恐竜絶滅を引き起こした「隕石の冬」と「火山の冬」

(写真:ロイター/アフロ)

 6600万年前(白亜紀-古第三紀境界:K-P境界)、それまで1億年あまりの間地球を席巻してきた恐竜が突如として姿を消した。この大異変では陸上のみならず、海中でも植物プランクトンやアンモナイトなども一斉に絶滅した。地球で生命活動が盛んになった5億4100万年前以降で少なくとも5度起きた「大量絶滅事件」の1つだ。この恐竜絶滅の原因について、かつては哺乳類による恐竜の卵捕食説、巨大化した恐竜自滅説、インド・デカン高原の超巨大火山の噴火説などが唱えられてきたが、いずれも合理性を欠いていた。例えばデカン火山の噴火は、太陽光を遮断し寒冷化を招くと思われていた火山灰を大量に噴き上げるタイプではなく、サラサラの溶岩を流すものだった。

隕石衝突説

 そんな中、1980年以降は隕石衝突説が主流となった。世界各地のK-P境界の地層から、地表の岩石には極めて低濃度だが隕石には多量に含まれる貴金属元素であるイリジウムが高濃度で検出されたのだ。世界中に撒き散らされたイリジウムの総量から計算すると、隕石の直径は10キロメートル程度と推定された。しかし肝心の隕石落下の直接的な証拠であるクレーター(隕石孔)が見つからなかったために、科学者たちはクレーター探しに躍起になった。そして遂に1991年、メキシコユカタン半島で直径約200キロメートルのチクシュルーブ・クレーターが発見されたのだ(図)。またその後の掘削調査などで、衝突は6604万年前に起こり、高さ300mもの巨大津波がアメリカ大陸を襲ったこと、多量のガスや粉塵が飛散したことなどが判った。

 この衝突で発生したガスはPM2.5のような硫酸エアロゾルを形成し10年間程度も成層圏を漂い太陽光を遮った。「隕石の冬」または「衝突の冬」と呼ばれる寒冷化現象だ。そのために植物や植物性プランクトンは光合成を行うことができずに死滅し、食物連鎖の頂点に立つ恐竜も死に絶えたという。これが2011年に国際研究チームが導いた、恐竜絶滅のストーリーだ。さらに2017年に発表された論文では、ユカタン半島に炭化水素を多く含む地層が露出していたことに注目した。石油や天然ガスの主成分でもある炭化水素が隕石衝突によって燃え上がり、大量の煤を撒き散らしたというのだ。実際K-P境界の地層から煤が見つかることは多い。飛散した煤の総量は約15億トン。よしんばその8割近くが雨などで大気中から除去されたとしても、残りは空中を漂って太陽光を遮断し、数年間にわたって地球全体の平均気温を10度近く下げたという。

6600万年前の世界地図。インド大陸はまだ北上中で海の中にあった。(著者原図)
6600万年前の世界地図。インド大陸はまだ北上中で海の中にあった。(著者原図)

火山噴火説の復活

 富士山2千数百個分、130万立方キロメートルもの溶岩を流出したインド・デカン火山。地球史上でも稀に見る巨大火山だ。約7000万年前から始まった火山活動が活発化したのが6600万年前。ちょうど恐竜絶滅のタイミングだ。だから隕石衝突説が優位になっても「デカン信者」は多かった。そんな彼らを勢いづけたのは、「火山の冬」が火山灰によって引き起こされるのではなく、火山ガスに含まれる硫黄が硫酸エアロゾルとなって太陽光を反射することが原因とする考えが主流になったことだ。溶岩流の流出と共に、多量の火山ガスがマグマから放出されたことは間違いない。

 そして2015年には驚くべき論文が発表された。なんと、デカン高原や近隣の火山活動の活発化は、隕石衝突の結果だというのだ。巨大隕石の衝突は、超巨大地震を引き起こす。そのエネルギーは、いわゆる超巨大地震の1000倍にも及ぶ。この膨大なエネルギーが地球表層を伝わり、隕石落下地点の反対側(対極点)周辺に集まる(図)。この再集中したエネルギーによって地下の岩石の浸透率が上がり、デカン高原の地下に長年蓄えられてきた膨大な量のマグマが一気に上昇、超巨大火山活動を引き起こしたらしい。

 長い地球史上で最も温暖だった白亜紀。その恵まれた環境下で栄華を誇った恐竜だったが、「隕石の冬」と「火山の冬」のダブルパンチを食らって、環境適応性の高い哺乳類へと主役の座を譲ったのである。