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悠仁さま筑附進学で「推薦で東大進学を目指す」と考えにくい「非御用達」「地方生」「女性」獲得という方針

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
一部のうわさは本当なのか(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 悠仁さまがお茶の水女子大学附属中学から「提携校進学制度」で都内有数の進学校である筑波大学附属高校(略称「筑附」)へと進学されるとわかりました。同制度を「悠仁さま用」と疑問視する声もさることながら筑附がコンスタントに東京大学へ毎年2ケタの合格者を出しているからか「推薦入試制度で東大を目指すのでは」という声がネット上で結構見られます。

 そこで「提携校進学制度」のありようをざっと振り返った後に東大の推薦制度を紹介しつつ可能性を探ってみました。結論からいうと「可能性ゼロではないが考えにくい」です。

奇異とまではいえない「提携校進学制度」

 まず悠仁さまが利用した「提携校進学制度」。お茶の水女子大附属中(共学)・高(女子のみ)と筑波大学附属中・高(共学)との間で2017年から5年間の予定(延長されるもよう)で締結された転入出のルールを指します。

 「5年間」がちょうど悠仁さまの中高進学時と重なるため当初から「悠仁さまのための制度ではないか」とうわさされていたのです。お茶の水女子附属の高校は女子のみしか内部進学できないため同制度を用いて筑波大附属高校へと進学を決められました。

 両校は高等師範学校を共にルーツとし、附属校の立地もほぼ隣なので提携校になっておかしくない経緯はあります。お茶からは男子の受け皿を、筑附は小中高への進学でエスカレーターを保証されていないので女子の受け皿を、それぞれ求めたとみなせば全くもって奇異とまではいえないのです。

近年の国立大学附属校のあり方と比すれば異例とも

 国立大学附属の多くは教員養成を主たる目的とした設置者の大学が、いわばその実践校として設けています。お茶の水女子大学と筑波大学は教員養成系学部を持ちませんが、他の国立大学附属と同じく多くの教育実習生を受け入れるなど似た役割を果たしているのです。

 中学までしかない横浜国立大学附属が連携校として神奈川県立光陵高校を事実上の附属化しているといったケースは他にもあります。また地方の国立大附属の多くが進学校のため、附属高校を持たないと内申などで公立高校への進学が優遇されるといったところも。なお「附属高校」があっても設置者の国立大学への内部進学制度はほとんどありません。

 ただ近年では内申での優遇や、わずかに残る国立大への内進制度も廃止・縮小ないしは見直される方向です。法人の異なるお茶と筑波の間で限定して附属校生を転入出させる制度の新設は逆行するので、この点のみとらえれば異例かもしれません。

一般選抜より難しそうな「推薦での東大合格」

 筑附が有数の進学校であるため早くも「悠仁さまを東大に入れるステップでは」との声も。勉強して一般選抜を突破するならば何のかんのとイチャモンを付けるいわれはないのですが一部からは「学校推薦型を用いて東大を狙う」との憶測も出ています。これは現実的なのでしょうか。

 結論からいうと2016年に始まった東大推薦は「一般選抜で十分に合格できる学力保持者」でないと難しいといえます。

 東大がかたくなに拒んできた推薦を始めた最大の動機は「後期日程廃止」です。本来、一般選抜で2度のチャンスを保障する制度ながら、設計時点から「前期日程敗北者の救済措置」との印象を嫌っていました。といって単に廃止したら趣旨にもとるので前期試験の前に「ある入試制度」を置き代替したという形がほしかったのです。

 首都圏で東大の併願先とみなされやすい大学と比較すれば一目瞭然。

 東京工業大学……2012年度に推薦入試を始める代わりに後期日程をほぼ廃止

 東京大学……2016年度に推薦入試を始める代わりに後期日程を廃止

 一橋大学……2018年度に推薦入試を大幅拡充した代わりに経済学部以外の後期日程を廃止

 推薦は学力レベルが云々されがちであった後期日程の代わりですから当然「学力が低い」を入学させる設計にはなっていません。現に東大の推薦枠は100人で募集人員ベースでたった3.3%。しかも1度として100を満たしておらず要項の「合格者が募集人員に満たない場合には、原則として、残余の募集人員は前期日程試験の募集人員に繰り入れます」が実行されたとみられています。

共通テスト「概ね8割」プラス「卓越した能力」が必要

 具体的にどう「一般選抜より難しい」か。まず推薦といえども大学入学共通テスト(共通テスト)を課している点。基本的に5教科受験で「入学後の学修を円滑に行い得る基礎学力を有しているかどうかを判断する観点から、概ね8割以上の得点であることを目安」とします。前期日程の1次選考ラインは大きく超えたレベル。「概ね」という言葉について推薦が始まった時点での説明会で執拗ともいえる「具体的には?」との質問に最後まで口を濁していました。もっとも大幅に下回っては不合格でしょう。

 加えて「卓越した能力」の持ち主でなければなりません。例えば「学業成績が高校の上位概ね5%以内(法学部)」。筑附の1学年は240人だから上位12人。一般選抜の現役東大合格者約24人より難しい。他も「数学オリンピックなどの科学オリンピックで顕著な成績」(経済学部)、「国際的もしくは全国的なコンクールやコンテストでの受賞歴」(教育学部)、「商品レベルのソフトウェア開発経験者」(理学部)、「TOEFL iBT 100 点以上」(医学部医学科)などなど。

悠仁さまは推薦でほしい人材像と正反対の立ち位置

 むしろ超難関の筑附を選んだ方が東大推薦に不利へ働く可能性すらあります。東大の形式は「学校推薦型」といって学校長が1校のうち共学だと4人まで(うち男女3人まで)選べます。男子校・女子校は各々3人まで。この時点で筑附から現役で東大に受かる人数より推薦される方がはるかにハードルが高いのです。

 最大の動機が「後期日程廃止」であったとしても新たな制度を設ける以上、他の理由もあります。それは「御用達校以外」「女性」「地方出身者」がほしいという目的でした。

 東大は長らく「御用達校出身の男性ばかり」という学生構成を何とかしたいと願っていたのです。開成高校を筆頭に合格者数の高校別上位ランキングには首都圏に主に立地する男子校がズラッと並び、男女比は8対2といびつな形となっています。

 そこで推薦には多様性の促進を掲げました。男子校は4人でなく3人と減らしているのも、高校別としているのも御用達でない地方から、できれば女性の募集がほしいという目的が明白です。

 結果もほぼそうなっています。女性の合格者が4割を超え、首都圏以外が過半数を占めているのです。

 筑附は御用達とまでいわなくとも立派に上位20校以内。首都圏も首都圏の文京区にあって悠仁さまはいうまでもなく男性。東大が推薦で求めている人材層とは正反対となります。

 救いがあるとすれば「多様性」。次代の天皇位継承者は唯一だから迎えれば多様性を広げるとはいえそうです。

むしろ学習院高等科に進んだ方が東大推薦を狙えそう

 学校ごとに最大4人の縛りがかかっているならば、むしろ学習院高等科に進んだ方が東大推薦を狙えそうともいえます。確かに筑附はコンスタントに推薦合格者を出しているとはいえ「最大4人(男子だと3人)までしか受けられない」はどこも変わりません。

 学習院も優秀な教育機関です。ただ設立の経緯から皇族や旧華族の子弟が幼稚園から多く在籍しています。特に幼稚園からエスカレーターで大学まで進める東京の有名校は他に青山学院ぐらいしかない人気校で理屈をいえば皇族といえども落ちる可能性はあるはずなのに皆無(らしい)です。

 この件でいくら取材を敢行しても徹底的にノーコメント。面白いのはここを不公平と憤る声をほとんど聞かない点。小中高には「平民」も多数いて皇族の日常もよく知っているはずですけど同窓生に聞いても習ったかのように上手にはぐらかされます。

 学習院高等科は男子校だから東大推薦の枠は3。学校推薦型で挑戦すると決めた時点で学習院大学への内部推薦は取り消される(はず)も、仮に悠仁さまが実行して残念な結果に終わったとしても大学はきっと何らかの方法で受け入れましょう(推測です)。おそらくそれを国民が目くじら立てて批判もしますまい。なぜならば「学習院だから」。

 あれこれ考え合わせると東大推薦を狙うのを最上の目的として悠仁さまが筑附に進む必然性はほとんどなく、むしろ学習院高等科の方が何かと都合がいい。してみると存外単純に1人の成績優秀者が普通に歩む道を選択しているだけかもしれません。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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