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石原伸晃氏の助成金の受給は本当に法的な問題は無いのか?

立岩陽一郎InFact編集長
(写真:アフロ)

新型コロナ対策の助成金の受給で批判を受けていた石原伸晃氏が内閣参与を辞職した。法的に問題は無いが、混乱を避けたいとの判断だという。本当に法的には問題が無いと言えるのか?(記事中の写真:自民党東京都第八選挙区支部の収支報告書を筆者が撮影)

「公正な手続きにのっとった受給」

内閣参与に抜擢された石原伸晃氏がその職を辞した。自身が支部長を務める自民党東京都第八選挙区支部が新型コロナ対策の雇用調整助成金(以下、助成金)を受給していたことが批判を招いたからだという。「公正な手続きにのっとった受給ではあるが、混乱を生じることで総理の職務遂行に迷惑をかけることは自分の本意ではない」との申し出が有ったと岸田文雄首相が明らかにした。

この助成金の受給は最初にAERAdot.が報じた。その報道をきっかけに主にテレビの情報番組が取り上げたもので、その支部の2020年の収支報告書を見ると、収入の欄に雇用安定助成金として3回に分けて計60万円余の受け取りが記載されていた。

受給の条件

私が出演する「めざまし8」でも12月9日に詳細を報じて議論した。この助成金は新型コロナの影響を受けた企業が従業員の雇用を守るための制度だ。受給の条件は主に次のようなものだ。

・新型コロナの影響で事業活動が縮小

・1か月の売り上げなどが前年同月比で5%以上減少

厚生労働省は番組の取材に対して、「支給の対象外を設けていないため、政治団体も条件を満たせば受け取ることはできる」と答えたという。また、石原氏側はフジテレビの取材に対して、「所管官庁に確認した上で、必要な書類を添付し適正に申請し審査いただいたものと承知しております」と答えている。

政党支部には政党交付金という税金が投入

番組MCの谷原章介氏から問われた私は、先ず受給を受けたのが政党支部であることを説明。そして、自民党の支部は自民党本部から政党交付金を受けており、石原氏の支部も1300万円の政党交付金が入っていることを指摘。その交付金とは、我々の税金であることも加えた。仮に、足りなければ、党本部に支援を求めることが可能なことを伝えた。

さらに、番組で指摘したこと、また指摘できなかったことを書いて、法的な問題の有無を考えたい。

先ず、党本部に支援を求める点だが、この年に自民党本部に入っている政党交付金は170億円にのぼる。加えて献金も受けており、党本部の資金が枯渇している状況ではない。素直に考えて、党本部が支援すれば良い話だ。

政治資金規正法の寄附の制限

そして、違法かどうかだ。ここは番組でも指摘したが、少し丁寧に書いてみたい。

石原氏の側は、所管官庁、つまり厚生労働省に確認した上で適切に申請して受給したということだ。だから問題無いとの姿勢だ。

ただし、それは助成金の受給の手続きに問題が無かったということであり、政治資金の取り扱いについての疑問には答えたものではない。政治資金の取り扱いは、政治資金規正法がその法律となる。

そこでは、寄付について量的、質的な制限が課せられている。その1つに、一定の補助金等を受けている企業からの寄附の禁止がある。

第二十二条の三 国から補助金、負担金、利子補給金その他の給付金の交付の決定を受けた会社その他の法人は、当該給付金の交付の決定の通知を受けた日から同日後一年を経過する日までの間、政治活動に関する寄附をしてはならない

その2には以下の制限もある。

国から資本金、基本金その他これらに準ずるものの全部又は一部の出資又は拠出を受けている会社その他の法人は、政治活動に関する寄附をしてはならない

これは常識的な判断に基づくもので、仮にこれを許容してしまうと、社会の安定のための国の資金が政治献金に使われる懸念が生じるからだ。特に政治家そのものが補助金等の設置の判断に関わる立場になり得ることを考えると、自己の利益のために補助金を設けるとの疑惑も招きかねない。これでは、社会のために支出される国の支援制度に対する信頼を失墜させることになる。

では、今回の助成金はどうか?勿論、それを違法と断定はできない。こうした事態が想定されていないからだ。しかし、今回の件が、補助金が企業を通すことなくストレートに政治家に寄付されたケースと見られなくもない。そうなると、政治資金規正法の趣旨を逸脱しているとも考えられる。

政治資金規正法の見直しの必要性

私の指摘に対して番組メイン解説者の橋下徹氏は、「今回は従業員を守るためなので、セイフテティーネットであれば税金でしっかり支えなければいけない。政治家も秘書を抱えているので」と話して、政治家が全ての補助金を受けてはいけないという話は違うと指摘した。

勿論、スタッフの雇用という点での対応は考えられるべきだろうし、政治家のスタッフも守る必要が有るとの橋下氏の指摘に異論は無い。しかし市民生活を救済するための助成制度とは一線を画す必要が有るだろうし、まずもって政党の支部の支援は政党本部の責任で行うべきだろう。

その後、大岡敏孝環境副大臣が代表を務める自民党滋賀県第1選挙区支部も助成金約30万円を受け取っていたことが明らかになった。京都新聞が報じた。自民党支部の政治資金収支報告書は都道府県の選挙管理員会に届け出がされており、地方紙やローカル放送局が地元の選挙管理委員会を取材すれば更に出てくる可能性が有る。

政治資金規正法の見直しも必要だろう。勿論、それは拡大解釈を認める方向ではなく、補助金・助成金が政治家に渡らないことを明確にするための見直しだ。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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