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トランプ政権下で噂される国務省の機能不全 日米関係にも影響の懸念

立岩陽一郎InFact編集長
メキシコ訪問に向かうレックス・テラーソン米国務長官(写真:ロイター/アフロ)

トランプ政権が米国に発足して1か月余りが過ぎたが、最重要閣僚の1人であるセッションズ司法長官に公表されていなかったロシアとの接触が明らかになるなど、混乱が続いている。そうした中、もう1つ、懸念されていることがある。外交を担当する国務省が機能していないのではないかとの指摘が出ているのだ。

●目立たない新国務長官

レックス・ティラーソン国務長長官は欧州訪問から戻り、懸案を抱えているメキシコ訪問も行った。しかしメキシコ訪問は壁の費用負担に端を発してメキシコ大統領がトランプ大統領との会談をキャンセルした為に行われたもので、大統領の尻拭いに近い。外相会談でも一方的に非難され、弁明だけが目立つ訪問で終わった。

https://www.state.gov/

新国務長官は先の欧州訪問でも目立った成果が伝わっていない。トランプ大統領が安倍総理、カナダのトルドー首相らと会談した際にも同席していない。国務省の存在がほとんど見えない異例の状態だ。

●定例会見も開かれず

そもそも発信がほとんど無い状態だ。国務長官の国務省内での定例会見も一度も開かれていない。長く政府官庁を取材している公共放送NPRの記者は次の様に話す。

「国務長官の会見というのは世界中が注目する内容なのだが、それが一度も開かれていないというのは異様だ」

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか? (22)~ケネディ前駐日大使、トランプ大統領の外交政策に憂慮示す)

ワシントン・ポスト紙は、「ロシア、エジプトの首脳との会談内容が、国務省から出てこずに、相手国が地元のメディアに語って明らかになるという状態だ」と、米国と比べて報道の自由が認められていない国の方が情報を出していると皮肉って書いている。

●外交の継続に懸念 対日外交にも影響か

既に外交に支障が出ているという声もあがっている。3月に行われると見られていた北朝鮮との非公式な接触が、最後の最後でキャンセルとなる異例の事態が起きているが、国務省が関与していなかったからとの指摘も出ている。こうしたことから、対日外交を含めた米国の外交政策に懸念を示す声が米国の外交関係者の間で出ている。米国の元外交官は次の様に話す。

「トランプ政権は外交をホワイト・ハウスで行おうとしている感じだ。しかしそうなると、外交が国内政治の延長で行われる可能性が高い。また、トップ、つまり大統領の思いつきや思い込みで外交政策が立案される恐れが有る。詳しくはわからないが、先の北朝鮮外交官へのビザの発給もそうではないかと思う。そもそも、あのタイミングでビザを出すという判断をするのもおかしいし、出すと決めた後に判断を変えるのも外交上は極めてマイナスだ。外交の鉄則は継続性だ。それを国務省は常にやっているわけで、今のままだと混乱しか生じないのではないか」

その上で、日米関係についても警鐘を鳴らす。

「先の首脳会談を受けて日本側は日米関係は良好だと考えているかもしれない。しかしホワイト・ハウス主導の外交となると、大統領が世論を見て政策をうつ恐れが有るので、世論の動向次第でどうなるかわからない。例えば、今回のセッションズ司法長官の件で世論が政権に批判的になってきたとしよう。そうすれば、目先を変えるためにターゲットを探すことは十分あり得る。そのターゲットが日本になることだって考えられる

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか? (27)~「トランプ船に乗った安倍総理」 米ジャーナリストから見た日米首脳会談)

※元外交官のコメントは本人からの申し出で、一部修正しています。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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