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菅総理の資金管理団体が都内高級ホテルで開く普通には「不可能」なパーティー 団体は説明せず

立岩陽一郎InFact編集長
会見する菅総理大臣(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

政権発足から1か月が経った菅義偉総理。その政治資金の流れを見ると、不可解なパーティーの存在が浮かび上がる。それは高級ホテルで開かれるパーティーだ。格安の経費での開催で、ホテルの側は普通に開くのは「不可能」と説明。

「横浜政経懇話会」という政治団体がある。代表は菅義偉となっている。菅総理だ。「横浜」と名乗っているが菅氏のお膝元である神奈川県にあるわけではない。

「東京都千代田区永田町2-1-2 衆議院第2議員会館1113」。

これは議員会館の菅総理の事務所だ。当然、そこで「横浜政経懇話会」の会合が開かれるということはないだろう。総務省の資料を見ると、これは資金管理団体、つまり、菅総理が政治活動を行う際の資金を管理する団体だ。

横浜政経懇話会の政治資金収支報告書
横浜政経懇話会の政治資金収支報告書

公益財団法人「政治資金センター」のデータでこの団体の政治資金収支報告書(以後、報告書)を確認すると、団体の主な収入がパーティーによるものとわかる。

最も新しい報告書は2018年のものだ。その総収入は3983万642円となっている。その収入の内訳を見ると、個人の寄附は15万円。その他の事業が3968万円。その他の細かい収入が642円。以上だ。では、その他の事業がパーティー収入だ。「新しい国創りセミナー」5回で、その収入総額は3772万円だ。団体の収入の94.7%。つまり、総収入のほとんどはパーティー収入ということになる。それをまとめたのが以下の図だ。

2018年の報告書から筆者作成
2018年の報告書から筆者作成

注目してほしいのは利益率だ。一度のパーティーで約8割から9割の収益を得ていることになる。他の年についても調べてみると状況は同じ。それを可能にしているのが収入に比べて極端に小さい支出であることは説明するまでもない。1000万円近い収入を出すパーティーがなぜ100万円に満たない金額で開けるのか?しかも、実施場所は高級ホテルだ。

この報告書からはその実態がわからないが、過去の報告書からその内容がわかる記述を見つけることができた。既に公表対象となってはいないが、「政治資金センター」のデータベースに残っていた。それによると、この「横浜政経懇話会」は2011年と2012年に700人規模のパーティーをそれぞれ1度開いている。そこに参加者の人数が書かれていた。

2011年の横浜政経懇話会の報告書によると、11月10日で、参加者705人で1506万円の収入を得ている。このパーティーの費用は162万円余り。2012年の横浜政経懇話会の報告書によると、10月10日にANAインターコンチネンタルホテルで開催し769人が出席し、1780万円を得ている。経費は171万4753円となっている。

報告書から筆者作成
報告書から筆者作成

ここで注目したいのは1人当たりの経費計算だ。いずれの年もパーティーの1人当たりの経費は2000円ほどとなる。高級ホテルで1人2000円などという経費で数百人規模のパーティーは開けるのだろうか?

会場となったホテルに問い合わせたところ、どちらも、「お客様の個人情報にあたるので、そうしたパーティーが開かれたかどうかもホテルとしてはお答えできません」との回答だった。

そこで都内の複数のホテルに立食パーティーを行う際にいくらかかるかを尋ねてみた。するとホテル側は、「部屋の装飾や食事にもよる」としながらも、「1人あたり1万円を切る金額で可能ですか?」と問うと、「1人あたり1万円を切ることは無理です」という答えが返ってきた。更に、「1人あたり2000円で行うことは可能ですか?」と問うと、「それは不可能です」と言われた。

つまり普通に開くのは「不可能」という答えだが、実は、そう回答したホテルの中には、この団体がパーティーを開いているホテルも含まれている。

なぜそのような「不可能」なことが可能なのか?次の2つの可能性を指摘することができる。1つはホテル側が収支を度外視して特別待遇をした。もう1つは報告書に事実と異なる記載をした。

長く政治資金を調査してきた政治資金センター代表の阪口徳雄弁護士は次のように話す。

出席をしないのに多数のパーティー券を購入している企業等があるからだと、私たちは見ている。参加しないことについて互いが了解している企業、団体によるパーティー券の購入は、政治資金規正法で禁止されている寄付に該当する疑いがある

この点について横浜政経懇話会に9月25日に問い合わせたところ、「ファクスで質問を送って欲しい」と言われたので質問をファクスで送り、そのファクスの受け取りについて電話で確認した。しかし10月18日現在、返答は無い。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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