『成長の技法』第1回 | 書物で学んだ「知識」と、経験で掴んだ「智恵」を区別する

田坂教授に聞く「知的プロフェッショナル 成長の技法」

第1回 書物で学んだ「知識」と、経験で掴んだ「智恵」を区別する

――:田坂教授は、

1980年代には世界最大の技術系シンクタンク、

バテル記念研究所で客員研究員として働き、

帰国後、90年代には日本総合研究所を設立されるなど、

知的プロフェッショナルとしての道を歩んで来られたわけですが、

今回の連続インタビューでは、

「知的プロフェッショナル 成長の技法」というテーマで、

ビジネスパーソンが、プロフェッショナルとして成長していくには

どうすれば良いかについて伺いたいと思います。

田坂:私は、これまで、

『知的プロフェッショナルへの戦略』(講談社)や

『プロフェッショナル進化論』(PHPビジネス新書)、

『成長し続けるための77の言葉』(PHP研究所)などの著書において、

プロフェッショナルとして成長するために必要なことを語っていますが、

今回は、そうした著書に書かなかったことも含めて、述べてみたいと思います。

今回の連続インタビューのテーマは、

「プロフェッショナルとして成長していくにはどうすればよいか」

ということですが、

「成長していく」ために、まず最初に理解すべきは、

成長には、「成長の技法」と呼ぶべきものがあるということです。

――:成長には「技法」があるのですか?

田坂:ええ、あるのです。

多くの人は、本を読み、経験を積み、人から学べば、

誰でも自然に成長すると思っていますが、

実は、この「成長の技法」を知っているか、知らないかで、

その成長に、圧倒的な差がついてしまうのです。

――:では、その「成長の技法」を、

今回の連続インタビューでは、6回に分けて、詳しく伺いたいと思うのですが、

まず、「技法」とは、「技術」と何が違うのでしょうか?

田坂:大切な質問と思います。

端的に言えば、「技法」とは、

単なる「技術」だけでなく「心得」を含んだものです。

「技術」とは、

英語で言えば、スキル、センス、テクニック、ノウハウと呼ばれるものですが、

「心得」とは、

英語では、マインド、ハート、スピリット、パーソナリティと呼ばれるものであり、

日本語では、「心構え」「心の姿勢」「心の置き所」などと呼ばれるものです。

そして、「技法」とは、

英語で言えば「アート」と呼ぶべきものであり、

「技術」と「心得」が結びついたものです。

そのことを、最初に理解しておいて頂きたいのです。

――:では、その「成長の技法」とは?

田坂:まず、この第1回において申し上げたいのは、次の「技法」です。

書物で学んだ「知識」と、経験で掴んだ「智恵」を区別する。

このことを、心に刻んで頂きたいのです。

――:「知識」と「智恵」、この二つは、どう違うのでしょうか?

田坂:「知識」とは、

言葉で表せるものであり、書物やウェブで学ぶことのできるものです。

これに対して「智恵」とは、本来、言葉で表せないものであり、

経験や人間を通じてしか掴めないものです。

そして、優れたプロフェッショナルの「力量」とは、

どれほど多くの本を読み、どれほど多くの「知識」を学んだかではなく、

どれほど豊かな経験を積み、そこからどれほど深い「智恵」を掴んだかなのです。

従って、我々がプロフェッショナルとして成長していこうと思うならば、

まず最初に理解すべきは、この「知識」と「智恵」の違いを理解することです。

――:なぜ、「知識」と「智恵」を区別することが大切なのでしょうか?

田坂:優秀な若いビジネスパーソンの多くが陥ってしまう過ちがあるからです。

書物で「知識」を学んで、「智恵」を掴んだと思い込む。

その過ちです。

例えば、営業のプロフェッショナルとして修行をしていくとき、

磨くべき大切な力量の一つは、「顧客の心の動きを感じ取る力」です。

私自身は、若き日に民間企業で営業の世界を歩んだ人間であり、

永年、この修行をさせて頂き、

後に『営業力』(ダイヤモンド社)という本を書いた一人のプロフェッショナルですが、

仮に私が、講義で

「営業プロフェッショナルとして成長するには、

顧客の心の動きを感じ取る力を磨かなければならない」

と語ったとします。

その瞬間に、この言葉を一生懸命にノートに書き取ったとしても、

そして、それを何回も読み直したとしても、

それは、ただ、

「営業プロフェッショナルとして成長するには、

顧客の心の動きを感じ取る力を磨かなければならない」という言葉を、

単なる「知識」として学んだに過ぎません。

本当に伸びる若手ビジネスパーソンは、

こうした言葉をノートに書き取ることに一生懸命になるタイプではなく、

「走馬灯」が頭を駆け巡るタイプです。

――:「走馬灯」ですか?

田坂:つまり、過去に自分が経験した様々なシーンが、

「走馬灯」のように、頭の中に浮かんでくるタイプです。

例えば、昨日の商談のシーンが脳裏に蘇り、

「あのとき、お客様がわずかに首をかしげたのは、

やはり、当社の商品説明に納得していなかったのか…」

「あのときのお客様の誉め言葉は、

その後、商談を打ち切るとき、雰囲気を悪くしないための言葉だったのか…」

といった回想をするタイプです。

こうしたタイプのビジネスパーソンは、

いま語られた「プロフェッショナルの智恵の言葉」を、

自身の過去の経験と重ね合わせ、「追体験」を通じて、

その「智恵」を掴み取ろうとする姿勢を持っています。

それゆえ、「智恵の言葉」を学ぶたびに、プロフェッショナルとして成長していきます。

――:では、成長しないタイプとは?

田坂:先ほども申し上げたように、

先輩のプロフェッショナルが「智恵の言葉」を語ったとき、

それを単なる「知識」として理解しただけで、

その「智恵」を掴んでいると勘違いするタイプです。

例えば、プロフェッショナルの先輩が、ある日、

「営業のプロは、顧客の心の動きを感じ取ることができなければならない」

と語ったとします。

数日後、別な先輩が、

「顧客の心を感じる力が無ければ、営業はできない」と述べたとき、

「ああ、そのことは分かっています」といって、

それ以上深く考えようとしないタイプです。

これは、典型的な、

「知識」を学んだだけで、「智恵」を掴んだと思い込むタイプです。

――:そうした若手ビジネスパーソンが、増えているような気がしますが…

田坂:たしかに、そうしたビジネスパーソンは増えています。

やはり、本を読んで身につけた「知識」によって

人間としての能力が評価される「知識偏向・偏差値教育」を永く受けてくると、

実社会に出ても、「知識」として学んだだけで、

自分の能力が高まったと思い込む意識が染みついてしまっているのでしょう。

従って、こうした傾向は、

やはり、偏差値の高い大学を出た、

俗に「勉強のできるタイプ」のビジネスパーソンに多いと思います。

しかし、当然のことながら、

こうしたタイプの若手ビジネスパーソンは、

実社会のプロフェッショナルの世界に投げ出されると、全く通用しないため、

上司や先輩から、「頭でっかち」や「小賢しい」という

芳しくない評価をされる結果になってしまいます。

――:たしかに、そうした若手ビジネスパーソンの例は少なくないですね。

しかし、20代に仕事の経験を重ね、30代を迎えた中堅のビジネスパーソンは、

既に、そうした壁に突き当たって、

経験から掴む「智恵」の大切さを理解しているのではないでしょうか?

田坂:たしかに、30代を迎えると、経験から掴む「智恵」の大切さは、

感覚的には理解できるようになってきます。

しかし、書物で「知識」を学ぶということと、

経験から「智恵」を掴むということを明確に区別し、

プロフェッショナルとしての修行をしている30代、40代のビジネスパーソンは、

実はあまり多くないのです。

そして、そのことが、

30代、40代のビジネスパーソンの「プロフェッショナルとしての成長」に、

壁を作ってしまっているのです。

――:では、「知識」と「智恵」を明確に区別すると、

何が違ってくるのでしょうか?

田坂:まず、本の読み方が違ってきます。

一冊の本を手に取ったとき、

その著者が、単なる「知識」で何かを語っているのか、

豊かな経験から掴んだ「智恵」を背景に何かを語ろうとしているのかが、

明瞭に分かるようになります。

そうしたことは、

著者の経歴を語った「本の奥付」を読んでも、ある程度、分かりますが、

何よりも、そうした問題意識を持って本を読むと、

「本の行間」から伝わってくるようになります。

特に、若手のビジネスパーソンは、

まずは最低限の「専門的な知識」を身につけることが求められますので、

「知識」が語られているだけの本を読むことにも意味がありますが、

30代から40代の中堅のビジネスパーソンは、

もはや、単なる「専門的な知識」を学んだだけでは仕事の役に立たず、

「職業的な智恵」を身につけ、それを磨くことが求められますので、

本を読むときにも、著者が単なる「知識」を語っているのか、

深い「智恵」を語っているのかを見分ける能力が重要になります。

そして、当然のことながら、

中堅のビジネスパーソンは、

過去の豊かな経験から深い「智恵」を掴んだ

プロフェッショナルが書いた本を読むべきですが、

そのとき大切なのが、先ほど述べた「走馬灯リーディング」です。

すなわち、その本で語られている「智恵の言葉」と、

自分の「過去の経験」を重ね合わせながら、読み進むというスタイルです。

――:なるほど、「走馬灯リーディング」ですね。

田坂:そして、プロフェッショナルの書いた本を読むとき、

決して忘れてはならない、もう一つの技法があります。

「即実践リーディング」です。

すなわち、その本を読んで「なるほど」と感じることがあったら、

その日の仕事や翌日の仕事において、

「すぐに実践してみる」というスタイルです。

これを行わないと、どれほど優れたプロフェッショナルの書いた本を読み、

どれほど多く「智恵の言葉」を読んでも、

結局、単なる「知識」としてしか頭に残りません。

もともと、「智恵」とは言葉で表せないものですので、

プロフェッショナルの語る「智恵の言葉」とは、

正確に言えば、「智恵そのものを伝える言葉」ではなく、

「智恵を掴む方法を語った言葉」なのです。

例えば、話術のプロフェッショナルが、

その著書で「話術の要諦は、間の使い方である」と語っていたとします。

この言葉は、極めて重要なことを語っていますが、

この言葉を読んだだけでは、

ただ「話術の要諦は、間の使い方である」という「知識」を学んだにすぎない。

この言葉に従って、翌日の顧客へのプレゼンのとき、

「間」を意識しながら話をするという「実践」を行ったとき、

初めて、このプロフェッショナルの伝えようとする「智恵」を掴めるのであり、

「体得」できるのです。

そもそも、いま世の中に、「プロフェッショナル論」の本が溢れ、

「プロフェッショナルの語る言葉」が溢れているにもかかわらず、

実際に優れたプロフェッショナルになるビジネスパーソンが少ない理由は、

究極、その一点です。

要するに、この「走馬灯リーディング」や

「即実践リーディング」を行わないからです。

そのため、折角、プロフェッショナルが語った「智恵の言葉」も、

単なる「知識」として頭に残っているだけに終わってしまうからです。

優れたプロフェッショナルの書いた本を読むときには、

敢えて言えば、百個の「智恵の言葉」を記憶するよりも、

ただ一つの「智恵の言葉」を実践することの方が、はるかに意味があるのです。

私は、毎週火曜日の夜、3時間、多摩大学大学院で講義を行っていますが、

そこでは、一人のプロフェッショナルとして、

受講生に、かつて自分が掴んだ「智恵の言葉」を語っています。

この講義において、最後に必ず付け加えるのは、

「本日の講義で、心に残った言葉があったならば、

明日、必ず、職場で実践してください」ということです。

――:なるほど、「知識」と「智恵」の区別をすることは、

本を読むときにも、極めて重要なのですね。

田坂:そうです。しかし、「知識」と「智恵」の区別をすることは、

「本を読む」ときだけでなく、

「言葉を語る」ときにも、極めて重要な意味があります。

すなわち、プロフェッショナルとして成長をしたいならば、

誰かに何かを語っているとき、

「自分の語っていることは、書物で学んだ単なる『知識』なのか、

経験から掴んだ『智恵』なのか」を自覚しながら語ることです。

――:その心得を実践すると、何が変わるのでしょうか?

田坂:語る言葉が、「重く」なります。

逆に言えば、プロフェッショナルの世界においては、

単なる「知識」だけを語っている人間の言葉は、

「軽い」と感じられてしまうのです。

しかも、怖いことに、多くの場合、

単なる「知識」だけを語っている人間は、

自分の言葉が「軽い」と思われていることに、気がつかない。

逆に、豊かな経験を通じて掴んだ「智恵」を語る人間は、

たとえ口数が少なくとも、弁が達者でなくとも、

言葉が「重い」のです。

それが、プロフェッショナルの世界の真実です。

――:それは、たしかに怖いことですね。

田坂:しかし、もし、あるビジネスパーソンが、

経験から掴んだ「智恵」を語ることを心掛けたならば、

言葉が「重く」なる結果、もう一つの優れた力量を身につけます。

それは、「説得力」です。

世の中には、

「説得力とは、論理的に語る力のことだ」

といった表層的な理解が溢れていますが、

プロフェッショナルの世界では、

論理的に語っただけでは、説得力は生まれません。

そのことは、かつて

『なぜ、マネジメントが壁に突き当たるのか』(PHP文庫)という著書において、

「なぜ、論理的な人間が、社内を説得できないのか」

という逆説として語りましたが、

実は、現実のビジネスの世界での「説得力」とは、

そのビジネスパーソンの語る言葉の「重さ」なのです。

すなわち、論理と知識で仕事をする「学問の世界」とは異なり、

経験と智恵で仕事をする「ビジネスの世界」では、

経験に基づいて語られる「智恵の言葉」は、「重み」があるため、

その人物への「信頼」を生み出すのです。

そして、その「人物への信頼」こそが、

最大の「説得力」になるのです。

――:なるほど、「知識」と「智恵」を区別して語ることによって、

言葉が「重く」なり、「信頼感」と「説得力」が生まれてくるのですね。

さて、この第1回のインタビューにおいては、

書物で学んだ「知識」 と、経験で掴んだ「智恵」を区別する。

というテーマで語って頂きましたが、

経験から掴む「智恵」の大切さは、よく分かりました。

では、そもそも、

その「智恵」を、経験の中から、

どのようにして掴めば良いのでしょうか?

田坂:そのことは、次回、第2回以降、順次、話をしていこうと思います。

第2回のテーマは、

「反省」を通じて、「経験」を「体験」にまで高める。

です。

また、2014年5月15日に上梓した新著、

『知性を磨く 「スーパージェネラリスト」の時代』では、

今回お話した成長の技法

「知識と智恵の違いを区別すること」を始めとして、

「智恵」を掴むことを通じて「知性」を磨いていくための、

様々な技法を語りました。

ご興味のある方は、お読みください。

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