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特措法改正の附帯決議について山尾議員が言った「『守ります』と言わないのが附帯決議」は本当か?

立岩陽一郎InFact編集長

新型コロナなどの感染症に対する特措法が改正され、まん延防止等重点措置が加わった。これで知事は緊急事態宣言が発せられなくても罰則のついた制限を科すことができる。その際の国会への報告については附帯決議で規定されているが、国会で質問に立った国民民主党の山尾議員は「(政府が)『守ります』と言わないのが附帯決議」と、その不十分さを指摘。山尾議員の発言をファクトチェックした。

ファクトチェックの対象は、2月1日の衆議院内閣委員会で国民民主党の山尾志桜里議員が語った次の言葉だ。

「決して(政府が)『守ります』と言わない。これが附帯決議」。

附帯決議には政府を縛る効力はないという指摘だ。ファクトチェックの結果を最初に書くと、これは正しい

詳しく見てみたい。2月1日の衆議院内閣委員会では、「新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、特措法)等の一部を改正する法律案」に関する議論が行われた。

質問に立った山尾議員は、自民党と立憲民主党が修正合意したと報じられた(この段階では)特措法の改正案では、新たに加えられたまん延防止等重点措置の際に国会報告の必要性が法律そのものではなく、附帯決議にのみ書かれる点を取り上げた。因みに、改正前の緊急事態宣言については国会への報告が条文に明記されている。

このまん延防止等重点措置は、改正案で取り入れられた新たな規制で、これによって知事は管轄する都道府県内の特定の地域で営業自粛を要請することができ、その際、正当な理由なく要請に応じない場合は命令することができ、それに従わない場合は、20万円以下の過料を科すことができる。また、立ち入り調査に応じない場合も20万円以下の過料を科すことができる。

つまり、罰則の無かった法改正前の緊急事態宣言よりも厳しい措置となっている。それにも関わらず、改正前の緊急事態宣言では条文に規定されている国会への報告が、条文ではなく、附帯決議に書かれるのみとなっている。

国民民主党は、私権の制限を伴う厳しい措置であることから国会への報告を条文に明示するよう求めていた。しかし与党と立憲民主党が附帯決議に書くことの修正案で同意したと報じられたことから山尾議員が以下の様に質問したものだ。それを衆議院のネット中継で確認する((3:01:25~3:02:35)。

山尾議員「今回、附帯決議がついた場合、大臣としてその附帯決議を守りますか?」

西村大臣「附帯決議が議決をされれば、そのことはもちろん真摯に対応していきたいと考えています。」

山尾議員「守りますとは大臣は絶対言わないんですね。真摯に対応すると言うんです。(中略)法制局長官に質問します。附帯決議は政府を法的に拘束しますか?」

近藤内閣法制局長官「附帯決議それ自体は法令ではございませんので、広く国民等に関する法的拘束力があるわけではございません。」

山尾議員「附帯決議とは国会の意思。国会から西村大臣や政府の側に出すラブレターのようなものです。それを受け止めて尊重しますと言うんだけども、決して守りますとは言わない、コミットはしない、これが附帯決議です。」

西村大臣は「真摯に対応していきたい」と話したが、「守る」とは言っていない。これについて山尾議員が法解釈の専門家である内閣法制局長官に附帯決議の効力を問うたが、法制局長官の発言は、法的拘束力の無いことを明言している。

参議院のホームページには、附帯決議に関して次の様に記載している。

「法律案が可決された後、その法律案に対して附帯決議が付されることがあります。附帯決議とは、政府が法律を執行するに当たっての留意事項を示したものですが、実際には条文を修正するには至らなかったものの、これを附帯決議に盛り込むことにより、その後の運用に国会として注文を付けるといった態様のものもみられます。附帯決議には、政治的効果があるのみで、法的効力はありません」。

つまり附帯決議とは、「政府が法律を執行するにあたって」留意する必要は有るが、「法的効力は」無い。つまり政府は必ずしも付帯決議を守る必要は無いということで、山尾議員の発言は正しい。

これについては、罰則を伴った私権の制限を行う際に国会がその責任を放棄しているとも解せる内容だけに、専門家からの批判の声は少なくない。

インファクトはFIJのメディアパートナーで、この記事の作成にはFIJリサーチャーの日高 大さんが関わっています。

※誤って「罰金」としていた部分を「過料」に修正しています。失礼しました。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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