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二階幹事長に流れた37億円超の「政策活動費」の使途 自民党の関係者が重い口を開いた「政治資金の闇③

立岩陽一郎InFact編集長
(写真:つのだよしお/アフロ)

政治資金の闇①」、「政治資金の闇②」と、これまで2回にわたって各党が「政策活動費」などとして有力議員などに資金を出していた実態を見てきた。自民党の二階俊博幹事長にいたっては2019年だけでその額は10億円を超え、幹事長就任から総額37億円超にのぼることも伝えた。使途のわからない「闇」の資金。その使途を自民党関係者が明かした。

幹事長のほかにも流れた「政策活動費」

あらためて自民党本部の「政策活動費」を見てみたい。二階幹事長にはこの2019年に10億3710万円が支払われていることは既に報じている。実は、二階幹事長以外の議員にも「政策活動費」は配られている。多い順に次のようになっている。

役職に就いた議員を主にその対象にしていることは見て取れるが、役職に就いた全ての議員に配られているわけでもなく、また公式な役職名が確認できない議員への支払いもある。

「政治資金の闇①」で書いた通り、この支出の決済を行う責任者は二階幹事長その人だ。このため、自民党から得た回答は幹事長室からのものだった。つまり二階幹事長自身が受け取る金額とともに、上記の各議員への資金についても二階幹事長が決定していると見て良い。

興味深いのは2019年9月まで選挙対策委員長を務めた甘利明議員に最も多くの金額が流れていることだ。この7月に参議院選挙があったことは言うまでもない。

こうして配られた「政策活動費」は二階幹事長への資金も含めると総額で13億410万円にのぼる。その規模は他の党では見られない。因みに「政策活動費」を受け取った各議員にも東京新聞と私が編集長を務めるInFactとで連名で質問状を出したが、自民党本部が議員にかわって回答するということだった。その回答は「政治資金の闇①」で紹介している。

歴代幹事長に巨額な資金が流れる自民党のシステム

見れば一目瞭然で、二階幹事長に流れた資金は突出している。解明しなければならないのは二階幹事長に流れた資金の使途だ。実は、過去の自民党本部の収支報告書を見ていくと興味深い事実がわかる。

二階氏が幹事長に就任したのは2016年8月3日だ。自転車事故で職務を続けられなくなった谷垣禎一前議員の後任だった。

その2016年の収支報告書を見ると、途中まで谷垣氏に「政策活動費」が支払われている。7月14日までの25回で総額6億7950万円。その間、二階氏には2回で計1500万円が支払われている。ところが二階幹事長となった直後から、その金額が急激に増える。23回にわたって4億8750万円。

さらに前の年にさかのぼると自民党がシステム化している支出であることがわかる。谷垣幹事長時代には谷垣氏に、石破幹事長時代には石破氏にも多額の「政策活動費」が支払われている。公益財団法人「政治資金センター」のデータベースで過去の収支報告書を調査すると次のようになる。

つまり自民党では幹事長に年間10億円前後の資金が支出されるシステムがある。最大の問題は、それがどう使われているかだ。

「政治資金の闇①」で紹介した自民党本部の回答には、「わが党の『政策活動費』は、党に代わって党勢拡大や政策立案、調査研究を行うために、従来より党役職者の職責に応じて支出しているもの」とある。

二階幹事長なら、幹事長の職責に応じて使っているという説明だろう。個人として使っているものではないという。例えば、二階幹事長の地元である和歌山県南部を取材しても、多額の資金を使って地元に便宜を図ったという証言は得られない。寧ろ逆だ。

「二階さんを応援しているが、あの人は正直言うと、地元に何かしてくれる人じゃない。地元の道路を拡張して欲しいとかいろいろと陳情しているが、全く変わらない」。

地元を取材するとこうした証言を耳にすることが多い。実際、実家のある和歌山県御坊市をまわっても、お世辞にも活気の有る街ではない。

つまり「政策活動費」が目に見える形で個人的に使われた形跡を見つけることは難しい。自民党が言う幹事長の「職責」とは?それはどのような使途なのか?

「昔はもっと大きかった」

取材を進めるうちに、その実態を知る自民党関係者に接触することができた。交渉の末、匿名且つ本人と確認できる記述は一切しないことを条件に語ってくれた。

2021年6月、国会に近いある建物の一室で、その人物と会った。

「二階幹事長に10億円余り出ています。それとは別に各支部や政治家の政治団体にも出ています。なぜ、個別に10億円もの資金が出ていくのでしょうか?」

そう問うと端的に答えた。

モチ代氷代というヤツです

「モチ代、氷代・・・つまり選挙の時に投入する資金ということですか?」

人物は頷いて言った。

昔はもっと大きかった。それが、『ちょっとまずいだろう』という雰囲気が出てきて幾分かは減ってきている

この「ちょっとまずいだろう」とは、恐らく次の話だ。実はこの資金については刑事告発されているのだ。2001年に政治資金の透明性を求める市民グループが刑事告発。東京地検特捜部は嫌疑無しとして不起訴にしている。「嫌疑不十分」ではない。「嫌疑なし」だった。

それでも、刑事告発されたという事実が自民党に少なからぬ衝撃を与えたという。それで規模が小さくなったということだが、「不起訴」となったことでお墨付きを得たとも言える。それだけ自民党にとって欠くことのできない支出なのだろう。

「一般に雑所得なら課税される筈ですが?」と問うと、次の様に答えた。

そこは、政策活動費として使っているということですから、税金を払うということじゃありません。問われれば、『政治資金規正法にのっとって適切に処理しています』ということです。法律がそれ以上に踏み込んでいないので、これはOKということになっている。総務省も認めているということです

「幹事長が使うから意味がある」 あの買収事件にも?

それにしても、政治と金の不正が横行していた以前ならそうしたモチ代氷代という慣行があったとしても、それが今も通用すると考えるのだろうか。それを問うと、少し語気を強めて言った。

ですから、かなり減らしてきているということです。しかし、これは自民党だけじゃないんですよ。慣習になっている。一種の常識

常識」と言った後、言葉を和らげて、「もちろん、これはあくまでも永田町の常識でしかありませんが」と付け加えた。

しかし二階幹事長の10億円というのは毎年の規模だ。そんなに幹事長は選挙で使うのだろうか?

「使うでしょう」

そう言ってから続けた。

幹事長名のモチ代氷代というのは選挙を左右する大きな武器ですから。それを投入することで、(選挙の情勢が)動きが変わるんですよ。一気に形勢が変わる。また、勝ちを確実にしたい時も、一気に使う。そういう金です

幹事長が使うから意味がある」と言った。

しかし選挙に使う資金は選挙資金収支報告書に記載しなければならない。「これは、当然、計上されないお金ですね?」と問うた。

その人物は、「そうですね」と答えた後、「こんなところで勘弁してください」と言って席を立とうとした。

1つだけ質問させてもらった。

「2019年の7月21日に河井議員による買収事件のあった参議院選挙が行われていますが、その前に1億円余りの『政策活動費』が二階さんに流れているんですよ。これはやはり選挙で使われた?」

その人物は私をみつめて言った。

私は知りません

そう言った後、「しかし、そう見るのが自然じゃないでしょうか?」と続けた。

この選挙では河井議員夫妻の大規模な公職選挙法違反事件も起きている。そこでも幹事長の「政策活動費」は暗躍したのだろうか?私はこの人物に謝意を伝えつつ「まだ、こんなことを続けるんですかね?」と言葉をかけたが、苦笑いを見せて部屋から出て行った。

二階幹事長は6月1日の幹事長会見で河井議員夫妻の公職選挙法違反事件などにきかれ、「ずいぶん、政治と金の問題はきれいになっている」と話している。しかし、「政策活動費」の実態から見えるものは、その発言とは明らかに違う

選挙に使っていれば違法な選挙活動である疑いは強い。また、選挙以外の別のことに使っていないとも言い切れない。つまり、「闇」なのだ。貴重な証言を得たと考えるが、それですべてが明らかになったわけではない。

収支報告書のデジタル化で使途は1円単位まで明らかにできる

政治制度に詳しい千葉商科大学の田中信一郎准教授は次の様に話す。

政治資金規正法はこれまでも改正が行われてきたましたが、自民党が合意できる範囲での改正というのが実態です。その結果、政治資金の透明性を確保するという法の趣旨から離れる状況が生じているということです。やはり政治資金は最終的な使途が1円単位で明確にする必要があります

田中准教授は政党交付金が政党本部に支出されること自体は問題視していない。それは政党間の資金力の差を埋める上でも必要だと考えており、そのために各党の配分の仕方を変えるべきというい指摘だ。ただし、その前提として透明性の確保は不可欠だと指摘している。

デジタル庁が出来て行政のデジタル化が進められていますが、まず先にこの政治資金の収支報告書こそデジタル化するべきです。それによって議員の側も収支報告書をまとめる労力を削減できます。デジタル化で報告する側の労力も削減できますから、きめ細かい収支報告書も可能になります。デジタル化によって使途は1円単位まで明らかにできるようになります」

そして選挙前の今こそ各党は議論を進めるべきと話した。

「こうしたことも含めて、政治資金の透明性を確保するための法制度の見直しを国会で議論してほしいです

現在、収支報告書は紙媒体で総務省や都道府県などに提出されている。その形式も統一されていない上、収支報告書の保管期間はわずか3年でしかない。「政治資金の闇」は、そうした前時代的な制度の産物という側面もある。

9月1日、公益財団法人政治資金センターは政府、各政党に対して、収支報告書のデジタル化を要請した。

※InFactは取材源の実名を原則としていますが、情報源を明らかにすることで個人に極めて大きな不利益が予想される際には匿名としています。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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