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米トランプ政権の北朝鮮政策で軍事力行使の選択肢は示されず 議会説明

立岩陽一郎InFact編集長
大統領令を発令して拳をあげるトランプ米大統領(写真:ロイター/アフロ)

米国のトランプ大統領は27日、議会上院の全議員をホワイトハウスに招いて、北朝鮮政策について説明。ジェームズ・マティス国防長官、レックス・ティラーソン国務長官のほか、軍、情報機関のトップも出席して現状と対策を説明。その後、下院議員にも同様な説明を行ったと見られる。

内容は機密指定扱いを受けていて明らかにされていないが、ワシントンポスト紙は複数の出席者への取材に基づき、内容を報じた。それによると、トランプ政権として北朝鮮が極めて深刻な脅威となっているとの認識が示されたという。更に厳しい経済制裁を科すことや外交的圧力によって核を放棄させるという政策について説明が有ったという。しかし、その具体的な戦略については説明がされなかったという。

議員の多くは、トランプ政権が北朝鮮に対する具体的な対策をもっているかも不透明だと認識したという。また、下院で説明を受けた民主党議員で、下院外交委員会の主要メンバーであるエリオット・エンガル議員によると、トランプ政権側から先制攻撃についての説明は一切無かったという。

北朝鮮政策についてトランプ政権は、オバマ政権時代の「戦略的な忍耐」は終わったとして、軍事力の行使を含めたすべての選択肢を検討することを明らかにしている。前日の26日、議会下院の公聴会に呼ばれたハリー・ハリス米太平洋軍司令官は、「米国は(北朝鮮に対して)先制攻撃の様々な選択肢がある」と発言している。しかし、それがトランプ政権の選択肢となると考える識者は少数だ。

(参考記事:米主要テレビが韓国の米軍基地から中継特番 北朝鮮脅威論を反映か)

国務省で東アジアを担当していた元外交官は、議会への説明については聞いていないとした上で、考えられる軍事行動は1つしかないと話した。

「軍事力の行使を幅広くとらえれば、軍事力の行使は有るとも言える。しかし、それはシリア空爆のような軍事力の行使ではない。サイバー攻撃だろう。これはトランプ大統領のこれまでの発言を読み解いても、そう感じられる部分はある。北朝鮮のミサイル発射実験が米軍のサイバー攻撃で失敗に終わったかどうかはわからないが、そうした攻撃は恐らくかなり行っていると思う」

では、シリア空爆の様な軍事力行使は無いのだろうか?

仮に物理的な軍事力の行使を行ったら米国は韓国を失うだろう

それはどういう意味なのか?

「仮に、米軍が先制攻撃すれば北朝鮮の金正恩政権はもたないだろう。しかし、その時、ソウルは38度線に展開する北朝鮮の砲撃部隊の反撃を受ける。ソウルの犠牲者数は想像できない。そうなったら、事が終わった後で、もう朝鮮半島には親米政権は生まれない。そういう分析は国務省にはある」

元外交官は、「それが何を意味するかわかるか?」と続けた。

「米国はアジア大陸に拠点を失うということだ。最前線が日本とフィリピンになる。それはつまり、中国の勢力範囲が日本海まで及ぶということだ。トランプ大統領の周辺でそういう事を考えている人は誰もいない。それがこの政権の怖さだ」

(参考記事:北朝鮮報道に求められるファクトチェック)

※ハリー・ハリス太平洋軍司令官の名前に誤記が有り訂正しています。Harry B. Harris Jr.で、海軍提督です。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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