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吉村知事の大阪府が抱える不都合な事実

立岩陽一郎InFact編集長
(写真:つのだよしお/アフロ)

その実務能力と弁舌が高く評価される大阪府の吉村洋文知事。情報番組でも人気は高いが、実は不都合な事実を抱えている。新型コロナでの飲食店への協力金の支払いが他の自治体と比べて群を抜いて遅いのだ。詳細を明かす。

「いろんな企業、飲食店がある。それを完全補償するとなると、無責任には言えません。コメンテーターではないので」。

5月26日、私がコメンテーターを務める毎日放送の情報番組「4ちゃんTV」で大阪府の吉村洋文知事は言った。それは、飲食店で時短やアルコールの提供を控えるとの要請が守られなくなっているという状況を踏まえて、私の、「「実務派の知事だが(メッセージが)現状、届いていない。求められるのは、もっと強いメッセージ。延長で休業要請に応じたところを『潰さない』と明確に言ってほしい」という言葉への返答だった。

吉村知事は、「大阪府の財源で、お札を刷る力もない中で『倒産、閉鎖させません』と言うこと自体、無責任では」とも語った

私の発言は一部の報道では「無茶ぶり」と批判されたが、「強いメッセージを発するタイミングではないか?」との問いだった。

それに対する吉村知事の回答について批判する気は無い。実務派の知事らしい回答だとも言える。

問題は、議論の前提となる飲食店への協力金の支給だ。この協力金については吉村知事も緊急事態宣言を実施する上での条件として重視していた筈だ。ところが、その協力金の支給が大幅に遅れている。しかも、大阪府が最も悪い数値となっている。

具体的な事例で説明したい。私の手元に、全国で飲食店を展開する企業の内部資料が有る。その詳細をここに書く。

数値は5月28日の時点のものだ。

大阪府は入金率が30.1%。この時点で申請されている協力金の3割しか入金されていないということだ。

では他はどうか?軒並み70%を超えている。愛知県は100%。申請された全額が既に入金されている。大阪府より規模の大きい東京都も90%だ。大阪府が極端に低いことがわかる。

企業の内部資料(筆者撮影)
企業の内部資料(筆者撮影)

「入金までに掛かった期間」を見たい。ここも大阪府は他の自治体に比べて入金が遅いことがわかる。

大阪府は申請日からだと10.8週。70日余りかかっている。では、愛知県はと言うと、4.9週。東京都は2.4週だ。これを規制が開始された時点からで見ると、大阪府は18.1週だ。4か月余りだ。これが深刻なのは、協力金の申請は規制が終了してからになるからだ。飲食店が資金繰りに困るのは規制が始まった段階だ。時短やアルコールの提供を止めるのは規制が始まってからだから当然のことだ。

因みに愛知県では11.4週、東京都は11週。これも短いとは言えないが、少なくとも大阪府に比べれば迅速に対応していることがうかがえる。

主な都道府県の数値(筆者撮影)
主な都道府県の数値(筆者撮影)

まさに大阪府にとっての不都合な事実だ。この協力金の支給については吉村知事も自身で責任を持って対応するとしている。つまり、大阪府の遅れはどう言い訳をしても、知事の責任だ。協力金の原資は「地方創生臨時交付金」、つまり国が負担する。大阪府が「お札を刷る」必要も無い。制度設計だけの問題だ。

もう1つ大阪府にとって不都合な事実が有る。

この企業は、大阪府とは別に大阪市についても数値を集計している。実は大阪市の数値は大阪府ほど悪くない。加えて大阪市は家賃負担額に応じた加算金を上乗せすることにしている。ところが、その支払いは大阪府の協力金とセットで申請することになっており、結果、入金が遅れるという事態になっているという。

資料では、「これまでの実績から考えると、入金はかなり遅くなるであろうことが容易に想像できます」としている。

この企業は、各自治体において申請から入金までの期間が短くなる傾向になっていると分析している。一方で大阪府については、「今後については読めない」と厳しい見方をしている。

この資料の数値には、4月25日から大阪府を対象に始まっている緊急事態宣言についての協力金は含まれていない。宣言は順調に行っても6月20日まで続く。この2か月もの規制に対する協力金の入金はいつになるのか?資料を提供してくれた企業関係者は、「考えることすらできない」と話した。

冒頭の番組で、支給の遅れを問われた吉村知事は制度を改善して対応すると話した。要請に真面目に対応している飲食店を見殺しにしてはいけない。

※当初の原稿では、今回の緊急事態宣言の開始を5月12日からとしていましたが正確には4月25日からですので訂正しています。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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