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米トランプ政権、初軍事作戦でつまずき 戦死した米兵の父親が「バカげた作戦」と批判

立岩陽一郎InFact編集長
初の議会演説を行う米トランプ大統領 後はペンス副大統領とライアン下院議長(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

議会での初めての演説で米軍の強化を強調したトランプ大統領。国防予算を大幅に増やし最強の米軍を実現するという。しかし、就任直後に行ったイエメンでの地上部隊を使った軍事作戦で早くもつまずきを見せており、「軍の最高司令官」としての資質を疑問視する指摘も出始めている。

トランプ大統領は28日に、大統領として初めての議会演説を行った。ここで特に時間をかけたのが、米軍の強化とともに、ある軍事作戦の成功を強調することだった。

それはトランプ大統領が就任して5日目にイエメンに米海軍の特殊部隊SEALSを投入して行ったもので、トランプ大統領が了承した最初の軍事作戦となった。イエメン国内に潜伏するアルカイダの基地を襲撃するものだったと見られているが詳細は明らかにされていない。この作戦で、SEALSのライアン・オーエン隊員が死亡した他、作戦機1機を失っている。

(参考記事:沖縄で密かに行われていた陸自-米海兵隊合同訓練 米軍映像で確認 進む日米軍事一体化、沖縄でも

議会での演説の場にはオーエン隊員の未亡人が招待され、大統領は「オーエン隊員は英雄だ」と称えた。テレビの中継では涙をぬぐい亡き夫に語り掛けているかのような彼女の姿が何度も映し出された。

しかし、実はこの作戦にはその当初から疑問符がつきまとっている。

死亡したのはオーエン隊員だけではない。イエメン人の側では13歳以下の子供9人を含む少なくとも25人が死亡したと見られている。米軍人が死亡したのみならずイエメンの一般人を巻き込んだ作戦に、どのような意味が有ったのかという指摘が出ているのだ。

こうした中、オーエン隊員の父親がマイアミ・ヘラルド紙の取材に応じて、「政権が発足して1週間にもならない段階でなぜこんなバカげた作戦をやらなければいけなかったのか」と話し、トランプ政権の対応を批判した。

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか? (12)~トランプ大統領就任前夜祭に見る米国の分裂」)

演説でトランプ大統領は、この作戦によって様々な情報を入手できたと強調した。しかしNBCテレビは、作戦について知る複数の関係者からの情報として、そうした事実はないと見られると報じている。専門家の中からも、軍事作戦がどのようなものだったのか事実関係を明らかにするよう求める声が上がっている。

トランプ大統領は日本円にして6兆円を超える予算を国防関連予算に上乗せする予算案をまとめるなど、軍事力の強化に力を入れる姿勢を明確にしている。しかし、最初に承認した軍事作戦でつまずきを見せた形だ。

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか? (6)~トランプ米次期大統領に情報機関は何を語ったのか?)

この問題についてはワシントン・ポスト紙の記者は次の様に話している。

「トランプ大統領は、一方で作戦は成功だったと主張したかと思うと、この作戦はオバマ政権から引き継いだものだという釈明をしたりしており、こういう点も、大統領としての資質に疑問の声が出る点だろう。大統領というのは、軍の最高指揮官であり、作戦の責任をとることが求められている。作戦はどうだったのか?成功しなければ成功しないで、その責任は当然、負わねばならない」

ワシントン・ポスト紙によると、オバマ政権の当時の担当者は、この作戦をオバマ政権下で了承した事実はないとしている。

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか? (10)~トランプ次期大統領に同盟国防衛で有力紙が苦言? )

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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