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2018年、新聞は報じるニュースの根拠を明確にせよ

立岩陽一郎InFact編集長
2018年元日の各社の新聞(筆者撮影)

年明け、米国は北朝鮮を攻撃するのではないか・・・。

実は、この話は年末の日本のマスメディアに流れていた。いくつかの大手新聞、テレビ各社はその為の体制もとったという。

情報を持ち込んだのは何れも各社の政治部だ。政治部とは、官邸や外務省、与野党の政治家を取材している記者たちだ。米政権の動きなのになぜ政治部なのか?答えは簡単だ。日本政府がそうした情報を流しているからだ。

政府にどれだけの情報が有るのかは不明だ。しかし少なくとも、平昌オリンピックまでの期間に米軍が北朝鮮を先制攻撃する様な状況にはないと言って間違いではないだろう。その後はわからないが、オリンピック後は既に「年明け」ではない。つまり、情報は正しいものではなかった可能性が極めて高い。

2017年はこうしたあやふやな情報に翻弄された1年だったように思う。特に、米朝関係、日朝関係など、北朝鮮が絡んだニュースは、残念ながら根拠の乏しい情報が氾濫した。そして、現状を考えると、その状況は2018年になっても変わらない様だ。

例えば、1月6日の朝日新聞。韓国と北朝鮮の協議について、「南北接近 日米冷ややか」とする記事を掲載している。しかしどこを読んでも、米国政府に取材をした痕跡が無い。「日米冷ややか」と書くには、日本政府の取材だけでは十分ではない。記事でそれらしいのは、「米韓関係筋」と称する人間が、「(韓国側の)一方的な(軍事)演習の縮小には(米国は)強く反発するだろう」と語っている程度だ。では、この「米韓関係筋」は米国政府を代表する立場の人間なのか?記事からは全くわからない。つまり、出所不明な情報だということだ。

実際にはトランプ米大統領はその後の記者会見で協議への期待を語っている。こうなると、この記事は誤報だったのではないかとさえ思えてくる。

朝日新聞は、2017年11月にトランプ大統領が韓国の国会で行った演説についても、「演説の大半は強い口調だった」として、米政府が北朝鮮に対して高圧的な姿勢を見せたという記事を載せている。しかし、これは演説を報じた米国のメディアの論調とは異なる。私も演説を聞き、全文を入手して読んだが、そういう内容ではなかった。

こうした新聞の報道の責任は重い。いわゆる識者とされる人々の発言も影響を受けていると見られるからだ。テレビをつければ有識者が、「トランプ政権は、金正恩体制の崩壊を目標にしているんですね」などと発言する。

しかしトランプ大統領もトランプ政権も、北朝鮮の核保有を認めないとはしているものの、金正恩体制の崩壊を口にしたことはない。事実は逆だ。トランプ大統領は圧力の必要性を説いてはいるが、金正恩体制の崩壊ではなく、圧力による対話の実現を意識した発言をしている。例えば、韓国国会では、次の様に話している。

「北朝鮮はあなたのお祖父さんが夢見たような楽園ではない。それは地獄だ。しかしながら、我々は、あなたが神と人間に対して行ってきたあらゆる犯罪にも関わらず、あなた方により良い未来への道を提供する」

この「楽園ではない」の部分はテレビでも報じられたが、後半はあまり知られていない。要は、歩み寄りを促しているのだ。少なくとも、「大半は強い口調だった」という印象で語れるほどの単純な内容ではなかった。

勿論、先を見通すことはできない。不測の事態もあり得るだろう。しかし、根拠の不明確な報道に振り回されることは止めた方が良い。読者は新聞を読む際、その情報の根拠があいまいな場合は信じてはいけない。特に、「関係筋」といった表現には要注意だ。

そして、新聞は報道に際して、情報の根拠を明示するべきだ。例えば、「米韓関係筋」とは誰なのか?実名である必要はない。しかし、それが韓国側の人間なのか、米国側の人間なのか?情報源となり得る根拠は何なのか?情報源は1人なのか、それとも複数なのか?もう少し情報を書き込むべきだ。

2017年はフェイクニュースの問題が日本でも指摘された年だった。これはネットで事実と異なる情報が流されることと解されることが多い。しかし、根拠を示さない報道を新聞が報じ続ければ、やがて新聞もフェイクニュースとして扱われるようになるだろう。2018年はその分水嶺だと肝に銘じてほしい。

(参考記事:報道ステーションが使った「アメリカ政府関係者」の怪)

※一部、不適切且つ礼を失した表現が含まれていた部分については削除させて頂きました。不快に思われた方々には削除、訂正をして謝らせて頂きます。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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