現代の市場や社会において、経営者やリーダーが体得すべき戦略思考とは、何か。

 永年、経営の現場で戦略参謀の仕事に携わってきたが、その答えは明確である。

 それは、「粘り腰」と「したたかさ」の戦略思考であろう。

 なぜなら、現代の予測不可能な市場や社会においては、

 どれほど考え抜いて立案した戦略でも、「的外れ」になることが多いからである。

 では、その戦略は「的外れ」になった瞬間に、失敗か。

 そうではない。実は、その瞬間からが、本当の勝負。

 では、「粘り腰」の戦略思考とは、何か。

 それは、「二の矢、三の矢」の戦略思考のことである。

 的を狙って放った「一の矢」が外れた。

 その瞬間に、第二、第三の打ち手を準備してある戦略思考。

 それが、「粘り腰」の戦略思考である。

 それゆえ、この戦略思考を体得した経営者やリーダーが使う常套句は、

 「こんなこともあろうかと…」という言葉である。

 しかし、この「二の矢、三の矢」の戦略思考は、

 戦略思考のプロからすれば、初級課程と呼ぶべき常識であろう。

 では、中級課程の戦略思考とは、何か。

 それが、「したたかさ」の戦略思考である。

 言葉を換えれば、それは「二の的、三の的」の戦略思考と呼ぶべきものである。

 的を狙って放った「一の矢」が外れた。

 そのとき、「一の的」は外したが、それでも決して諦めず、

 その矢で、したたかに、「二の的」「三の的」を射抜くことを狙う。

 その戦略思考である。

 例えば、高齢者向け新事業開発の戦略が失敗する。

 三年間で収益化の目標を達成できず、事業からの撤退を決めた。

 そのとき、事業に携わった部下に、何と語るか。

 「ご苦労様。皆、よく頑張ってくれた。」という言葉では、あまりに淡白。

 そうではない。語るべきは、次の言葉であろう。

 「この事業は失敗したが、君たちは、高齢者市場について徹底的に学んだ。

 だから、その知識と智恵を、今後、当社の事業に活かしてくれ」

 「この事業開発に取り組むなかで、君たちは、異業種各社との関係や人脈を築いた」

 「この斬新な事業企画は、マスメディアも注目し、業界でも評判になった」

 「三年間の悪戦苦闘を通じて、君たちは、当社に『挑戦する文化』を育ててくれた」

 語るべきは、そうした言葉であろう。

 すなわち、この事業において、「目に見える収益」は得られなかったが、

 それを単なる失敗に終わらせず、

 「市場に関する知識」や「異業種企業との関係」、

 「世の中での評判」や「組織の新たな文化」といった「目に見えない資産」を、

 したたかに獲得するという戦略思考である。

 では、経営者やリーダーは、なぜ、こうした戦略思考を体得しなければならないのか。

 それは、経営資源の有効活用のためだけではない。

 それは、いかなる経営戦略にも、

 そこにかけがえの無い人生の時間を賭ける社員がいるからである。

 されば、その社員の人生の時間を、決して無駄にしない。

 その覚悟を定めたとき、初めて、経営者やリーダーの戦略思考というものに、

 命が宿るのであろう。

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 2003 年 2 月 6 日、東洋経済新報社 より上梓した、

 『経営者が語るべき「言霊」とは何か-リーダーの「言葉の力」が企業を変える』 

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 では、「重層的な戦略思考」と共に、経営者が持つべき「言葉の力」について

 語りました。

 興味のある方は、お読みください。