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安倍総理辞任の衝撃の中、「官邸の天敵」南新聞労連委員長が朝日新聞政治部の現場に復帰

立岩陽一郎InFact編集長
安倍総理の辞任会見が流れる歌舞伎町(写真:西村尚己/アフロ)

新聞労連委員長として総理会見の在り方や総理と記者が会食する慣行を厳しく批判してきた南彰氏が9月1日から朝日新聞政治部記者として取材の現場に復帰する。一時は異例のベテラン総理番という話もあったが、国会担当キャップとして国会審議取材を指揮する。

新聞労連委員長としてスピーチする南彰記者(楊井人文撮影)
新聞労連委員長としてスピーチする南彰記者(楊井人文撮影)

南記者は2年間の新聞労連委員長の任期がきょう8月31日で終わる。そして明日、9月1日から朝日新聞の政治部記者に復帰する。担当は国会の審議について情報収集や記事化の取りまとめ役を担う国会担当キャップに決まっている。

南記者は、2018年に新聞労連の委員長に就任。男性優位が顕著な新聞での女性の権利擁護に尽力したほか、総理と各社の記者が懇談をするといった従来の政治取材の在り方を批判してきた。また、総理会見が「儀式」になっているとも批判し、官邸側が主導する記者会見を見直して記者が自由に質問できる総理会見の実施を求めて署名を集めるなどしている。

加えて、「報道事変」「政治部不信」といった著書で、官邸取材を頂点とする日本のマスメディアの取材の在り方にも疑問を呈している。また委員長就任前の2017年の菅官房長官の会見で、「政府があらゆる記録を克明に残すのは当然で、議事録は最も基本的な資料です」と書かれた本を示して「これを書いた政治家を知っていますか?」と尋ね、官房長官が「知りません」と答えると、「菅官房長官です」と迫った記者会見でも知られる。

実は南記者は、総理番への就任も検討されていた。政治部の人事を知る朝日新聞社員は次の様に話した。

「総理番は政治部1年目の若手が務めることが慣例となっていますが、安倍総理が記者の質問に応じない状況などが散見され、南記者はこれでは駄目だと考えて政治部長に直訴したそうです。政治部も一時期はその方向で調整したようですが、結果的には以前担当していた国会担当のキャップということで落ち着いたということです」

実現していればキャップ級の総理番という過去に無い人事となったが、安倍総理が辞任することが決まり、その必要が無くなったとも言えるかもしれない。ただし、国会の審議について目を光らせる国会担当キャップという立場から、次の総理の国会での発言をチェックすることになる。南記者は新聞労連委員長としてファクトチェックの推進にも力を入れており、新たな総理大臣の国会での誤った発言を厳しく指摘することになりそうだ。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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