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最悪の場合、日本喪失を招く巨大カルデラ噴火

巽好幸ジオリブ研究所所長(神戸大学海洋底探査センター客員教授)
火砕流の発生(写真:ロイター/アフロ)

日本史上最大の噴火は富士山宝永噴火や桜島大正噴火だ。おおよそ1.5立法キロメートル(東京ドーム1300杯)のマグマを噴き上げた。一方でこの火山列島では、このような大噴火の数十倍〜数百倍ものマグマを一気に噴出する「巨大カルデラ噴火」がしばしば起きてきた。直近のものは7300年前に現在の薩摩硫黄島(鹿児島県三島村)周辺で起きた鬼界カルデラ噴火である。この噴火では高温の火砕流が海を渡って九州を襲い、モダンな文化を育んでいた南九州縄文人を絶滅へと追いやった。また噴き上げられた火山灰は東北地方にまで達した。

巨大カルデラ噴火の発生確率

日本列島では、地質記録がよく揃っている過去12万年間だけでも10回の巨大カルデラ噴火が起きてきた。単純に「周期」を求めると約1万2000年程度。そして鬼界噴火から既に7300年経過している。だから次の噴火が迫っている、とこれまで専門家は警告してきた。しかしこれでは、あと5000年は大丈夫と感じる人も多いだろう。しかも、別々の火山で起きる噴火をひとまとめにして周期を求めるのは、意味のない計算だ。

そこで最近では、きちんとした統計に基づいて、次のように表現するようになった(詳しくは「富士山大噴火と阿蘇山大爆発」に):

巨大カルデラ噴火は、今後100年間に約1%の確率で発生する。

噴火が起きる確率が1%と言うと、99%大丈夫だと思う人が多い。しかしこれは間違いだ(「明日にも襲う巨大地震。その覚悟、ありますか?」)。例えば、1995年1月17日の阪神淡路大震災前日における、震度6弱以上の揺れが襲う確率は約1%だった。それにもかかわらず、翌日にはあの惨劇が起きた。つまり、巨大カルデラ噴火は明日起きても何ら不思議ではない。まずこのことをきちっと覚えておいていただきたい。

巨大カルデラ噴火の被害想定

南九州縄文人を絶滅させた巨大カルデラ噴火が現代日本で起きれば、とんでもないことになることは想像できる。では最悪の事態を想定して、具体的にその被害を見積もってみよう。

巨大カルデラ噴火による火砕流、降灰の予想とその範囲の人口。赤丸、巨大カルデラ火山;黒印、火山
巨大カルデラ噴火による火砕流、降灰の予想とその範囲の人口。赤丸、巨大カルデラ火山;黒印、火山

まず巨大カルデラ噴火が、九州中部で起きたとする。これは決して次は阿蘇山だと言うのではない。九州には巨大カルデラ火山が4つも集中し、どこで噴火が起きてもおかしくない状況にある。降灰域に影響を及ぼす偏西風の向きや人口の分布を考慮した想定だ。

次に火砕流の到達域や降灰の範囲を見積もる。それには、これまで日本列島で起きた巨大カルデラ噴火の中で、最もデータが揃っている、2万9000年前に鹿児島湾を作った姶良カルデラ噴火を参考にする。

数百℃の高温の火砕流は2時間以内に九州のほぼ全域を焼き尽くし、関西では50センチメートル、首都圏は20センチメートル、そして東北地方でも10センチメートルの火山灰が降り積もる。ここで重要なことは、10センチメートル以上の降灰域では、現在のインフラシステム(電気・水道・ガス・交通など)は全てストップすることだ。つまり、この領域に暮らす1億2000万人の日常は破綻する。しかもこの状況下での救援活動は絶望的である。その悲惨な結果は明瞭であろう。

これは日本喪失以外の何物でもない。

我々は諦めるしかないのか?

ここで述べたことは、決して「脅し」や「煽り」ではない。将来確実に日本列島で起きることを科学的に述べただけだ。だから何も対策を講じなければ、最悪の場合日本という国家、日本人という民族はほぼ消滅する。

こんな事態から逃れることなど無理に決まっている、と諦めてしまって良いのだろうか? まずはこの事実を真摯に受け止めて、みんなでこれからすべきことを考えることが大切だろう。

ジオリブ研究所所長(神戸大学海洋底探査センター客員教授)

1954年大阪生まれ。京都大学総合人間学部教授、同大学院理学研究科教授、東京大学海洋研究所教授、海洋研究開発機構プログラムディレクター、神戸大学海洋底探査センター教授などを経て2021年4月から現職。水惑星地球の進化や超巨大噴火のメカニズムを「マグマ学」の視点で考えている。日本地質学会賞、日本火山学会賞、米国地球物理学連合ボーエン賞、井植文化賞などを受賞。主な一般向け著書に、『地球の中心で何が起きているのか』『富士山大噴火と阿蘇山大爆発』(幻冬舎新書)、『地震と噴火は必ず起こる』(新潮選書)、『なぜ地球だけに陸と海があるのか』『和食はなぜ美味しい –日本列島の贈り物』(岩波書店)がある。

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