維新代表が「幼稚園、保育園の無償化が実施されている」とした大阪で、実際は全市町村の20%未満

大阪府内の市町村で幼児教育の無償化の状況を色分けした(制作:ニュースのタネ)

今月21日に投開票が行われる参議院選挙で、日本維新の会の松井一郎代表は「大阪では増税なしに私立高校の授業料や幼稚園、保育園の保育費無償化を実現した」と発言していたが、大阪府内全市町村を調査した結果、幼稚園、保育園で完全に無償化を実施している自治体は8市町と、全体の20%に満たなかったことがNPOニュースのタネのファクトチェックでわかった。(立岩陽一郎)

日本維新の会の松井一郎代表は、「今、総理から教育無償化の財源として消費税を使うという話が有りましたが、8年前から実質教育無償化を大阪では実行してきています。徹底的な行財政改革で財源を生み出し、これはできるわけですから、今消費税を上げる必要が僕は無いと思います」(NHK日曜討論7月7日放送)や「政府は(消費税の)増税分を教育無償化の財源にするとしているが、大阪では増税なしに私立高校の授業料や幼稚園、保育園の保育料無償化を実現した」(読売新聞7月8日)などと主張してきた。

これは、安倍政権は増税分の一部を幼児教育無償化に充てる方針を示しているのに対して、増税しなくても教育無償化を実現できると主張したものだ。その根拠として、大阪では増税なしに高校の授業料や保育料の無償化を実現した実績を繰り返し主張しているもので、事実であれば、与党の主張する消費税増税に疑問を投げかけるものとなる。

これまでのファクトチェックで、高校私学の無償化については大阪府が助成を行っていることがわかっている。公立高校の無償化は民主党政権時代に実施されて現在もその延長上で、所得制限を設けた上での無償化が実現されており、私学については国の補助に加える形で、所得に応じた形で補助が行われている。所得制限をつけることを無償化と呼ぶのかは議論が有る。また、生活にゆとりの無い人でも無償化の対象から外れるケースも有る。ただ、無償化を実施していないとまでは言えず、松井代表の主張は大筋で間違っていない。

問題は、幼稚園、保育園についての無償化の実態だ。これについて大阪府内の43市町村全てについて調べた。

ここで、冒頭の地図を見て欲しい。NPOニュースのタネが、大学生や社会人の力を借りて府内33市に加えて10町村について各自治体の担当者から聞き取り調査を行った結果が示されている。青色は、所得や子供の数などの条件をつけずに完全に無償化を実施しているとした自治体は、大阪市の様な保育園については半額補助としているところを含めても6市、1町の7市町だけだった。これは大阪府内の市町村の16%余りという状況だった。

黄色は、第二子を半額、第三子以降を無償化にするとか、所得に応じて無償化にするなどの条件付きでの無償化対策を実施している自治体で、 26市、9町の35市町あった。

赤色は'''無償化が実施されていない自治体で、東大阪市のみだった。

何れの自治体も今年10月から国が進める子育て支援策による無償化の準備を進めており、現在無償化を実施していない自治体の担当者は、「国の支援無くして無償化は実現できない」と話した。

自治体別にみると次の様になる。

無償化をほぼ完全な形で実現している自治体

大阪市、箕面市、茨木市、守口市、門真市、河内長野市、田尻町

条件付きで無償化を実施している自治体

堺市、池田市、高槻市、豊中市、吹田市、摂津市、四条畷市、大東市、枚方市、交野市、寝屋川市、柏原市、泉佐野市、羽曳野市、阪南市、泉大津市、泉南市、八尾市、松原市、和泉市、貝塚市、藤井寺市、富田林市、大阪狭山市、高石市、岸和田市、忠岡町、熊取町、能勢町、豊能町、島本町、河南町、岬町、太子町、千早赤阪村

無償化を実施していない自治体

東大阪市、

もとより、この調査は、消費税の増税を是とする目的で行われたものではない。これは日本維新の会代表の発言が事実か否かを事実確認をしたもので、それ以上のことを議論する目的ではない。

この問題を「参院選FactCheck」として最初に指摘した際には、所得制限や多子家庭への補助を無償化と呼ぶのは適切ではないとの指摘も多く寄せられた。例えば、大阪市を完全無償化と呼んでよいかも議論が分かれる。ファクトチェックの記事では松井代表の発言は「不正確」と指摘したが、「詐欺ではないか」との意見も寄せられている。日本維新の会には、そうして点も踏まえて丁寧な説明を求めたい。一連の記事で日本維新の会に質問を送って回答を求めたが回答は得られていない。

このファクトチェックには前回に続き多くの人が参加している。同志社大学の宮崎文歌さん、神戸学院大学の藤井郁也さん、近畿大学の大塚萌恵さん、熊本大学大学院の堀田龍玄さん。他に社会人の男性や主婦などが匿名を条件に調査に参加している。また、調査結果から地図を作製したのは和歌山大学大学院の橋中義典さん。

このうち宮崎さんは、「実際に、政治家の発言を確かめて、それが事実と異なることを実体験できたのは驚きであり、勉強になった」と話した。難しかった点は、「市役所の担当者に、こちらの要望をうまく伝えられず欲しい情報が手に入らなかったこと」だったということで、機会が有ればもう一度ファクトチェックを行いたいと話した。

藤井さんは、「最初に役所に電話する時は不安は有ったが、実際に電話してみて役所の人も丁寧だったのに驚いた。自分で事実を確認できるということに大きな満足を得ることができた。ファクトチェックには難しいイメージがあったが、やってみたら、そう難しいものではなかった。また機会が有ればやってみたい」と話した。

主婦の女性は、「自分なりに考えながらやったが、どこまで確認をとれば良いのかわからず混乱した。次はもう少し手法を学んでから参加したい」と話した。この女性も次に機会が有ればもう一度やりたいと話した。

メディアのあり方を研究している神戸女学院大学の景山佳代子准教授は、学生など一般の人が参加したことに注目して次の様に話している。

「私自身も神戸市の子育て支援の実態についてファクトチェックをしてみたが、それによって自治体の姿だけでなく、政府が進めようとしている支援の方針も見えてきたのが新鮮だった。ファクトチェックはジャーナリストや研究者などの仕事だと思われがちだが、今回の子育て支援のように自分たちの生活に密着した政策については、むしろ生活者である一般の方々が取り組むことで、発見される課題があるのではないかとも思った。またファクトチェックというツールは、市民が自分の暮らす地域の行政のあり方に関心をもつ大きなきっかけになりうると感じている。政治家にとっても、有権者である市民が行う事実に基づいた指摘は無視できないのではないか」

NPOニュースのタネは今後も一般の方の参加を得てファクトチェックを行っていくことにしている。参加希望者は是非、tateiwa@seedsfornews.comに連絡を頂きたい。

※ファクトチェックの結果から豊中市を完全無償化として計算していましたが、住民の方から資料とともに保育料が無償化となっていないとの指摘を受けて修正させて頂きました。また、これまで「無償化をしていない」と答えていた自治体も、国や府の支援で多子軽減策は行っていることがわかり、その点を修正しています。その結果、7月26日現在で無償化をしていない自治体は東大阪市のみとなっています。