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新型コロナ NHKで専門家が「このウイルスは賢い」「経済再開にはPCR検査の拡充が不可欠」と指摘

立岩陽一郎InFact編集長
NHK日曜討論(5月17日)の画像から筆者が撮影

NHKの日曜討論を見る人は少ないだろう。しかし、当事者や専門家が議論を行う極めて貴重な番組であることを私はYahoo!ニュース個人で書いてきた。別にNHKに頼まれたわけではない。コメンテーターではなく、当事者か、或いは当事者に近い立場の人の発言が今ほど重要な時は無いと考えるからだ。

きょう(5月17日)の番組でも、共有すべき内容が語られていたと考えるので記事化した。この日は、新型コロナの新規感染者数に減少傾向が見られる中で、今後の課題について議論が行われた。

この中で、特措法を担当する西村康稔経済再生担当大臣は、緊急事態宣言を解除した後も、状況に応じて再度、宣言が発せられることになると発言した上で、その判断のためにもPCRの検査体制の拡充が必要と話した。

今、この(検査)体制を広げていかなければいけない。そうした時に、いざ(感染者数増加の)小さな波が起きた時に、PCRの体制でしっかりと探知して大きな波にしないということが大変大事なこと」。

この点について更に強く求めたのは経済の専門家で、緊急事態宣言が解除されても本格的な経済活動はできないと意見が示された。第一次安倍政権などで経済再生担当大臣などを務めた政策研究大学院大学の大田弘子特別教授だ。

感染への不安が和らいでいるわけではない。検査体制が不十分なので、自分を含めてまわりが陰性なのか陽性なのかわからない。この状態では、仮に緊急事態宣言が解除されても本格的な経済活動はできない」。

大田氏は、「検査を拡充させるということなので、今度こそ拡充して頂いて、陽性になった時にはしかるべきところに確実に行けるという安心感、不安の解消。これが経済の再開に不可欠」と検査体制を強化することの重要性を強調した。

番組では、このウイルスに関する医療現場での実感も語られた。聖路加国際病院で感染管理を担当している坂本史衣マネージャーの発言だ。

医療現場にいて思うのは、このウイルスの賢さ。症状が出る二日くらい前からひっそりと人にうつすことができる。ほとんどの方が重症化せずに治っていく。いわば、乗り物をうまく乗り継いで、生かさず殺さず、人類と共存する気が満々なんだというのを私たちはひしひしと考えてきた

坂本氏は、「リスクはゼロにならないがリスクを減らすための工夫はできる。工夫をしながら生活をする必要がある」と指摘した。

つまり、このウイルスの完全な根絶は難しく、長期戦の中で検査体制を拡充してリスクを早期に察知する体制を作ることが、普通の生活、普通の経済活動に戻す際の前提となるということだ。

PCR検査体制については、専門家会議の尾身茂副座長も「日本の10万人あたりのPCR検査数というのは他国と比較して明らかに少ない。これは間違い無い」と語っており、総数でも人口あたりでも体制が十分でない現状を認めている。また、専門家会議の中でも、拡充の必要性が議論されてきたことを認めている。

その一方で、コメンテーターなどの中には、PCR検査を抑制してきた政府の政策を擁護する指摘も散見される。そうした議論はそろそろやめた方が良い。ここは政権批判、擁護とは別に、冷静に考える必要がある。

医療の現場で感染症対策にあたる専門家が長期戦への備えを指摘し、長年にわたって政府の経済政策に携わってきたエコノミストが検査体制の拡充を求めている。それを軽視すべきではない。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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