に行く際に注意したいのは、国内線や宿泊の確保を早めにするという点だ。お盆のように多くの人が里帰りをするため飛行機の座席はすぐに埋まってしまい、直近になるとLCC(格安航空会社)でも料金が高くなる。また、世界中から観光客が訪れるためホテルの稼働も高く昨年の例でいうとオアハカの主要なホテルはほぼ満室となっていた。筆者は9月上旬にオンラインでホテルを探しやっと部屋を確保したが、希望のホテルはことごとく満室で予約できなかった。なるべく早い時期の予約をお勧めする。

亡き人を忘れることなく思う気持ちがあれば、魂は迷うことなく家族のもとに戻ってくる。

カラフルで陽気で華やかな「死者の日」には、多くの人の祈りと愛が込められている。

筆者撮影
筆者撮影
トラベルジャーナリスト 寺田直子

観光は究極の六次産業であり、また災害・テロなどのリカバリーに欠かせない「平和産業」でもあります。トラベルジャーナリストとして旅歴35年。旅することの意義を柔らかく、ときにストレートに発信。アフターコロナ、インバウンド、民泊など日本を取り巻く観光産業も様変わりする中、最新のリゾート&ホテル情報から地方の観光活性化への気づき、人生を変えうる感動の旅など国内外の旅行事情を独自の視点で発信。著書に『ホテルブランド物語』(角川書店)『泣くために旅に出よう』(実業之日本社)、『フランスの美しい村を歩く』(東海教育研究所)など。

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