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トランプ大統領のイスラム入国制限に「利益相反」の指摘も

立岩陽一郎InFact編集長
空港で大統領令に抗議する人々(写真:ロイター/アフロ)

イスラム教徒が多数を占める7ヵ国からの入国を制限したトランプ大統領令は全米で大きな反発を呼び、新聞もテレビも各地で起きている抗議活動を伝えている。こうした中、この命令について大統領がかねてから問題視されている「利益相反」の疑いを指摘する声が出てきている。

●制限対象国からのテロ実行犯入国の記録はない

トランプ大統領が発した大統領令では、イラン、イラク、シリア、イエメン、リビア、スーダン、ソマリアの7ヵ国からの難民などの入国を一定期間禁じるとしている。これについて各地で人種差別だとして抗議行動が起きており、連邦議会では、国籍によって移民の入国を差別することを禁じた1965年の移民国籍法に違反するとして、大統領令の撤回を求める動きも出ている。

こうした中、ワシントン・ポスト紙は30日の紙面で、2001年の「911」以降に米国で起きたテロ活動に関わった人物の国籍を掲載。それによると、サウジアラビアが15人、アラブ首長国連邦とエジプトが2人、レバノン、クウェート、キルギスタン、パキスタンが1人などとなっていて、今回制限対象となっている7ヵ国とテロとの関係を示す記録は無いとしている。

●大統領令とトランプ大統領のビジネスとの関係?

このうちサウジアラビア、アラブ首長国連邦、エジプトは、トランプ大統領がホテル事業などを展開していることが知られており、この点について最初に報じたニューヨーク・タイムズは、大統領令が制限対象とした国は何れもトランプ大統領がビジネスを行っていない国としている。

トランプ大統領は一連の批判に対して、「ニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストは間違っている」とメディア批判を展開するなど強気な姿勢を示している。

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか? (12)~トランプ大統領就任前夜祭に見る米国の分裂」)

「利益相反」は、大統領自身の私的な利益と大統領として本来推し進めなければならない政策との間に相反する状況が生じること。各国でビジネスを展開してきたトランプ大統領には当初からこの問題について懸念の声が出ており、政権の火種と見られている。今後、この問題が更にクローズアップされることで、軸足を置いている保守派からの支持も得にくくなるかもしれない。

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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