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米トランプ新政権を揺るがすロシアとの関係

立岩陽一郎InFact編集長
大統領就任前の会合に出るトランプ次期大統領(写真:ロイター/アフロ)

ドナルド・トランプ氏の第45代米大統領就任まで秒読み段階となった。しかし、ここにきて、新政権の今後を揺るがしかねない動きが出てきた。ロシアとの関係だ。情報機関のトップの議会証言が波紋を呼んでいる。(ワシントンDC/立岩陽一郎)

「とても高いと言ってよいでしょう。」

5日、米上院軍事委員会で開かれた公聴会。出席したジェームズ・クラッパー国家情報担当長官(DNI)が語った言葉は波紋を呼んでいる。

クラッパー長官が質問されたのは、ロシア政府がサイバー攻撃をアメリカの大統領選挙に絡んでしかけた可能性についてだった。クラッパー長官の答えは明確だった。クラッパー長官はオバマ政権の情報機関のトップ。CIA長官が情報を出す先でもあり、アメリカの情報機関の全ての情報を把握する立場にある。クラッパー長官は次の様にも話し、情報の信ぴょう性を強調。

「情報を判断する上で慎重であるべきという意味での懐疑主義は必要でしょうが、これと情報を信用せずにただ単に非難することとは区別すべきです。」

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか)

坊主頭が禅僧のようにも見えるクラッパー長官は、ゆっくりとした噛みしめるような口調で言葉を続けた。クラッパー長官の発言は次期大統領にとって好ましいものではない。

それについて問われたクラッパー長官は、次の様に言った。

「私には何の問題もない。」

一連のサイバー攻撃については、民主党のクリントン陣営のメールが外部に漏れ、それがウィキリークスを通じて公にされたことなどが指摘されている。このメール流失がどれだけ選挙結果に影響を与えたかは明確ではない。トランプ氏は、ロシア政府の関与に懐疑的な姿勢を示した上で、どのようなことが起きていようとも選挙結果に影響を与えていないと主張。

しかし、民主・共和の両党から、「選挙結果云々ではなく、外国政府が我が国の選挙に関与した疑いが浮上すれば調査するのは当然だ」との声が出ている。委員長を務める共和党の重鎮、ジョン・マケイン議員も、「他の国が我が国の選挙に影響を行使することは有ってはならない」とこの問題を更に追及していく必要性が有ると話している。

翌日6日のワシントン・ポスト紙は、情報当局の幹部の話として、トランプ氏が選挙に勝利した際に、ロシア政権の幹部が勝利を祝ったと報じている。記事によると、勝利を祝った幹部の中に今回のサイバー攻撃に関わった人物も含まれているとのことだ。

選挙時から米ロ関係の改善をうたってきたトランプだが、こうなるとその発言も素直に頷けなくなってくるかもしれない。トランプ氏は過去にロシアでビジネス展開を模索したことがあり、自身が運営権を持つミス・ユニバースをモスクワで開くなどしている。ワシントン・ポスト紙がまとめた本によると、この際に、プーチン大統領から感謝のメッセージが寄せられたという。

(参考記事:トランプの米国とどう向き合うか? (2) トランプ勝利を予言した米紙の記事)

トランプ氏のロシアでのビジネスについては選挙戦の最中から、CIAなどの情報機関側から懸念が示されていた。仮にトランプ氏が大統領になった場合、どこまで情報を上げて良いのかわからないと困惑の声が当時から出ていたという。

既にトランプ陣営の政権移行チームで主要メンバーだったジェームズ・ウォールジー元CIA長官が陣営から去ることを言明。トランプ氏と情報機関との軋轢に辟易したというのが観測だ。

こうした中でのクラッパー長官の証言だけに、ロシアがトランプ政権のアキレス腱になるとの見方が首都ワシントンで出てきている。トランプ氏の大統領就任式は現地時間の1月20日午前9時から始まる。注目の宣誓は、正午に予定されている

InFact編集長

InFact編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「NHK記者がNHKを取材した」、「ファクトチェック・ニッポン」、「トランプ王国の素顔」など多数。日刊ゲンダイにコラムを連載中。

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