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ささやかれ始めた「ロシアの狙いはトランプ大統領のゴルバチョフ化」

立岩陽一郎InFact編集長
建設中の空母「フォード」で演説するトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

内部告発サイト「ウィキリークス」が米情報機関CIAの機密情報とされるものを公表したことについて、米国メディアは信ぴょう性が高いと判断している。その上で、背後でロシア政府が暗躍しているとの見方を示すメディアが多い。ロシア政府をめぐっては、異常な頻度でのトランプ政権幹部への接触が明らかになっており、米国では米新政権に対して攻勢に出ているとの見方が広まっている。こうした中、首都ワシントンでロシア政府の思惑がささやかれ始めている。それは、「トランプ大統領のゴルバチョフ化」だという。

●ウィキリークスのCIA情報暴露

ウィキリークスが公開したのは、CIAが米アップルや米グーグルのスマートフォンや韓国・サムスン製のスマートテレビなどを通じて、その場の会話やメールをハッキングしているとの内容。CIAはその真偽についてコメントしていないが、米国のメディアは信ぴょう性は高いとして連日、その影響などを報じている。

ウィキリークスは、入手したドキュメントは8761点にのぼり、それらは米政府の元職員か元契約職員から得たとしている。しかし、米メディアの多くは背後にロシア政府の関与が有るとの見方を示しており、8日のワシントン・ポスト紙は、「ロシア政府とウィキリークスとの結びつきから見て、ロシア政府が情報源であっても驚かない」と指摘している。

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか? (6)~トランプ米次期大統領に情報機関は何を語ったのか?)

●トランプ政権に頻繁に接触するロシア政府

ロシア政府をめぐっては、トランプ政権への頻繁な接触が指摘されている。トランプ大統領を取材するワシントンの雑誌記者も、「ロシア政府のトランプ政権への接触は異常だ。その接触の幅と頻度は過去にはないと思う」と話している。そして、ロシア政府がトランプ政権に対して様々な働きかけを行うことで外交上、有利に運ぼうとしているのではないかと推測している。

こうした中、ロシア政府には1つ狙いが有るのではないかとワシントンでささやかれ始めている。

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか? (3)~米トランプ新政権を揺るがすロシアとの関係)]

●狙うは米国の弱体化

ロシア外交の専門家で米国務省に知己の多いアメリカン大学のキース・ダーデン教授はその狙いに早くから言及してきた。

「ロシアの狙いは、トランプ大統領のゴルバチョフ化だ」

次の様に話す。

「ゴルバチョフというと西側ではロシアに民主化をもたらした偉大な人物と言う風にみられるが、ロシア側から見たらとんでもない話で、ゴルバチョフはロシアの弱体化を招いた人間以外のなにものでもない。東欧圏のみならず旧ソ連を崩壊させた張本人であり、その後のロシアの長い低迷を作り出した人物だ。今、ロシア政府がトランプ大統領に求めているのは、まさに、ゴルバチョフになることだ」

その狙いは、当然・・・。

「米国の弱体化だ。分断し、弱体化させる。NATOとの関係に関して言えば、トランプ大統領の発言は見事にロシアの外交政策と合致している。」

(参考記事:安倍総理帰国後のトランプ大統領を襲った側近のスキャンダル~トランプの米国とどう向き合うか? (29))

勿論、トランプ大統領が米国の弱体化を目指しているわけではない。トランプ大統領が自らゴルバチョフ化しようとは思っている筈がない。しかし、とダーデン教授は言う。

「トランプ大統領が好んでゴルバチョフのようになろうとしているとは思わない。ただ、このままいくと、米国はゴルバチョフが導いた道に向かうということだ」

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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