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「新型コロナは中国で人為的に製造された」とノーベル賞の本庶教授が語ったとする虚偽情報がインドで拡散

立岩陽一郎InFact編集長
ノーベル医学・生理学賞を受賞して会見する本庶祐氏(写真:Shutterstock/アフロ)

日本の著名人を語ったフェイクニュースが世界で拡散する事態となっている。今回、明らかになったのは、ノーベル賞の医学・生理学賞を受賞した京都大学特別教授の本庶佑氏を語った虚偽の情報だ。それは、本庶教授が、「新型コロナウイルスは中国の研究所で人為的に製造されたものだ」などと語ったとされるものだが、事実ではない。事態を重く見た京都大学は本庶教授の否定コメントをホームページに急遽、掲載した。

4月26日、インドのファクトチェック団体BOOMから、「ノーベル賞受賞者の本庶佑教授が、『新型コロナウイルスは中国の研究所で人為的につくられた』と言っているようだがが、事実関係を確認できないか?」との問い合わせが来た。

どのような内容か確認すると以下の様な画像が見つかった。

本庶教授を語った虚偽情報
本庶教授を語った虚偽情報

その内容は「日本の生理学・医学教授である本庶佑教授は、新型コロナウイルスは自然のものではないと言い、今日メディアの前でセンセーションを巻き起こした」として始まる。

そして、「これ(新型コロナのウイルス)は自然のものではありません。それは製造されたもので、ウイルスは完全に人工的なものです」と続いている。

更に自身が武漢の研究所で4年間働いていたと記した上で、「私はその研究室のスタッフ全員のことを十分に知っています。このコロナの事故の後、私は彼ら全員に電話をかけました。しかし、彼ら全員の電話はこの3カ月の間につながらなくなりました。それはすべての研究所の研究員が亡くなったということです」とまで書いている。

そして、「私のこれまでのすべての知識と研究に基づいて、私はこの新型コロナのウイルスは100%自然なものではないと自信を持って言えます。これはコウモリ由来のものではありません。中国が製造したのです」と強調している。

更に、「もし私が今日言っていることが今、もしくは私の死後に誤りであることが判明したら、(日本)政府は私のノーベル賞を取り下げることができます。しかし中国は嘘をついており、この真実はいつか皆さんに明らかにされるでしょう」と結ばれている。

BOOMの記者は、「著名なノーベル賞受賞科学者の発言ということでインド全土で拡散している」と伝えてきた。それは英語だけでなく、ヒンドゥー語などインドで使われているいくつもの言語で拡散しているとも話した。

先ずは本庶教授のこれまでの発言を確認した。本庶教授は自身のホームページで「新型コロナウイルス緊急提言」としてPCR検査を増やすべきだといった考えに言及しているが、どこにも、新型コロナのウイルスが中国の研究所で人為的につくられたといった記述はない。

そこで、本庶教授が副院長を務める京都大学高等研究所に電話で取材したところ、「それは事実ではありません。フェイクニュースです」と話し、情報を全面的に否定した。また、本庶教授が過去に武漢の研究所に在籍していた過去は有るのかとの問いにも、「そうした事実はない」と否定した。

京都大学はその後、本庶教授の「新型コロナのパンデミックによって、この様な悲痛と経済的損失、そして、かつてない苦しみを世界が味わっている中で、私と大学の名前が、誤った非難と誤った情報の拡散に使われたことに、困惑しています」とのコメントを英文で掲載し、あらためて無責任な情報の拡散を非難した。

本庶教授のコメント

つまり、全くの虚偽情報ということだ。因みに、この本庶教授コメントの全文訳はインファクトのサイトに掲載している。本庶教授の受けた衝撃と、この問題について真剣に考える教授の姿勢がわかる。

インファクトのからの報告を受けて、BOOMはこの情報が虚偽情報だとする記事をインドで報じた。

海外で日本の著名人を語った虚偽情報の拡散は、インファクトが確認しただけでも河野防衛大臣を偽ったツイートが台湾で拡散した事例が有る。Yahoo!ニュース個人「新型コロナ 台湾で河野防衛大臣を装った虚偽ツイートが拡散 日台共同ファクトチェックで判明」今後も注意が必要だ。

インファクトはファクトチェックを推進するFIJの新型コロナウイルス情報に関するファクトチェック国際プロジェクトに参加しています。このプロジェクトは日本財団とYahoo!JAPANの支援で行われているもので、各国のファクトチェック団体と連携して新型コロナに関する誤った情報の検証を行って、その結果を公表しています。この記事の取材にはインファクト編集委員の安藤未希が関わっています。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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