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新型コロナ 台湾で河野防衛大臣を装った虚偽ツイートが拡散 日台共同ファクトチェックで判明

立岩陽一郎InFact編集長
河野大臣を装った虚偽ツイートに注意喚起する台湾のファクトチェック・サイト

日本の大臣が台湾の人に向けて発信したツイートが台湾で拡散されて話題になっているが、事実かどうか確認して欲しい

そういう依頼が、台湾でネット情報の真偽の検証を行っている台湾ファクトチェックセンター(TFC)から届いた。

問題のツイートは、河野防衛大臣のツイッターを装っており、「台湾から五十万のマスクが安着しまして、台湾の安全を祈ります」とツイートされたことになっている。発信者欄には、「河野太郎」と書かれて河野大臣の顔写真がついている。見た目は河野大臣が個人で行っているツイートの様に見える。「リツイート」「いいね」は6000を超えて、TFCによると、更に拡散する勢いとなっているという。

この情報には、台湾の人の様々なコメントがつけられている。

裏でマスクを日本に送ったの?だから台湾人一週間に2枚しか買えないか」。

次はアメリカ(に送るの)でしょ?もう列を並ぶ必要はない。布のマスクを使おう」。

何れも怒りを伴ったものとなっている。

これには理由が有る。台湾でも日本同様にマスク不足が深刻で、台湾政府は今年1月末から医療用のマスクの輸出を禁止している。また、国内製造の医療用マスクを全部買い上げ、各地の薬局に配布し、市民には毎週一人あたり3枚(最初は2枚)とするマスクの購入制限を課している。このため、各地の薬局には、マスクを求める市民で長蛇の列ができている。

つまり、台湾の人から見れば、台湾政府は台湾の人を差し置いて日本に大量のマスクを送ったということになる。それを示す河野大臣のツイートということで、このツイートが政府批判として拡散しているということだ。

このため、ファクトチェック(真偽検証)を行ったところ、先ず、このツイートが発せられたとされる先月(2月)28日には河野大臣はこうしたツイートを発していなかった。

その上で河野大臣の事務所にも確認を依頼したところ、「河野大臣にも直接確認したが、そうしたツイートはしていない」と否定した。

つまり、河野大臣を語る虚偽のツイートが台湾で悪用されていたということだ

これは極めて巧妙な虚偽情報の流布と言える。台湾でも知名度の有る日本の政治家を使って虚偽情報を流すというものだ。その虚偽ツイートは画像もアカウント名も見た目は、河野大臣の本物のツイートと変わらない。これでは、最終的に本人に確認しない限り真偽のほどはわからず、台湾のファクトチェック団体では確認は難しい。また、台湾でのみ拡散している以上、それが日本で知られることはない。実際、河野大臣の事務所は私たちが確認するまで、この事実を把握していなかった。

私たちは、この河野大臣のツイートとされるものが虚偽であることをTFCに伝えた。それを受けて3月13日にTFCがこのツイートを虚偽だと注意喚起した。それが冒頭の写真だ。同時に、Facebook上にも「虚偽の情報」との但し書きが入った。これは台湾では、Facebook、LINEなどのSNS各社がTFCなどのファクトチェック結果を掲載することにしているためだ。

SNS上に中国語で「虚偽の情報」と表示された虚偽ツイート
SNS上に中国語で「虚偽の情報」と表示された虚偽ツイート
日本語にするとこうなる
日本語にするとこうなる

今回の虚偽情報についてTFC編集長の陳慧敏氏は次の様に話した。

台湾には有名人の発言や自分の体験などの偽情報は多いですが、今回新型コロナウイルスをめぐる偽情報は少し違います。特に、2月下旬から3月上旬まで、政府への不満を煽る偽情報が急にツイッターやフェイスブックで増えていた。河野防衛大臣の偽ツイートもその一つです

そして、「日本の大臣の名前を語ることで、信ぴょう性を高め、検証困難な虚偽情報を拡散する狙いかと思います」と語った。

虚偽のツイートに書かれた「安着」という言葉は台湾でも使うことは無いという。台湾では今年1月の大統領選挙で中国と距離を置く蔡英文氏が再選されている。ツイートの発信者の中には、「蔡英文氏の追放を求める連盟」と書かれたものもあった。TFCによると、去年あたりから中国からと見られる蔡英文政権を批判した虚偽の情報がネット上で拡散しているという。

この虚偽情報はTFCから日本でファクトチェックを推進しているFIJに調査の要請があったものだ。FIJは新型コロナウイルスに関する情報のファクトチェックに関して各国のジャーナリストと協力するプロジェクトを日本財団の支援で始めている。

現在の新型コロナウイルスのファクトチェックの結果については以下のサイトで確認できる。

[FIJhttps://fij.info/coronavirus-feature FIJ新型コロナ特設サイト]

インファクトはFIJのメディア・パートナーとして同プロジェクトに参加しており、今回の取材では、インファクトの台湾人ジャーナリストである池雅蓉氏が台湾でのマスク事情の取材とTFCとの情報交換を担った。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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