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トランプ大統領の取り締まり部隊「ICE」 その名の通り冷徹との指摘

立岩陽一郎InFact編集長
ホワイトハウスに入るトランプ米大統領(写真:ロイター/アフロ)

就任1か月となるものの混乱が続くトランプ政権。こうした中で、不法入国者への取り締まりは急速に強化されている。その中心にいるのは「アイス」と呼ばれる部隊で、その問答無用な冷徹な捜査が、「まるで氷の様だ」との指摘まで出ている。

「アイスにまた強襲されたらしい」

「またか」

「アイスの奴ら、何でもやるらしい。誰構わず逮捕するそうだ」

「まさに、アイスだ。冷徹そのものじゃないか」

米国とメキシコの国境の街では今、「アイス」という言葉が人々の会話にのぼる。

アイスとは、ICE。Immigration and Customs Enforcementのことだ。訳せば「入国管理・税関捜査局」ということだろうが、誰もが「アイス」と呼ぶ。その捜査機関がトランプ政権になって活発な動きを見せているのは、メキシコとの国境を抱えるカリフォルニア州やテキサス州だ。

https://www.ice.gov/about

政権発足後1か月となるトランプ政権は混乱している様に見えるが、特に中南米からの不法入国者に対する取り締まりは急速に強化されている。

その先兵がこのICEだ。組織の創設は以前からで911の事件を受けて国家安全保障省傘下の捜査機関として2003年に設置された。これまであまり注目されなかったのは、書類の無い違法な入国者であっても、犯罪に絡んでいなければ摘発の対象とはしないなど抑制的な運用が行われてきたからだ。

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか? (25)~”トランプ大統領!米国はグローバル化しているって、でまかせですよ”リポートを米有力紙掲載)

しかし、トランプ大統領が1月25日に出した国境管理に関する大統領令で、ICEの性格は大きく変わった。それは、犯罪に絡む対象という従来の解釈を拡大解釈し、事実上、入国書類の揃っていない人の全てを摘発の対象としたからだ。これを受けて2月20日に出された国家安全保障省のジョン・ケリー長官の通達は、書類の無い入国者については基本的に逮捕、拘留、そして送還を徹底するようICEをはじめとする関係当局に命じている。

「南部国境地帯での違法入国者の増加はこの地域一帯の組織犯罪の増加をもたらしている」

ケリー長官はこう断じて、国境警備関連で1万5000人を増員するなど更にICEの体制を強化することも明らかにしている。ICEは既に2万人の職員を抱える。これは捜査機関としてはFBIに次ぐ規模だが、それを更に増強するということだ。

当然、人権団体からは懸念の声が出ている。テキサス州で書類の無い入国者の人権問題に取り組んでいる市民グループの関係者は次の様に話す。

(参考記事:トランプ大統領に毅然とした姿勢を見せた独首相)

「これまでは犯罪に絡んだ人を摘発するということで、我々も実際には協力してきたのだが、今は違う。いきなり捜査官がやってきて、真面目に働いている入国者を次々に逮捕していってしまう。これまで真面目に働いてメキシコに仕送りをしていただけの人たちだ」

特に問答無用といったICEの捜査に懸念を持っている。

「誰でも彼でも逮捕しているといった感じだ。これはこの国の従来の人権感覚からはかなりずれた行動だ。トランプ大統領にとってICEは、ヒトラーの親衛隊のような存在なんじゃないか。摘発の対象がどこまで拡がるのか。そんな不安を感じている人は多い」

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか? (19)~トランプ大統領のイスラム入国制限に「利益相反」の指摘も)

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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