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新型コロナ 「モーニングショー」の玉川徹氏が誤報した東京のPCR検査 重要なのは事実を知ること

立岩陽一郎InFact編集長
番組でコメントする玉川徹氏(5月6日モーニングショー)筆者撮影

「土日は行政機関の(検査所は)休みになるので、実は(陽性数の)39という件数は全部民間の検査の件(でしかない)」。

4月28日に放送されたテレビ朝日の情報番組「モーニングショー」で、コメンテーターの玉川徹氏がこう発言したことは、この番組の高い視聴率と玉川氏の人気で話題を呼んだ。

これは週末に東京で陽性とされた人の数が39人と大幅に減った点について、玉川氏がそれは実態を伝えていないという趣旨で語ったものだが、メディア研究者で特に新型コロナをめぐるメディアの報道について研究している上智大学の水島宏明教授は、この発言に着目して、Yahoo!ニュース個人にて、「これは凄いスクープでは?」と、新聞や他のメディアが取材すべき重要な事実だと指摘した。この水島教授の記事はYahoo!ニュース個人のその週のアクセスでトップを記録するなど、更に玉川氏の発言を拡散させるものとなった。

しかしこの玉川氏の発言はその放送直後から異論が出た。指摘を受けて、翌29日に玉川氏は番組の中で誤りを認め、「正しくは、その39名の中に行政機関の検査によるものが、多数含まれていたことが分かりました。そして、土日に関しても行政の検査機関は休んでいなかったというふうなことも分かりました。(中略)本当にすみませんでした。」と謝罪した。

これについては、玉川氏を批判する側と玉川氏を擁護する側とにわかれて、ネット上でコメントが行き交う事態となった。

玉川氏がコメンテーターを務めるテレビ朝日「モーニングショー」
玉川氏がコメンテーターを務めるテレビ朝日「モーニングショー」

断っておくが、この記事は、誰を批判するというものでも、誰を擁護するというものでもない。事実がどうなのかを知ることが重要だからだ。では、東京都はどのような検査体制なのか?

実際、インファクトでは、五輪延期決定でPCR検査が増えたとする言説がネットで拡散した際に、全国や東京都の検査状況を調べており、その際に週末も検査数が計上されていることを確認している。一方で、週末の検査数は平日に比べて少ないという印象も有った。

そこで、あらためて東京都福祉保健局感染症対策課に確認した。担当者は、先ず、「土日も検査を行っています」と話し、あらためて当初の玉川氏の発言を否定した。

その上で、現在の東京都の1日あたりのPCR可能件数について次の様に話した。

「(東京)都で管轄しているPCR検査の実施場所は、東京都健康安全研究センターに加えて、民間委託が有ります。3月末の段階で、東京都健康安全研究センターが最大240件/日で、民間委託が100件/日でした。このうちの、民間への委託を更に200件/日増やしたため、4月現在では、東京都安全研究センターの240件/日と、民間への委託300件/日で540件/日が可能です」

つまり、東京都は4月から一日540件のPCR検査が可能になっているということだ。その検査数、そして陽性数がその日のうちに東京都に報告されて集約される。

ただ、検査数はこれだけではない。これ以外に、都が委託していない民間(医療機関と民間企業)での検査がある。

これが所謂、「保険適用」による検査と呼ばれるもので、完全な民間ベースの検査だ。この検査については、週に1度、その週の総計が東京都に報告されている。この「保険適用」検査については日々の検査数としては計上されず、毎週金曜日〆で各日の検査数に加算される。このため、一挙に検査件数が増える日が出て、一日の検査件数が1000件を超える日も有る。つまり、この「保険適用」を加えると、一日1000件を超える検査が行えるということだ。ただし、陽性者の数だけはその日毎に東京都に報告されることになっており、玉川氏の発言はこの点を曲解した可能性が有る。

ここで1つ留意点が有る。この時の「保険適用」の検査数は、文字通りの検査数となっている。検査を受けた人の数ではない。例えば、1人の人に2回検査を行う場合は有る。その場合、2件として報告されてしまう。東京都の検査は検査を受けた人の数が報告されるが、「保険適用」はあくまで件数であり、それは必然的に人数より多くなる。

記者会見する専門家会議の尾身茂副座長(5月4日)TBSニュースから
記者会見する専門家会議の尾身茂副座長(5月4日)TBSニュースから

これは陽性率を出す際に、少し困ったことになる。分母が特定できないからだ。これについては5月4日の専門家会議の記者会見でも尾身茂副座長が語っており、別に集計する必要が有ると述べている。何れにせよ、負担を無くしつつ検査数を確保する試行錯誤が続いているということだ。

ところが、5月6日の「モーニングショー」で、玉川氏は、陽性率が出せないことがあたかも東京都の作業の問題かのような発言をしていた。繰り返すが、この記事はコメンテーターの発言を問題視するものではない。しかし、玉川氏の発言には、どこまで事実を踏まえた上での発言なのか疑問を感じることが有る。

ところで、冒頭に記した通り、過去の数字を見ると、確かに、週末の件数は平日を下回っている印象が有る。これについても問い合わせたところ、東京都は次の様に答えた。

検査機関は休日においても、東京都所管、民間ともに、休まずに検査を行っています。ただし、検査機関に回す前に医療機関での判断が必要であり、土日は医療機関が休みのところが多いので休日の検査数は減ってしまう

検体を採取するのは医療機関だ。その医療機関の状況次第でPCR検査数も変化するということだ。医療崩壊への懸念が指摘される中、ある程度、医療機関の状況に配慮することはやむを得ないだろう。

以上が東京都内におけるPCR検査の状況だ。繰り返すが、この記事は、玉川氏を批判するものでも擁護するものでもなく、まして玉川氏の発言に着目した水島教授を批判するものではない。ただ、これだけは書かなければいけない。今大事なのは格好良い言説でも人の心を打つ言葉でもない。

大事なのは事実だ。それだけは強調したい。

インファクトはFIJが主催する新型コロナ国際ファクトチェック・プロジェクトに参加している。このプロジェクトは日本財団とYahoo!Japanの支援によって行われているもので、新型コロナに関する情報の検証を国際的に行っている。この記事の調査にはFIJの常松英恵リサーチャーが協力している。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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