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北朝鮮政策で外交重視に舵を切った米トランプ政権

立岩陽一郎InFact編集長
ホワイトハウスで専用ヘリコプターを降りるトランプ米大統領(写真:ロイター/アフロ)

北朝鮮情勢をめぐって日本や韓国で緊迫した情勢が報じられる中、米トランプ政権は外交努力によって北朝鮮の暴発を封じる方向に舵を切ったようだ。米主要メディアが報じた。

日本と韓国を訪れているマイク・ペンス副大統領は、「もう戦略的忍耐の時期は過ぎた」と述べた上で、「あらゆる選択肢がある」と軍事的な選択肢が検討されていることを示唆した。しかし、現実には米政府は既に北朝鮮を先制攻撃するといった選択肢を排除しているようだ。ワシントンポスト紙が19日、これまでの取材を総括する形で伝えた。

(参考記事:米トランプ政権が北朝鮮と初の「協議」へ~トランプの米国とどう向き合うか? (33))

記事は、「米政府の(北朝鮮に対する)厳しい言葉が軍事行動を起こすかのような誤った印象を与えた」と題して一連の北朝鮮情勢を振り返る形で書かれており、トランプ政権が北朝鮮に核を放棄させることを目指した外交努力に重点を置く方向に舵を切ったと伝えている

そして、この数週間のトランプ政権から発せられた発言について、「厳しい言葉が北朝鮮の暴走を止める効果を持つと(トランプ政権が当初)期待していたこと」と、「北朝鮮に対する有効な対策が無いという現実」を浮かび上がらせただけだったと指摘した。

記事は、トランプ政権の今後の北朝鮮政策について、外交努力で圧力をかけて核保有を放棄させるオバマ政権時代の政策の延長上の内容になると記している。

(参考記事:米主要テレビが韓国の米軍基地から中継特番 北朝鮮脅威論を反映か)

一時期は、米メディアでも緊張を煽るような内容の報道が目立ったが、ここに来て、各社、冷静な報道になっている。

ニューヨークタイムズ紙は19日、北朝鮮に核の放棄をさせるには、体制を脅かすような軍事力の行使を示唆するのではなく、平和的な共存を前提とした外交努力を行うしかないとするコラムを掲載した。

(参考記事:北朝鮮報道に求められるファクトチェック)

コラムを執筆したのは米国務省で北朝鮮政策を担ってきたジョエル・ウイット氏。この中でウイット氏は、北朝鮮政府は、リビアのカダフィ政権の崩壊を見て米軍の軍事的な脅威から体制を守るために核開発を進めてきたと説明。米政府が軍事力の行使を示唆して圧力をかけようとしても、それによって核を放棄することは考えられないと指摘。北朝鮮が核を放棄する環境を作り出すしか現実的な選択はないとして、トランプ政権に対して、早期に国連などを通じて北朝鮮の外交当局と交渉を開始するよう求めた。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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