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日米会談どころではなくなってきたトランプ大統領

立岩陽一郎InFact編集長
連邦地裁の決定を受け米国各地の空港で再会の場面が繰り広げられている(写真:ロイター/アフロ)

イスラム教を主要な教義とする7ヵ国からの移民、難民の入国を制限したトランプ大統領の大統領令は現在、控訴審で審理が続いている。実はその決定が、日米首脳会談のタイミングと重なる可能性が高まっている。控訴審でどちらが勝とうが最高裁判所に持ち込まれるのは確実で、トランプ大統領としては日米関係に意識を向けられるような状況ではない。

●大統領側に厳しい質問が続く控訴審

大統領令は、連邦地裁のジェームズ・ロバート判事が差し止める判断を下したため、7ヵ国からの入国が再開されている。米国のテレビは連日、空港での家族の再会の映像などを流している。

大統領令については、トランプ政権側が地裁の判断を不服として控訴しており、現在、控訴審での審理が続いているが、その内容をワシントン・ポスト紙が書いている。

審理には政権側から司法省の弁護士などが出廷。日本の高裁判事にあたる控訴審裁判所の判事からは、かなり厳しい質問が浴びせられているという。

判事の1人は、対象となった7ヵ国とテロとの具体的な関係を示す資料の提示を求めたという。また、別の判事は、過去にも入国者の審査が行われていたにも関わらず、それだけでは危険だと判断する根拠を具体的に説明するように求めたという。

●安倍総理の訪米と重なる控訴審の判断時期

控訴審判事は、遅くとも10日までに判断を示すと話しているということで、判断の時期が安倍総理の訪米と重なるタイミングとなりそうだ。

長く裁判所を取材している米国の新聞記者は、「どちらが勝とうとも、最高裁に持ち込まれることになるが、控訴審で大統領側が負けた場合、大統領令は事実上、効力を失うと見られている」と話す。

(参考記事:名誉毀損か言論封殺か DHC吉田会長訴訟始まる  被告が反論「社会的強者が批判を嫌っての訴訟」)

それは次のような説明になるという。

最高裁判事は9人で構成されるが、現在は去年2月に死亡したアントニン・スカリア判事のポストが欠員となっているため8人しかいない。その内訳は、共和党の大統領が指名した4人と民主党の大統領が指名した4人に分かれるため、恐らく結論が出ず、一審に差し戻される可能性が極めて高い。そうなると、判断するのは地裁で差し止める判断を示したロバート判事になるというから、大統領令を無効とする判断は必至だ。

●日米関係をアピールできない可能性

それだけではないとこの新聞記者は話す。

この問題をめぐってトランプ大統領が地裁のロバート判事をツイートで批判したことが、司法の独立を認めない発言だとして問題となっているという。トランプ大統領は、スカリア判事の後任として保守派のゴーサッチ判事を指名しているが、民主党が態度を硬化させており、任命に黄信号が灯る事態に発展しているという。最高裁判所を味方につけたいトランプ大統領としては大きな戦略の見直しを迫られる事態だ。

(参考記事:米記者から「出来レース」批判された安倍首相国連会見

安倍総理としてはこの機会に日米関係の緊密さを世界にアピールしたいところだ。しかし、トランプ大統領は、「心ここにあらず」の状態だ。また、共同記者会見が開かれても、米国の記者の質問がこの大統領令の問題に集中するのは必至だ。日米関係について質問するのは日本から随行する日本人記者だけというさびしいものになりそうだ。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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