『成長の技法』第3回 | 「師匠」を見つけて私淑し、同じ部屋の空気を吸う

田坂教授に聞く「知的プロフェッショナル 成長の技法」

「師匠」を見つけて私淑し、同じ部屋の空気を吸う

――:この「知的プロフェッショナル 成長の技法」の連続インタビュー

第2回において、田坂教授は、

「反省」を通じて、「経験」を「体験」にまで高める

ということの大切さを語り、

「経験」から「智恵」を掴む技法について語られました。

では、「智恵」を掴む技法としては、

他にどのようなものがあるのでしょうか?

田坂:最初に申し上げたように、

「智恵」とは言葉で表せないものであるため、

「書物」から学ぶことはできません。

そのため、「経験」から掴むという技法が重要になるのですが、

もう一つ重要な技法があります。

それは、「人間」から学ぶという技法です。

すなわち、過去の豊かな経験から優れた智恵を身につけた人物を見つけ、

その人物から智恵を学ぶという技法です。

言葉を換えれば、「師匠」を見つけ、学ぶということです。

――:「師匠」を見つけ、学ぶことですか?

「師匠」と言うと、古い「徒弟制」のような響きがありますが、

それは現代においても重要なのでしょうか?

田坂:重要です。いや、「師匠」と巡り会うことは、

プロフェッショナルとして成長していくために、不可欠の条件と言っても良い。

なぜなら、分野を問わず、成功している一流のプロフェッショナルには、

若き日に、必ず「師匠」がいたからです。

一流のプロフェッショナルに、「プロとして成長することができた理由」を聞くと、

ほとんどの場合、かつて巡り会った「師匠」の名前が挙がります。

「私が今日あるのは、若い時代に巡り会った、あの人のお陰です。

あの人から、本当に色々なことを学ぶことができた」

「あの師匠に出会わなかったら、ここまで来ることはできなかったでしょう。

その意味では、私は運が良かった」

一流のプロフェッショナルは、

ほとんどの人が、そういった主旨のことを語ります。

ただし、この言葉に、

これも必ずと言って良いほど、次のような言葉が付け加わります。

「しかし、あの師匠は、本当に仕事に厳しかったな…。

何度も逃げ出そうと思いましたよ」

「あの師匠は、仕事では、鬼だったな…。

辛かったけど、お陰で、プロフェッショナルとして、

仕事に対する厳しい姿勢を学ぶことができました」

――:なるほど、一流のプロフェッショナルは、

若い時代に、必ず「優れた師匠」と巡り会っていると…。

しかも、多くの場合、それは「鬼の師匠」だったりする…。

田坂:プロフェッショナルにとって「師匠」の存在は、不可欠です。

なぜなら、プロフェッショナルとして、本当に「一流の智恵」を掴もうと思ったら、

単に「経験」を重ね、「反省」し、

それを「体験」に高めるだけの「自己学習」には、限界があるからです。

やはり、プロフェッショナルの「先達」の姿から学ぶ、

「師匠」の姿から学ぶということが不可欠です。

――:なるほど、プロフェッショナルとして成長するためには、

「師匠」と巡り会うことが不可欠だという意味は分かりました。

しかし、「師匠」を見つけ、学ぶのに、「技法」が必要なのでしょうか?

田坂:必要です。

その「技法」、すなわち、「師匠を見つけ、学ぶ技法」を身につけていないと、

せっかく優れたプロフェッショナルと巡り会っても、

その人物から「何も学ばない」ということが起こります。

実際、しばしば目にするのは、

仕事の現場における、こうした奇妙な状況です。

例えば、ある職場に、田中という営業マネジャーがいる。

彼は、社内外で高い評価を得ているベテランの営業プロフェッショナルです。

彼に、「営業プロフェッショナルとしての智恵を、どこで学んだか?」と聞くと、

「若い頃に仕えた上司の、鈴木営業課長が、私の師匠でしたね…」と答える。

しかし、よく考えてみると、

かつて、その鈴木営業課長の下で仕事をした若手は、

田中氏だけではなかったはずです。

他にも、数多くの若手社員が、鈴木課長の薫陶を受けたはずなのです。

それにもかかわらず、他の若手社員の誰もが、

田中氏のように、一流の営業プロフェッショナルになっているわけではない。

では、なぜ、こうしたことが起こるのか?

その理由は、いくつかありますが、一つの大きな理由は、

田中氏が「師匠を見つけ、学ぶための技法」を身につけていたからでしょう。

――:それは、どのような技法でしょうか?

田坂:いくつもの技法がありますが、

今回は、五つの技法を述べておきましょう。

まず、第一は、

「師匠を見つけ、私淑する」

という技法です。

すなわち、職場の上司や先輩を見渡し、仕事で付き合いのある人々を見渡し、

「この人のプロフェッショナルの智恵は、凄い」と思ったら、

心の中で

「このプロフェッショナルの智恵については、この人が私の師匠だ」と思い定め、

その人の仕事のスタイルやスキル、センス、テクニック、ノウハウを意識的に観察し、

徹底的に学ぶことです。

――:それが「私淑」と呼ばれるものですね?

田坂:そうです。

現代においては、公に師匠と弟子の関係を結ぶ「弟子入り」などのスタイルは、

あまり流行りません。

現代では、「弟子入り」を希望されたならば、

多くのプロフェッショナルは、おそらく、

「師匠になること」を、辞退されるでしょう。

だから、現代においては、

「心の中で師匠と思い定め、密かに学ぶ」という

「私淑」のスタイルが望ましいでしょう。

――:では、第二の技法は?

田坂:第二は、

「一芸を学ぶ」

という技法です。

すなわち、

「この人からは、このプロフェッショナルの智恵を、徹底的に学ぼう」という形で、

具体的な学びの課題を定め、一つひとつの智恵を掴んでいくことです。

なぜ、この技法が重要かというと、

優れたプロフェッショナルに巡り会うと、

若い人は、そのプロフェッショナルの「全体」に憧れ、

「この人が師匠だ」と思い込めば、

それだけで智恵を掴めると錯覚するからです。

しかし、プロフェッショナルの智恵を掴むには、

「具体的に、どのスキルを掴みたいのか」

「具体的に、どのノウハウを身につけたいのか」

という問題意識を明確にしなければ、智恵は掴めません。

例えば、優れたプロフェッショナルに巡り会ったとき、

「この人から、色々と学びたい」という形で、抽象的な願望を抱くのではなく、

「この人のプレゼンスキルを学ぼう」

「この人の企画センスを学ぼう」

「この人の営業テクニックを学ぼう」

「この人の交渉ノウハウを学ぼう」

という形で具体的な目標を設定しなければ、学びの効果は決して上がりません。

そして、この「一芸を学ぶ」というスタイルは、

別な意味でも、重要です。

なぜなら、「師匠」というと、

「全人的に尊敬できる人」という捉え方をしてしまう人がいるからです。

もとより、そうした「全人的に尊敬できる師匠」に巡り会えるならば、

それは素晴らしいことですが、

実際には、誰もが生身の人間であり、

何がしか「人間としての短所」を持っています。

そのため、「師匠」を探し、私淑するとき、

「全人的に尊敬できる人」を求めてしまうと、

なかなか、そうした「理想的な師匠」には、巡り会うことができません。

従って、「一芸を学ぶ」という心構えが、重要なのです。

人間として色々な欠点のある人でも、

その欠点に目を奪われて「この人からは学びたくない」と思ってしまうと、

プロフェッショナルとして成長できません。

むしろ、

「この人の、このスキルは見事だ。これだけは、しっかり学ぼう」

という謙虚な姿勢を持つことが、私淑において重要なのです。

――:では、第三の技法は?

田坂:第三は、

「真似ることを通じて、自分の個性を掴む」

という技法です。

すなわち、師匠から「学ぶ」とは、

しばしば言われるように「真似ぶ」ことであり、

「真似をする」ことでもあります。

その意味で、まず、師匠のスキルやセンス、テクニックやノウハウを、

素直に真似してみることが、学びの第一歩として不可欠です。

しかし、ここで肝に銘じておかなければならないことがあります。

実は、「真似をする」ことの本当の意味は、

「真似をして、真似できないもの」を知ることにあるのです。

例えば、見事なリズム感でプレゼンをする先輩のスキルを学ぼうと思い、

そのリズム感を真似しようとする。

しかし、なかなかうまく真似できない。

うまく真似したつもりが、「猿真似」になってしまう。

こうした経験は、誰にもあるのではないでしょうか?

実は、こうしたプロセスを通じて、

我々は、自分の「個性」を掴んでいくのです。

先ほどの例で言えば、身体的なリズム感の良い先輩のプレゼンは、

自分では真似できないということを知ることによって、

自分の個性に合ったプレゼンのスタイルを発見していくのです。

例えば、リズム感の良いプレゼンで勝負するのではなく、

静かだが信頼感のある話し方でのプレゼンのスタイルを身につけていく、

温かい人柄が伝わる、ほのぼのとしたスタイルのプレゼンを磨いていく、

などの方法です。

すなわち、それが

「真似ることを通じて、自分の個性を掴む」ということの意味です。

――:なるほど、では、その「師匠との個性の違い」を、

どのようにして知るのですか?

田坂:それが、第四の技法です。

すなわち、

「プロフェッショナルの全体バランスを観る」

という技法です。

例えば、一人のプロフェッショナルが見事なプレゼンテーションを行っているとき、

それは、単に「話術が優れているから」や、

「パワーポイントの使い方がうまいから」といった

一つのスキルやテクニックによって成功しているわけではないのです。

実は、成功するプロフェッショナルは、

様々なスキル、センス、テクニック、ノウハウを身につけており、

その「全体バランス」が良いのです。

例えば、

力強いプレゼンで聴衆をぐいぐい引っ張っていくタイプのプロフェッショナルは、

「大柄で背筋の伸びた姿勢」「良く通る声」

「信念に満ちた眼差し」「力強い身振り手振り」

「印象的なスライド」「筋の通った説得力ある言葉」

などの「全体バランス」が見事なのです。

すなわち、優れたプロフェッショナルから智恵を学ぼうと思うならば、

こうした

「様々なスキルやセンス、テクニックやノウハウの組み合わせの全体バランス」

を学ぶ必要があるのです。

逆に言えば、「小柄」で「声の通らない人」が、

このプロフェッショナルの「背筋の伸びた姿勢」や

「力強い身振り手振り」だけを表面的に真似しても、

まさに「様にならない」のです。

そして、そのようなバランスの崩れた状態こそが、

しばしば「猿真似」と呼ばれる姿なのです。

むしろ、こうした人は、

「温かい眼差し」「聴衆を包み込むような仕草」

「イメージを伝えるスライド」「深く問いかける言葉」

などの全体バランスで勝負をする方が良いのかもしれないのです。

先ほど述べた、「真似ることを通じて、自分の個性を掴む」とは、

まさにこうした意味であり、

その自分の個性を知るためには、

「プロフェッショナルの全体バランスを観る」ことが重要なのです。

――:なるほど。では、第五の技法は何でしょうか?

田坂:第五は、

「師匠とは、同じ部屋の空気を吸え」

という技法です。

――:「同じ部屋の空気を吸え」ですか?

田坂:そうです。この言葉の意味は、

師匠のプロフェッショナルの智恵を学ぶためには、

単に「師匠がプロの智恵を発揮している瞬間」にだけ、同席するのではなく、

日常の生活も、できるだけ共にして、

「同じ部屋の空気を吸う」ことが大切だという意味です。

その理由は、「同じ部屋の空気を吸う」ことによって、

師匠が発揮するスキル、センス、テクニック、ノウハウという「技術」の奥にある、

もう一つの大切なものを知ることができるからです。

それが、「心得」と呼ばれるもの、

マインド、ハート、スピリット、パーソナリティと呼ばれるものです。

すなわち、一流のプロフェッショナルは、

ただ優れたスキルやセンス、テクニックやノウハウを身につけているだけでなく、

優れたマインドやハート、スピリットやパーソナリティを身につけています。

優れた「技術」だけでなく、

優れた「心得」を身につけているのです。

例えば、師匠の「信念に満ちた眼差し」の背後には、

他人の意見に虚心に耳を傾ける謙虚な人柄があり、

それがあるからこそ、この師匠の力強いプレゼンテーションが、

「独善的なプレゼン」「高圧的なプレゼン」に陥らないことを

知ることができます。

また、師匠の「聴衆を包み込むような仕草」の背後には、

周囲に細やかに気を配る人間としての優しさがあり、

それがあるからこそ、この師匠のプレゼンテーションが、

「聴衆に媚びたプレゼン」「演技過剰のプレゼン」に見えないことを、

知ることができるのです。

すなわち、我々が、

人生で巡り会った優れたプロフェッショナルを、

「師匠」として「私淑」し、

その「プロフェッショナルの智恵」を掴もうと思うならば、

ただスキルやセンス、テクニックやノウハウという

「技の世界」を学ぶだけでは不十分なのです。

人生において、優れたプロフェッショナルと巡り会い、

その人物を師匠として深く学ぼうと思うならば、

その人物の、細やかなマインドや熱いハート、

強靭なスピリットや深みあるパーソナリティなど、

すなわち、「心の世界」をこそ、深く学ばなければならないのです。

そして、それが、昔から我が国において語り継がれてきた

「仕事を通じて、己を磨く」

という言葉が、真に意味するものなのです。

では、どのようにすれば、我々は、

仕事を通じて己を磨き、「心の世界」を深めていくことができるのか。

次回、第4回は、そのことを述べたいと思います。

テーマは、

会議においては、議論の奥の「心の動き」を深く読む

です。

また、2014年5月15日に上梓した新著、

『知性を磨く 「スーパージェネラリスト」の時代』では、

今回お話した成長の技法

「師匠を見つけ、学ぶ技法」を始めとして、

「私淑すべき師匠」は、「成長を求める心」が引き寄せる

「出会い」であることを語りました。

ご興味のある方は、お読みください。

http://www.amazon.co.jp/dp/4334038018/