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#SoundCloud 存続への安堵と、モバイルライフの継続可能性のコストについて

松村太郎ジャーナリスト/iU 専任教員
追加出資で存続が可能となったSoundCloud

友人にミュージシャンやPodcastを配信している人も多いのですが、彼らの8月11日までの関心事は、自分たちの活動の場がきちんと存続するかどうか、でした。40万人のクリエイターと2億人のリスナーを抱え、音楽や音声の配信サービスとして地位を築いているサービス「SoundCloud」が、約1億7000万ドルの出資を受け、ユーザーからはひとまず安堵の声が漏れました。

SoundCloud

TechCrunch: SoundCloudに土壇場で救いの手 - LjungはCEOから退く

2007年にスウェーデン・ストックホルムで発案され、2008年にドイツ・ベルリンで創業したSoundCloudは、資金が底をつき、追加出資がなければ存続できない、という段階にありました。今回出資したのはニューヨークのメディア専門の投資会社Raine Groupと、シンガポールの国営ファンドTamaskだそうです。その結果、7億ドルあった評価額は1億5000万ドルへと落ち、既存株主の優先権は40%減額されるなど、厳しい評価が下されました。

今回の出資で、創業者でCEOだったアレクサンダー・リュング氏は会長に退き、動画配信サービスのVimeoのCEOだったケリー・トレイナー氏を新たなCEOに迎えることになりました。年間1億ドルあるといわれる売上高からすれば、サービスの存続や発展、あるいはより大きな企業による買収は可能だと思いますが、今年の初め、Spotifyからの買収提案は退けており、評価額が下がり、体制が変わって、今後どうなっていくのか、その先行きに注目しています。

SoundCloudの無二性

それでも、既存株主が受け入れたのは、もちろん投資額が0になるよりマシ、という部分もありますが、「なくなっては困るサービス」というお金以外の評価もあるのではないか、と思いました。

例えば、いま、毎週1時間のPodcast番組を始めようと考えた時、自分の音声ファイルをホストするリーズナブルなサービスを比較すると、SoundCloudに行き着いてしまいます。

確かにYouTubeやニコニコ動画なども選択肢にあがるかもしれませんし、例えばYouTubeの場合、膨大なライブラリからBGMを利用できる、といったメリットもあるのですが、Podcastというスタイルでの配信可能性を考えると、やっぱりSoundCloudが簡単だと思いました。

SoundCloudで配信している番組のRSSをiTunes(Apple Podcast)やGoogle Play Musicに登録することができ、またSoundCloud上で直接、あるいは埋め込みプレイヤーとしてブログやSNS上で聞いてもらうこともできます。この辺りも扱いやすいと思う理由だと思いますし、「変わりがないサービス」だと思いました。

楽曲を制作している人にとっては、モバイルアプリで手軽に聞いてもらえたり、トラックの特定の箇所にコメントを残せる機能があるSoundCloudは、やはり他のサービスと比較しても聞いてもらいやすい環境と言えます。

幅広い「サステイナビリティ」の模索の時期

自分が制作したコンテンツの置き場所は、実はインターネットでは重要な関心事であり続けます。例えば写真の場合、Flickrが重宝されていましたが米Yahoo!に買収され、そのYahoo!が重大なセキュリティ問題を起こし、またVerizonに買収され、ちょっと心もとなくなってきてしまいました。

個人的には、サムネイル版をGoogle Photosへ、MacのフォトライブラリはiCloudフォトライブラリでバックアップを取りつつ、ある程度サイズが大きくなったら、OneDriveにアーカイブする、という方法を取っています。

完全にFlickrを信用していない、ということがわかりますが、Flickrはフル解像度の写真をやりとりしたり、公開できる点、また一眼レフを買った頃からの写真が全部保存されている点で、なかなか捨てられない部分もありますが。

Twitterも、業績面、月間ユーザー数などの面では、後から出てきた写真系のサービスに追い越されてしまっています。ただ、米国で暮らしていると特に、「すでになくてはならないサービス」になったと感じる瞬間が多々あります。だからといって、個人的にTwitterにお金を払う方法は広告出稿ぐらいなもので。

また、ブログ@tarositeをホストしているブログサービスMediumにも有料プランが用意されました。現状、読む人のためのプランであるため加入していませんが、書き手のための広告以外のサービスが提供されるなら、おそらく加入することになるでしょう。

普段自分が使っているサービス、重宝していて多くの人が「なくなっては困る」と感じるサービスは、巨大なマネタイズの可能性がある一方で、現状、あるいは将来にわたって、ビジネス的にうまくことを運べるわけではない、というのがジレンマです。

先日ご紹介した、愛用中のエディタアプリ「Ulysses」が売り切り制からサブスクリプション制へと移行した話も、なくなっては困るサービスとして、どうサービスを維持するか、という議論だと思います。

https://news.yahoo.co.jp/byline/taromatsumura/20170811-00074391/

一方でフリーミアムモデルは初めから、なくなっては困る状態までユーザーを囲い込んで、その人たちからお金を取る、というモデルで、結果としてその方が、存続性が高いのかもしれない、とも思うようになりました。

ただ、必需品となるサービスが次々に有料化していく流れは、単純な「モバイルライフのコスト増加」を意味するわけで、有限の戦略であることは間違いありません。

ジャーナリスト/iU 専任教員

1980年東京生まれ。モバイル・ソーシャルを中心とした新しいメディアとライフスタイル・ワークスタイルの関係をテーマに取材・執筆を行う他、企業のアドバイザリーや企画を手がける。2020年よりiU 情報経営イノベーション専門職大学で、デザイン思考、ビジネスフレームワーク、ケーススタディ、クリエイティブの教鞭を執る。

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米国カリフォルニア州バークレー在住の松村太郎が、東京・米国西海岸の2つの視点から、テクノロジーやカルチャーの今とこれからを分かりやすく読み解きます。毎回のテーマは、モバイル、ソーシャルなどのテクノロジービジネス、日本と米国西海岸が関係するカルチャー、これらが多面的に関連するライフスタイルなど、双方の生活者の視点でご紹介します。テーマのリクエストも受け付けています。

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