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「火山津波」の脅威とは?  日本列島でも度々起きてきたこと忘れるべからず

巽好幸ジオリブ研究所所長(神戸大学海洋底探査センター客員教授)
(写真:ロイター/アフロ)

 22日午後9時27分(日本時間22日午後11時27分)ごろ、インドネシア中部のジャワ島とスマトラ島の間に位置するスンダ海峡で津波が発生し、死者・行方不明者は200名を超えた模様だ。津波は、東日本大震災のように海域で発生した地震が引き金になることが多い。しかし、インドネシア国家防災庁の発表では、今回は近隣で海底地震は観測されておらず、スンダ海峡の火山島にあるクラカタウ火山が22日午後9時過ぎに噴火し、これが原因となって海底地滑りまたは山体崩壊が起きたとみられる。この火山は1883年にも大爆発を起こし4万人近くの犠牲者を出したが、その多くは今回と同様津波によるものであった。

 インドネシアと同じように、日本列島も海に囲まれた火山大国だ。だから、今回のインドネシアの火山津波災害は他人事ではない。実際、この国でも同様の火山津波による災害はこれまでに何度も起きてきたのだ。実は、日本史上最悪の火山災害で1万5000人の死者を出した「島原大変肥後迷惑」(【過去の教訓を未来につなぐ】日本史上最悪の火山災害:島原大変肥後迷惑)も、雲仙岳の火山活動に伴う津波が原因だった。

 火山の脅威を知っていただくために、火山津波の実例を上げることにしよう。

山体崩壊と津波の発生

 日本列島の多くの火山は、富士山に代表されるように優美な形が特徴である。だから多くの人々は、火山噴火といえば火口から上がる噴煙と、溢れ出る溶岩流を思い浮かべる。確かにこのような「山頂噴火」が火山の成長を促していることは間違いない。ただ、100万年とも言われる火山の一生の中では、逆に山体を破壊するような火山活動が起きることも稀ではない。いやむしろ、ほとんどの火山でこのような「山体崩壊」が起きて、それが大災害につながった例も多い。あの野口英世も遭遇した磐梯山の大噴火はこの国が近代国家として歩み始めた矢先の1888年に起きた。この噴火はマグマが噴出したものではなく「水蒸気噴火」であったが、そのエネルギーは凄まじく、小磐梯山が完全に崩壊し、山体を作っていた岩石が時速80キロメートルの「岩屑なだれ」となって北方で流れ、563戸の家屋と461名の住民を飲み込んだのだ。

 このような山体崩壊を伴う噴火が火山島や海岸近くの火山で起きると、山体崩壊によって発生した岩屑なだれが海へ流れ込み、巨大な津波を引き起こす可能性が高い。記録に残る例を挙げると、1640年の北海道駒ケ岳や1741年の渡島大島西山の噴火では、マグマの上昇や噴出に伴って大規模な山体崩壊が発生し、海に達した岩屑なだれが巨大な津波を発生させた、最大遡上高は20メートルを超えた所もあり、それぞれ700名以上および1500名近い犠牲者を出したのだ(図)。

渡島大島と北海道駒ヶ岳の山体崩壊で生じた津波の遡上高。()内の数字は死亡者数を示す。図は筆者作成。
渡島大島と北海道駒ヶ岳の山体崩壊で生じた津波の遡上高。()内の数字は死亡者数を示す。図は筆者作成。

 地球上の活火山の約7%が密集する日本。しかもこの国は海に囲まれている。火山弾や火山灰、それに火砕流などの噴火に伴う直接的な被害とともに、山体崩壊やそれに伴う津波などに対しても、十分な警戒が必要である。大噴火ばかりが話題になる富士山でも、過去には何度も大規模な山体崩壊が起きており、こちらの方がはるかに大規模な被害が予想されることを忘れないでほしい(「山体崩壊」、大噴火だけではない富士山の脅威)。

ジオリブ研究所所長(神戸大学海洋底探査センター客員教授)

1954年大阪生まれ。京都大学総合人間学部教授、同大学院理学研究科教授、東京大学海洋研究所教授、海洋研究開発機構プログラムディレクター、神戸大学海洋底探査センター教授などを経て2021年4月から現職。水惑星地球の進化や超巨大噴火のメカニズムを「マグマ学」の視点で考えている。日本地質学会賞、日本火山学会賞、米国地球物理学連合ボーエン賞、井植文化賞などを受賞。主な一般向け著書に、『地球の中心で何が起きているのか』『富士山大噴火と阿蘇山大爆発』(幻冬舎新書)、『地震と噴火は必ず起こる』(新潮選書)、『なぜ地球だけに陸と海があるのか』『和食はなぜ美味しい –日本列島の贈り物』(岩波書店)がある。

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