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難しい運用が続くiMessage、3つの重要性について

松村太郎ジャーナリスト/iU 専任教員
iMessageはチャットのようなライブ感とSMSのような通知機能を併せ持つ。

AppleのiMessageのサービスが、先週末再び不安定な状況に陥りました。これで、9月、10月、そして今回の11月と3ヶ月連続、4回の障害が起きている点が報じられました。いずれも、iMessage経由でメッセージが送信されないという問題に直面していました。

現在は復旧していますが、筆者も家族との間で、あるいは日米間のテキストメッセージで大活用しているので、調子が悪いと非常に不便を感じているひとりです。しかし、Appleにとっても、この障害は停滞ものです。「iMessageのサービスを行っている意味」に関わるからです。

そもそも、iMessageとは?

iMessageは、iPhoneやiPad、MacなどのApple製品の間でショートメッセージがやりとりできるサービスです。iPad miniを発表した2012年10月23日のプレスイベントで、Apple CEOのTim Cook氏はiMessageの規模について「iMessageは3000億通送信された。1秒に2万8000通が送られている」と指摘しています。

電話番号を持っているiPhoneだけでなく、iPod touch、iPad、MacでもiCloudアカウントを利用してメッセージが送信出来る機能。文字だけでなく写真や動画、地図上の場所の情報などを送信することができます。

iMessageで送信出来ているかどうかの簡単な確認方法として、iPhoneやiPadなどのメッセージアプリで、送信ボタンが「青」になっていればiMessage経由で送信出来る状態。iPhoneで緑になっている場合はText(SMS)経由で課金されます。

重要性1:お金をかけずに活発なコミュニケーション

これはユーザーにとってのメリットです。

日本からはイマイチ分かりにくいiMessageの市場性を指摘するとすれば、Text(SMS)課金の回避です。Textとは、米国で依然重要なコミュニケーションツールである、160文字以内の電話番号を利用したショートメッセージのことです。

日本では1999年のiモード以来、パケット通信を利用したいわゆる「ケータイメール」が利用されてきました。そのため、メールのしすぎで「パケ死」の原因にもなりましたが、現在はパケット定額制が普及したため、ケータイメール1通の通信量を意識しながら使うこともなくなったのではないでしょうか。

しかし米国では、通常、Text1通を送受信すると0.20ドル(約16円)がかかります。Verizon Wirelessの場合、月額10ドルで1000通までの送受信までカバーされるプラン、20ドルで無制限になるプランがあり、携帯電話会社の収益源として重視されてきました。

ユーザーのニーズはもっと安いメッセージングを、という点でした。そこで欧州や米国ではWhat's App、韓国ではKakao Talkなど、第1世代のメッセージングアプリがありましたが、Facebookメッセージも強化され、これとは別のアプローチとしてLINEも登場しています。iMessageが狙っているのもこの市場です。

iMessageは、Wi-Fiやデータ通信などを利用してメッセージを送るため、データ契約をしているユーザーは、1通ずつにTextの送受信料を払わなくても良くなるメリットがあります。Facebookメッセンジャーなどと違い、電話番号をそのまま認識してiMessageを送受信してくれるため、より簡単にText料金を節約できるiMessageは重宝するのです。

また、iMessageを利用すると、国際間TextもWi-Fiやデータ通信料でまかなうことが出来るので、さらに大幅な料金の節約になります。

重要性2:電話番号とデバイスの種類に縛られず、コミュニケーションを行える

もう1つ、筆者が重宝している理由は、電話番号に縛られず、ショートメッセージのコミュニケーションが可能な点です。

これまでケータイメールやSMSは電話番号と紐付いており、SIMカードを利用する電話会社であれば、そのSIMが刺さっている携帯電話でのみ送受信が出来ました。iモードなどのメールはウェブアクセスも可能になっていますが、メール着信時に通知されないなど、使い勝手の違いがありました。

iMessageの場合、同じiCloudカウントでログインしていれば、電話番号宛に届くメッセージも含めて、iPhoneだけでなくiPadやMacでも受信できる点は非常に重宝しています。今手元で見ているデバイスからメッセージの送受信が可能な点は、非常に便利なポイントです。これらの点は、LINEやFacebookなどの他のメッセージサービスとも共通です。

筆者の場合、日本と米国の電話番号を利用しており、いる国によって送信元の番号が変わってしまう可能性があるため、始めからiCloudのメールアドレスを送信元アドレスとしてiMessageを使っています。

電話番号や端末から切り離して、モバイルのメッセージングが扱えるようになるというメリットを享受することが出来るのです。しかし一方で、別のものに縛られている事に気付かされます。

重要性3:Appleデバイスに縛ることができる

Appleにとってのメリットは、iMessageでのコミュニケーションの充実によって、ユーザーをiOS/OS Xデバイスに縛ることが出来るようになる点です。この戦略は、最新型のスマートフォンで苦戦を強いられているResearch In MotionのBlackBerryからの教訓があると考えています。

筆者が住んでいるBerkeleyには、中南米や中東からたくさんの留学生がやってきます。彼らはiPhoneやAndroidなどの最新のスマートフォンにも興味がありますが、母国とのコミュニケーションで利用しているのはBlackBerryでした。その理由も、メッセージング機能です。

BlackBerryには、「BlackBerry Messenger」(BBM)と呼ばれる専用のメッセージングサービスがあり、BlackBerry端末に縛られつつも、国内外とのメッセージングの通信料(Text送受信料)をかけずにやりとりが出来るため「手放せない」と話します。

iPhoneもAndroid勢に大きく追い込まれているポジションにあります。Appleの学びは、このメッセージングの利便性からユーザーにAppleデバイスを使い続けてもらう動機を作れないか、ということです。

そういう意味で、今回立て続けに起きるiMessageの通信障害は、非常に問題であることがわかります。信頼性の確保を最優先に取り組んでユーザーの利用拡大をいっそう図らなければなりません。なにより特に日本では、ケータイメール、LINE、Facebookなど、乱立するメッセージングサービスの中で、AppleがiMessageをきちんとユーザーに設定してもらうことから始める必要があるでしょう。

ジャーナリスト/iU 専任教員

1980年東京生まれ。モバイル・ソーシャルを中心とした新しいメディアとライフスタイル・ワークスタイルの関係をテーマに取材・執筆を行う他、企業のアドバイザリーや企画を手がける。2020年よりiU 情報経営イノベーション専門職大学で、デザイン思考、ビジネスフレームワーク、ケーススタディ、クリエイティブの教鞭を執る。

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米国カリフォルニア州バークレー在住の松村太郎が、東京・米国西海岸の2つの視点から、テクノロジーやカルチャーの今とこれからを分かりやすく読み解きます。毎回のテーマは、モバイル、ソーシャルなどのテクノロジービジネス、日本と米国西海岸が関係するカルチャー、これらが多面的に関連するライフスタイルなど、双方の生活者の視点でご紹介します。テーマのリクエストも受け付けています。

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