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米トランプ政権が不法移民摘発の正当化に使ったレイプ事件、少女の虚言の疑いが濃厚に

立岩陽一郎InFact編集長
(写真:ロイター/アフロ)

不法移民の取り締まり強化を掲げる米トランプ政権がその根拠として挙げていた不法移民の2人による女子中学生レイプ事件は、女子学生の虚言である疑いが強まっている。検察官が容疑を取り下げることを明らかにした。

事件は首都ワシントン郊外のメリーランド州の中学で起きたとされ、その中学に通う14歳の女子学生が被害を警察に届け出ていた。その訴えでは、同じ学校に通うエルサルバドルとグァテマラから正規の手続きを経ずに不法入国した2人の未成年者にトイレに連れ込まれて暴行されたとなっている。

(参考記事:トランプ大統領の取り締まり部隊「ICE」 その名の通り冷徹との指摘(34)

ところが、検察官が学校の防犯カメラや少女と2人のメールのやり取りを調べたところ、少女の訴えのような無理やりトイレに連れ込まれたという事実の無いことが確認されたという。このため、検察官は2人に対する少女暴行の容疑を取り下げることを明らかにした。捜査はまだ続けるという。

この事件はホワイトハウスの記者会見でも取り上げられ、スパイサー報道官は、「トランプ大統領が不法移民を厳しく取り締まるのは、こうした悲劇を繰り返さないためだ」と指摘して不法移民の摘発の必要性を強調していた。暴行の疑いが持たれた2人は17歳と18歳で、中学の3年に編入して学んでいたことから、不法移民への特別待遇が米国人を危険にさらしているという政権の主張に合致していた。

検察官は、2人が少女の裸体を写した写真を保持していたとして児童ポルノ法違反での摘発を検討しているという。しかし、2人の弁護士は、その写真は少女自身が自ら撮影して送ったもので、「2人を訴追するなら、少女も訴追されなければならない」と話している。

長く移民問題を取材し、この事件も当初から取材している公共放送WAMUのアルマンド・トゥール記者は、そもそも証拠から見て事件として成立していなかったとした上で次の様に話した。

「レイプは無かったとしても、ホワイトハウスは自らのコメントを訂正することはないだろう。ホワイトハウスにとっては、多くの人に不法移民の恐ろしさを植え付けることが狙いだからだ。そして、多くの米国民の心には、2人が実際にはレイプをしていなかったという事実は残らず、不法移民が14歳の少女をレイプしたというホワイトハウスのコメントだけが残るんだ

トランプ大統領は就任100日の成果として不法移民の摘発を挙げており、ICEと呼ばれる摘発のための警察官の強化を指示している。

※不法移民は英語ではundocumented immigrantとされ、正確に訳すならば無登録移民となるが、便宜上、「不法移民」を使っている。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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